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6-2 魔獣咆哮

ヴァロは馬車にいる人質たちの生存を確認し、その場で人質のところにいた。

皆眠ったまま起きる気配もないし、起こしても起きない。

なんらかの魔法が作用しているのだろうとヴァロは考えた。

移動することも考えたが、馬車は二台ある。

ヴァロ一人では、人質を移動するには難しいと判断した。

それに事前の打ち合わせでは照明弾が打ちあがった場所に集まることになっていた。

一番最初にやってきたのはドーラだった。

「ヴァロ君、そっちは片付いたの?」

ドーラは手に少女を抱いていた。

「ドーラの方も終わったみたいだな。…おや、その子は?」

「連中に取りつかれていた村人サ」

そう言ってドーラは馬車の荷台にその少女を下した。

「大丈夫なのか?」

魔女が抜けていないとも限らない。

「この子に取りついたモノは既に取り除いてあるヨ。

取りつかれていただけだから廃人にはなってナイ。

守るんなら、一緒に目の届くところにおいておいたほうがいいダロ」

メンバーの誰かは未だ魔女との交戦中のようで、遠くから爆音が聞こえている。

誰かは知らないが、まだ魔女と交戦している仲間がいるのだ。

助けに行きたいところだが、今はここにいる人たちを守らなくてはならない。

「そうだな」

突然、遠方の爆音が途絶える。

「終わったのか?」

次の瞬間一直線に伸びる閃光が古城を破壊する。

「なんだ」

ヴァロは叫んで、閃光の元の方に目を向ける。

五つの竜のような頭を持った魔獣が古城の近くに現れた。

それぞれの頭は魔法式のようなものを個別に展開し、周囲を焼き尽くす。

「…もう『魔女狩り』というよりは『怪獣退治』だな」

いつの間にかグレコが隣に座っている。

「グレコさん、いつの間に…」

見ると衣服はぼろぼろで傷も負っている。

ただ本人はそんなことを気にしていないようだ。

「アレはヒュオーレダ。やれやれ、どうやら古城に僕らをおびき寄せたのはこのためだったらしいネ」

「それは第二次魔王戦争の時代の遺物だろう?」

合成魔獣ヒュオーレ。その脅威は歌として現在に伝わっている。

その五つの頭部は別々の思考をもち、五つの竜に似た頭は違った攻撃を繰り出したという。

かつて第二次魔王戦争において、一夜にして一つの街を火の海にしたという伝説の怪物である。

「どこかの結社から盗んだか、奪ったか、もしくは…」

ドーラは言いかけて止める。

抗うような魔法を視界にとらえる。

「フィア」

魔法を使っているということは、あの怪物と戦っているのは間違いなくフィアだ。

「グレコさん、馬車をお願いします」

居てもたってもいられず、ヴァロは魔獣に向けて走り出す。

次の瞬間足元に何か突っかかりヴァロは倒れた。

「向かう前に少しみてからでもいいんじゃねえのか?」

つっかかった足元を見てもそこには何もない。

ヴァロはグレコを見るもグレコは遠くの魔獣を見つめるだけだ。

「はあ」

それぞれの頭部に魔法式が形作られ、一斉に発動する。

異なる種類の魔法が大地を荒れ狂い、森が一瞬にして火の海に変わる。

こちらに攻撃してこないのは、村人がいるためか。

「うへえ、五頭それぞれが独立して魔法を使うのかよ」

頬杖をつきながらグレコは呟く。その様はまるで戦いの観戦でもしているようだ。

「なるほど、あの躰ならば魂連結者ソウルリンカーの力を十全に引き出せるってわけカ」

ドーラは荷台に座って足をぶらつかせながらそれを見ている。

「どういうことだ?」

「魔法式は魔獣は使わないんダ。それが魔法式を使っているってことは

あの魔女たちの魂があの魔獣ヒュオーレの躰に移ったと考えて間違いないネ」

「マジかよ」

「確かあれは都市壊滅クラスの魔獣のはず。魔力だけなら一般の魔法使いのざっとみて百倍。

ほぼ無尽蔵だと思ったほうがいいネ」

つまりは上位の魔法使いが、魔法を使い放題ってことだ。

そんな相手にどう戦えばいいというのか。

「表皮も剣では傷一つ与えられないって話だヨ。

ヴァロ君、見えるカイ?胴体の部分に魔法壁が張ってあるダロ。

あれじゃ、近づくことすらできないヨ。まさに歩く要塞だ」

「…何かないんですか?」

