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プロローグ

「お久しぶりです。カーナ四大高弟『雷洸姫』ヒルデ」

その女性の周りには凛とした佇まいでその周りの空気が澄み渡るかのよう。

服こそどこにでもある旅人の服装だが彼女が身に着けることによってその存在は

背筋をまっすぐにのばし、その視線は真っ直ぐにその女性を見つめるその様は、

毅然とした美しさをたたえている。

それに対し、見つめられる側の女性は座りながらどこかおかしげに笑う。

流れるような黒髪にはいくつかの飾り付けがされており、

前開きの衣のような和風の着物のようなものを着けている。

どこか艶めかしいその姿は見る者の視線をひきつけずにはいられない。

妖艶、彼女を一言で表すのならばその言葉が最もぴったりとあう。

「あなたにそう呼ばれるとお恥ずかしい限りだ。『漆黒』のユドゥン」

「こうして昔のことを話せるのはもうエーダ、リュミーサ、そしてラフェミナぐらいですね」

背伸びをする素振りをして、彼女は続ける。

「異国の服か?」

「ええ。動きやすくて気に入っています」

彼女は立ち上がりひらりと舞うしぐさをしてみせる。

「鮮やかだ」

ユドゥンと呼ばれた女性はにこりと微笑みぱちんと指を鳴らす。

すると茶器を持った女性が部屋の中に入ってきた。

「大魔女にもっとも近いとされた貴殿が…。今でも大魔女になるつもりはないのか?」

「直球でくるのですね。そういうところ嫌いじゃありませんけど」

笑って彼女は口を隠すように扇を当てる。

「…私はあの三人や妹のように誰かを導いていくなんてそんな性分ではありませんよ。

影で彼女たちの作った世界を見ているだけで十分」

「そう言う考えだからフィクサーなんて陰口を叩かれるんだ」

「言わせておけばいいでしょう。陰で吠えてる人間の方が扱いやすいですから」

その言葉にヒルデは頭を抱える。

「…変わらないようで安心したよ」

ヒルデは彼女の弟子がその場を立ち去るのを見計らって切り出した。

「一つ聞かせてもらいたい。第四魔王の復活、そしてその討伐の件、

アレは本当なのか?倒したのはヴィヴィ、ニルヴァということになってはいるが正直信じられない」

「本当のようです。本当という私も正直信じられませんが。

…それにしてもよく調べ上げましたね。教会の方もかなり神経質になっているというのに」

現在魔王復活の事件は表沙汰には魔具の暴走として取り扱われている。

聖都コーレスという教会のおひざ元で魔王復活などという事件など存在してはいけないためだ。

それ故に教会は関係者には誓約書を何枚に渡って書かせ、その上で厳重な箝口令を敷いているという。

「…コーレスで確認に少し時間をくってしまった」

「ニルヴァに直接会って話を聞いてきたのですか?」

意外そうな顔でユドゥン。

「直接は会ってない。奴は現役だ。体面もある。時計台の修理作業も陣頭指揮をとっていたしな」

「私なら会うのはかまわないと?」

「今更気を使う相手ではないだろう」

「フフフ…それもそうですね」

楽しげにユドゥンとヒルデは笑いあう。

「あなたは第四魔王ドーラルイを嫌っていましたね。今でもそれは変わりませんか?」

「当然だ。あの時ゴラン平原に居合わせたものならばだれでも奴を恐怖するだろうさ。

アレは正真正銘の化け物だ。大魔女三人を相手にして互角以上に渡り合ったんだぞ。

アレに比べれば後から出てきた他の魔王など有象無象もいいところだ。

もし怪物と呼ぶのであればああいうモノをいうのだろうな。

もっとも、もうそれを知っているものも数えるぐらいしか残ってはいないが」

「あなたは今でも恐れていると?」

「駆け出しの頃に埋め込まれた恐怖は取り除くのは厳しいよ」

「そうですか」

ユドゥンはそう言ってカップにお茶を注ぐ。

「…そうそう、ヒルデ。ミイドリイクの話は聞いていますか?」

「北東で新しい遺跡が遺跡がみつかったことか?」

「いいえ、その話ではありません。…魔軍の動きが観測された件です」

「魔軍だと?」

ユドゥンの言葉にヒルデが勢いよく立ち上がる。

魔軍と言えば異邦の三人の幻獣王の旗下の軍だ。

相手は統率された魔族の部隊。

