表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/24

5-5 魔斧

「だめね。これも不良品、血統がよくなかったのかしらね」

それは自身がかけられた最も初めの言葉。

魔女から摘出された卵子を使っての培養された。

とある結社で秘密裏に培養された人間の一体。それがラウィンだった。

彼は不良品だった。

魔法抵抗力が安定しないのだ。

より強い魔法を使うためには魔法抵抗力がより高い肉体が必要だった。

なぜなら強い魔法を使うということはそれに比例し、肉体の負担も大きくなるためである。

その結社では魔法の暴走によりいくつもの若い命が失われた。

そのために人工的に魔法抵抗力の強い人間を作る必要があった。

その過程で生み出された失敗作、それがラウィンという男である。

不良品の烙印を押されて、たれ死ぬしかなかった男を『狩人』という組織が拾った。

『狩人』という組織は自身にラウィンという名を与え、

魔を狩るための道具になることをラウィンに強要する。

与えられたラウィンという名はかつて失われた魔剣の名なのだそうだ。

男はその名は自身にふさわしいと感じた。

そして、そういうものになることが彼の目的となった。

彼にとってはそれはかけがえのない存在理由になった。


自身を不良品扱いした連中に対して復讐ができる。

そこに彼は喜びを見出した。


あのとき自分を捨てた連中に復讐をしてやろう。

それが動機になった。


いつしか自分が道具として機能しているときのみ生きていると感じられた。

いつのころだっただろうか、気が付けば戦いに際しては魔力抵抗が上がっていた。

村を襲う魔獣の群れとも戦った

巨大な竜とも戦った。

数知れない魔を屠るうちに、気が付けばいつの間にか周囲から英雄と呼ばれるようになっていた。

認められることはそれほどいやではなかったし、戦うことには喜びを感じられた。

そうそれは彼にとって天職であったのだ。

ただ不思議と連中にたいする怒りという炎だけは小さいながらも胸の奥にくすぶり続けた。



「ったく、呆れるね。どうしてそんなに頑丈なんだい」

大柄な魔女はラウィンを見下ろしながらそうつぶやいた。

古城脇の森の中で大柄の魔女とラウィンが対峙している。

ラウィンは体は無事だったが、身を包んでいたマントは既にぼろぼろだった。

大女の魔法によるものである。

常人ならすでに肉塊になっていてもおかしくはなかったが、その魔法抵抗力により無傷だった。

ぼろぼろになったマントをラウィンは脱ぎ捨てる。

鍛えられた上半身があらわになる。

「おやおや、いい体してるじゃないか。

けど服がそんなであんたは寒くないのかい?」

「もともと出身は南じゃない。それにあんたにいわれたくはないな」

ラウィンは抑揚のない言葉を返す。

ラウィンの言うとおり、大柄の魔女と言えば肌の露出の高い鎧を着けている。

鎧の間からは鍛え抜かれた筋肉がのぞく。

おそらくはナルシストなのだろう。

「はっはっは、確かにね。あんたの相手はあたしでよかったよ。

オオ…ちっこい奴じゃ、あんたに傷をつけることですら困難だっただろうからね」

大柄の魔女はうっかりメンバーの名を呼びそうになる。

「まるで、俺に勝てるような口ぶりだな」

「勝てるさ。あたしは肉弾戦で負けたことはない。

私の魔法の系統は肉体強化。魔力を力に換算する魔族が使うモノと同じ能力。

魔力をそのまま身体能力に加算することが可能なのさ」

そう言って大女は構える。

次の瞬間女がその場所からラウィン目の前まで一気に間合いを詰め、

常人が目に見えないほどの打撃を繰り出した。

ラウィンは避けることなく、すべて受けて背後の木に吹き飛ばされる。

「どうだい?」

「強いな」

ラウィンは立ち上がる。

「驚いた、まだ意識があるのかい?あんた怖ろしく頑丈だね」


次の瞬間、閃光が空に煌めく。


それはヴァロが村の住民を捕らえていた魔女を退治したという合図でもある。

それは幸いなことにラウィンたちのいる森の中でも確認することができた。

「何だい、あれは?」

魔女が閃光のあがったほうを見ている。

「それじゃ俺もやらせてもらおうか」

そういうなり、ラウィンは斧を取り出した。

「へえ、魔器かい。あんたの隠し玉っぽいけれど、

見たところその武器に大それた魔力が宿ってるようにはみえないね」

「すぐにわかる」

ラウィンは怒りの形相になり、大柄な魔女に切りかかる。

「斧をもっても、まだあたしにはおよばないよ」

大柄な魔女は斧の攻撃を受け流しながら、ラウィンの肉体に拳打を加える。

並みの人間ならば一撃で内臓をやられているほどの拳打。

それをまともに受けてもラウィンの手は止まるはない。

「それにこんな森の中じゃそんな大きな斧は邪魔にしかならない」

大柄な魔女は木の間を縫うように逃げ回る。

魔女の言葉にラウィンは応えない。

ただ怒りの形相で魔女を追いかける。

「木ごと振りぬくのかい。あんた、ほんとでたらめだね」

彼女の能力は、相手に知られてもデメリットは少ない。

魔法抵抗の高い『狩人』相手には直接的な打撃は魔法よりも有効な攻撃手段である。

『狩人』は魔法抵抗力が高いとはいえ中身はただの人間。

殴られればあざになるし、刃物で切られれば肉が裂ける。


ラウィンは斧で途切れることなく攻め続ける。

人の胴ぐらいありそうな木が、まるでチーズを裂くように切断されていく。

ここで大柄の魔女は違和感を覚える。

一撃一撃が徐々に鋭く重くなっていくような感じを受けたからだ。

普通これだけ振り回していれば、疲労のために徐々に動けなくなる。

「人間の力じゃない…。魔力を運動に換算してる?…同系統の能力?」

信じられないものを見るように大女は呟く。

大女は足場ごと斧の圧により吹き飛ばされる。

「しまった」

体勢を崩した魔女に、ラウィンは斧を大きく振りかぶった。

体勢を崩した大女はそれを受けようと、手にすべての力を集中させる。


彼はそれに純粋に特化した能力者。

彼は他のモノはそれ以外、すべて捨て去っている。

それしか彼にはない。

それ以外のすべてを捨て去ることにより得られた能力。

それ故にその一点においては誰にも負けない。

またそれは彼の肉体の性質とも相まってとてつもない力になっていた。


彼女は思い違いをしていたことに気づく。

同系統であるからこそ、同系統の能力であるがゆえに、この男の優位は揺るがないのだ。


大女の体は斧によって両断される。

そして、戦闘は終了した。



グレコは座って一服していた。

煙のようなものが周囲に立ち込める。

「老体には堪えるねぇ」

ピチャ…ピチャ…

血が滴る音が妙にその場に響く。

細い糸がグレコの周りには張り巡らされていた。

足元には細切れになった男の死体が倒れていた。

言うまでもなく戦闘はグレコの勝利だった。

「あっちはまだ戦闘継続中のようだな」

周囲からは爆発音等が聞こえてくる。

一番派手にやっているのは魔法使いの少女だろうか。

古城から聞こえてくる音から、とんでもなく派手に戦っていることがわかる。

依然魔女の捕縛で戦っているときと比べてさらに実力が上がっている。

今援護にいったとしても邪魔になるだけだろう。

「さーて、そろそろいくとするかね」

そう言ってグレコは立ち上がる。

やっぱりなんか実名かくして実名使うのはちょっとなので、

名前は大女とかいう表現にさせてもらいました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