じれったくなり、ヴァロは二人に問う。

「ねえな」

「ないネ」

二人は同時にそう答えた。

「こっちは『魔女狩り』用の装備しかしてねえし、

あんな巨獣級の相手を想定した武器なんざ持ってきてねえよ」

「僕も同じダヨ。ただの魔法使いなら魔力のほとんどないこの躰でも対処できるけど

あんなでっかいのは無理だヨ」

やる気のなさそうな二人の声にヴァロは眩暈を覚えた。

そんな中一人の男がヒュオーレに斧で切りかかるを視界にとらえる。

ラウィンだ。

だたしいつもの彼と様子が全く違う。

血走った目で、口元には笑みを湛えている。

ヴァロが知る彼とはまるで別人のような錯覚を受けた。

「ラウィン…さん」

ラウィンはものすごい跳躍で、魔獣に斧で切りかかる。

次に五頭の二つか彼に向かって魔法を放つ。

すごい速度でラウィンは吹き飛ばされる。

「あいつ完全にイカれてやがる。こっちの声が届くような状況じゃねえな」

グレコが呆れたような言葉をあげる。

怯むことなくラウィンは魔獣に手にした斧を振りかざし、向かっていく。

「俺も加勢しに行ってきます」

「なら一つ話すことがある」

ヴァロはグレコを見る。

直後、五つの竜頭から放たれたまばゆい閃光が斧を持った人影を穿つ。

魔獣ヒュオーレの放つ光線に押される形で、ラウィンが背後に吹っ飛ばされる。

「ラウィンさん」

「大丈夫だ。少し見てろ」

ラウィンはそれを食らった後も、果敢に魔獣ヒュオーレに向かっていく。

「魔法の直撃が、全く効いていないのか?」

常人が食らえば骨も残らないほどの攻撃のはずである。

魔法抵抗力がある『狩人』でも無事では済まないレベルである。

それで無事だということは、少なくとも、ヴァロと同等かそれ以上の魔法抵抗力を有していることになる。

ただ魔法で吹き飛ばされて魔獣には一向にたどり着けない様子だ。

「あいつの特殊能力だ。元々あいつは高い魔法抵抗力を奴はもってるんだが

戦闘中はそれがさらに高くなり、魔法を受け付けなくなる。

さらに自身の身に宿した魔力により、その力は何倍にも跳ね上がる」

「それは…」

ならば無敵ではないか。

少なくとも魔法使い相手には最悪の相手だ。

グレコはその戦いから目を離すことはない。

「ただし、あいつの魔法抵抗力のピークになる時間は限られてる」

「…それは…」

時間制限があるのであれば、話は変わってくる。

「詳しくは知らねえがそのピークになる時間と宿した魔力の時間は同じらしい。

それが切れればしばらくの間、魔力、魔法抵抗力なしのただの人間にもどる」

「それはどのぐらいの時間なんですか?」

「詳しくは知らねえが、それほど長い時間じゃねえとは聞いてる。

最も今までそれで倒せなかった敵はいなかったみたいだが…」

ラウィンに魔獣ヒュオーレの放つ魔法の光が直撃し、後方に吹っ飛ばされる。

全力でもその魔獣ヒュオーレに押されているということだ。

「…もう行っていいですか?」

「ああ、健闘を祈るぜ」

ヴァロは二つの剣を抜いて走り出す。

「ヴァロ君、ヒュオーレの核は真ん中の胴体にある。

真ん中の胴体を消滅させない限り、五つの頭部は無限に再生し続けるヨ」

ヴァロはドーラの声に手を振り応じた。

「カッカッカ…お人よしだなぁ」

グレコは苦笑いを浮かべる。

「それが彼のいいところサ」

「あんたのほうもだ。で、あんたはどうすんだ?」

グレコはヒュオーレを眺めながらドーラに問う。

目の前では依然魔法による攻防が起きている。

「僕はここで様子を見物をしてるカナ。村の人たちだけこのまま残しておくのもだめダロ。

それにあっちに行っても戦いの邪魔にしかならなさそうだしサ」

「…まあそれもいいんじゃね」

グレコはすっと立ち上がる。

「君はどうするのカナ」

「もともと怪獣退治は俺の専門じゃねえしなぁ。俺は隙を見てとんずらさせてもらうかねえ」

ヒュオーレのもとに向かって歩き始める。

「そっちは反対方向なんだケド」

「見物だ」

そしてグレコもまた魔獣の方へ歩いて行った。

「…君も十分お人よしだヨ」

残されたドーラは苦笑いを浮かべながら再び視線を魔獣ヒュオーレに向けた。

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