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1-3 化け物ふたり

「これはまた、えらく趣味が変わったネ。

四百年も会わないなら趣味も変わって当然カ」

部屋の中を見渡しながらドーラは言う。

虎の毛皮でできた絨毯や、なめらかな白いなめらかな曲線の陶器が並べられていた。

一言でいうのなら異国情緒あふれているといったところか。

「あなたが眠っている四百年の間に世の中の文化はずいぶんと変わりました」

その部屋には東の大陸から取り寄せられたという屏風や調度品が置かれていた。

「これは鹿の剥製カイ?にしてはずいぶんと角が大きいネ」

ドーラは鹿の剥製の前に立ち尽くす。

「そうです。東の大陸でも珍しいクロアシシカの剥製です。

ここの太守からいただきました。何でもそれ一つだけで家が一軒建つそうですよ」

「そういうの君は好きじゃないとおもったんだけれどな」

「美を愛でる心とは別です。

そもそも人間ごときに手心を加えるつもりはありません」

「そう言うと思っていたヨ」

そう言ってドーラは椅子に座る。

「…へぇ、妙なことしてるネ」

ドーラの視線は煙のようなものを立ちのぼらせる木片に注がれる。

「いい香りではないですか?これは東方の大陸より伝わった香と呼ばれるもの」

ユドゥンはドーラを見て妖艶に微笑む。

「まあそうせくものではありませんよ。この香は高価な代物。

わざわざ東の大陸から取り寄せた香木を熱しています。

珍客をもてなすためにはこちらも相応の代物を用意せねばなりません」

珍客と言われたことにはドーラは特に気分を害したようすはなく、興味深くそれを見ていた。

一人の女性がやってきてドーラの前に現れ陶器の椀を置いて茶を注ぐ。

注ぎ終わるとその女性は黙って部屋を出て行った。

ドーラは注がれた茶をを手に取り、香りを吸い込む。

「これは珍しい香りの茶ダネ」

ドーラの一言にユドゥンは気を良くしたのか饒舌になる。

「いい香りでしょう。東の大陸から取り寄せた特別の茶葉を使った茶ですよ。

安心してください、来賓に出しすものに、毒を盛るなどという野暮なまねはしませんよ」

「…そういうの君昔から好きだったネェ。ただ飲む前に言うのは嫌がらせダロ」

「フフフ」

ドーラは茶を一口、口に入れると少し間をおいて語りだした。

「ここに来たのは他でもない。モールのことを聞きに来たんダ」

モールという言葉にその場の雰囲気が引き締まる。

「…オルドリクスの一件ですか。その話ならば私も受けていますよ。

辺境に飛ばされた魔法長候補風情が何を思い上がっているのか」

「僕のことはイイ。アイツのことを悪く言うのはやめてくれないカ」

真剣なまなざしでドーラ。

「フフフ…やはり姿形は変わったとしても中身はドーラですね。

…もし彼の者の消息を私が知ったとして、先ず連絡するのは誰かはあなたはご存じでしょう?」

「だよネェ。噂だけでもいいんダ。

推測、憶測なんでもいい、とにかく手がかりとなるモノが欲しい、頼むヨ」

ドーラの頼みにユドゥンは間をおいて答える。

「…彼の者に会ってどうするおつもりですか?」

「研究をやめさせるつもりサ。あの研究だけはやめさせなくちゃならナイ」

ドーラの表情はひどく苦々しげだ。

「…彼の者がそれを拒んだとしても?」

「お願いだ、頼むヨ」

ドーラは言って頭を下げる。

「ああ、あなたに頭を下げられるというのも悪い気はしませんね。

…ただ四百年も続けた研究をやめさせるとか。

あなたも研究者だった者ならそれがどれだけ傲慢な行いかわかるでしょうに」

「…」

ユドゥンの言葉にドーラは口ごもる。

「…これは私の推測ですが、おそらく人間界には持ち込まれてないと思います。

あんなものが持ち込まれれば少なからず何かしらの波紋が生じるはず。

私の網でもその痕跡すら見つけられません。

ひょっとしたら既に他の大陸に出てしまったのかもしれませんよ」

「…いや、もう一つあるヨ。フィリンギの管理地ダ」

ドーラは静かにそうつぶやいた。

「…極北の地ですか…。たしかにその可能性は否定できません。

あの地は地理的にも人間界と異邦の中間に位置し、

その上、未だ未開の場所が数多く存在すると聞きます。

もっとも現魔術王と幻獣王フィリンギがそれを許すとは思えません。

ただし、彼の者が彼らの目を欺く手段があれば話は別ですが…」

「…他の大陸になんて…僕の知ってるモールなら行かないヨ」

静かに、そしてどこか懐かしむようにドーラはそれを言葉にした。

「…あなたの知っているモールならですか…。

ドーラ、ルーシェのことを覚えていますか?」

「…もちろんサ。ラフェミナと喧嘩して封印されたんだと聞いてるヨ」

「あなたにとってはその程度のことでしょうね。

ただあの子にとってのあなたは違いました。

私はこの二百年、そのことを忘れた日はありませんでした。あなたのせいで妹は…」

徐々に声のトーンが低くなっていく。

彼女の表情が一変し、周囲のモノが一斉に沈み始める。

「ちょ、ちょっと、状況が全く呑み込めないんだけどサ」

困惑しつつ、ドーラは後ろに跳んで近くの机に飛び乗る。

「事情?これから私に食べられるあなたが知ってどうなるのですか」

邪悪なまでの笑顔で彼女は告げる。

「…問答無用ってわけネ。そういうところは昔から変わってないネ。それじゃ、バイバイ」

そう言い残してドーラは跡形もなく消え去る。

『三次』による空間転移を使ったのだ。

『三次』というのは一般に扱われる魔法よりも高次な魔法を扱えるという。

例をあげるのならば空間転移や次元干渉など。

ただその魔法式は複雑を極めるため、その魔法体系の継承は行われず、現在それは失われた技術となっている。

「逃しましたか…相変わらず逃げ足の速い男ですね」

先ほどのまでの激情に満ちた顔がうそのようにユドゥンは平静を取り戻していた。

あくまで表面上はだが。

ユドゥンが指を鳴らすと、ドーラが部屋に入ってくる以前の状況に戻った。

「やはり以前ほどの魔力はなくなったとはいえ、一度は魔法長を冠した男。一筋縄ではいきませんね」

口元に薄く凄惨な笑みを浮かべ、窓の外を見上げる。

「オルドリクスの件もあります…少し泳がせておきましょう。

こちらもあの男ばかりに構ってばかりはいられませんからね…フフフ」


「…うわー靴底が溶けてるヨ…。せっかく新調したのにナァ」

靴底に手を回し、どのぐらい溶けたのかを確認する。

ドーラは靴底に触れ少し青ざめる。

「…これはまじめにシャレになってないっテ。

旧知の相手にいきなり陣使ってくるとか…。

後ろに跳ぶタイミングずれてたら足がなくなってたヨ」

ドーラは気配を断ってその場から動き出す。

「あれにはまああまり近づかないほうがいいカ…。

理由は知らないけれど嫌われちゃったみたいだし。

ああいう激情家なところはほんと母親そっくりだネ」

ドーラはめんどくさくなって、考えるのをやめた。

「北か…。少し遠いナァ」

ドーラは北の空を見つめた。その先にいる者を見据えて。

こうして極北の魔術王編につながっていきます。

まだドーラは北には行きません。というか行けません。

仕事は途中ってのもあるし、準備もしてないので。

動くのは次の部になります。

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