上位の『爵位持ち』と呼ばれる魔族は、教会の指定する魔王以上の力を有するという。

魔王とかそう言うレベルの相手ではない。

さらにその上の幻獣王はそれ以上の力をほこるといわれる。

一軍だろうと断じて人間が戦って敵う相手ではないし、もし事が起きてしまっては取り返しのつかないことになる。

「安心して、エレナたちは無事ですよ。ミイドリイクに何かあれば人間と異邦の戦争でしょう。

そうなれば否応なしにあなたの耳にはいるでしょう」

「…あなたもお人が悪い」

ヒルデは胸をなでおろし、腰を下ろした。

「ただ魔軍に動きがあったことは、出まかせではないですよ」

ヒルデの反応をどこか楽しみながらユドゥン。

「それを裏付けるようにラフェミナも数カ月前にミイドリイクに一度向かったとか。

噂では極大クラスの規模の破壊が行われた痕跡が残っているという話ですよ」

「極大クラス?…ラフェミナ様が使ったのか?」

ユドゥンの言葉にヒルデは声を荒げる。

「不思議なことにラフェミナには魔法を使った形跡は見られなかったと聞いています」

「極大クラスの魔法を使える人間がラフェミナ様以外に存在する?あるいはそれを模した何かか」

ヒルデは何か考える素振りをして見せた。

「どうでしょう?私は情報を伝え聞いただけです。

そしてその混乱の中心にいたのは、彼女が指名した新任の聖堂回境師らしいと噂になっていますよ」

「フィア殿か」

ヒルデは数カ月前に会った一人の少女のことを思い出していた。

その年齢にして聖堂回境師を名乗ることを許されたのに驚いたが、

同時に彼女の並外れた魔法力にも驚かされた。

今はまだヒルデよりも力は下だろうが、あと数十年もすれば立場は逆転してるかもしれない。

そう感じさせられるだけの才能が彼女にはあった。

ラフェミナ様が彼女を指名したのはおそらく…。

「そう様子ではヒルデはお会いしたことがあるようですね」

「…ああ。ここに来る少し前にな」

「皮肉なものですね。周囲からの反発があったもののラフェミナの推挙で

聖堂回境師になった彼女が、着々と成果を上げている」

ヒルデはユドゥンの目に鈍い光が宿ったのを見逃さなかった。

「ユドゥン…何を企んでいる?」

「考え過ぎですよ」

ヒルデは微笑みをみせるユドゥンを見つめる。

警戒音が頭に鳴ったからだ。

長い付き合いとはいえ、この目の前の魔女に気を許してはならない。

ユドゥンという魔女の怖ろしいところは、誰にも気づかれずに彼女の思惑通りに物事を進めてしまうことだ。

気が付けばこのユドゥンの思い通りにものごとが動かされていたというのはざらである。

ラフェミナもそう言う一面が見られるが、それは自身たちの為であるという点で若干推測がつくが、

ユドゥンに関してはすべてが済んでからその企てに気づく場合が多いのだ。

「…一度ミイドリイクまで戻ってみるか」

そう言ってヒルデは席を立った。

「以前に譲ってもらった魔剣の代金は、帰りに弟子から受け取ってください」

「悪いな」

「いえ、こちらもあなたには感謝してるんですよ。

私はこの地から動けないし、外のことを託せる者は少ない。

今、この大陸に不穏な空気が漂いつつあります。

あなたが見て回ってくれるのであれば、私も安心してこの地にとどまれるというもの」

「幾らなんでも、買いかぶり過ぎだ」

そう言い残してその客人はユドゥンの前から去って行った。


ユドゥンは一人部屋に残り考え事をしていた。

窓から照らし出す夕焼けの光が彼女の顔を赤く染める。

「ただのラフェミナの気まぐれかと思っていれば存外に…。

すでにヒルデから認められているのは意外でした。

私も少々試させていただくとしましょう…フフフ」

夕闇が静かに部屋を暗くしていく中、ユドゥンは静かにそう呟いた。

ミッドナイトクラウン編スタート。

名称は…気にせんといてください。

ちっと今回は三編通して血なまぐさいことになります。

『狩人』の狩りを書こうとしてるのだから当然ちゃ当然なんですけど。

舞台は闇が深い大陸東部。

魔族の方が性質がよかったという。

まあミイドリイク制圧しようとしたしどっちもどっちか(笑)

さて、どこまで書ききることができるかにゃ。

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