04
「お前、うちの親父のことは知ってんだろ?」
セルジュの金色頭が上下に動く。
「ティベリオ・オルランディ氏のことだな。魔術師協会五大家筆頭を務めるオルランディ家の当主としての辣腕もさることながら、浮気症で有名だ」
魔術師協会とは、この国の魔術師達を統率する組織のことである。この国に住む魔術師達は魔術師協会に所属することを義務づけられ、魔術師としての活動は協会を通したものしか承認されない。協会を通さずに個人的に請け負った仕事に関しては、違法行為として厳しく取り締まられる。全ては魔術という技能が国民のために公明正大に行使され、一部の人間にとっての特権となることを防ぐためである。
五大家というのは魔術師協会における実力者五名で構成される魔術師達の取りまとめ役であり、実力、家柄、信望などを総合して選出される。中でも筆頭は、魔術師達の頂点に君臨するとともに、魔術師協会の中でも唯一議会に出席できる、魔術師達の権利を背負った責任の重い地位である。
ルチアは未だに信じられない。そんなすごいひとには見えなかったし、ただの変態だと思ったのに。
「そう。そうなんだ。残念ながら、親父はどうしようもなく女好きで浮気者でだらしのない男なんだ。そういう所さえなければ、尊敬できる立派な人だと俺も胸を張って言えるんだが」
事実とはいえ受け入れがたいことなのだろう。エルガルドは深いため息をつく。
「十九年前のことだ。親父は王都にお袋と俺を残して、仕事でとある地方都市へ行っていた。任期は二年程だったが、その間に美しい女と知り合って関係を持ったそうだ。その女と親父の間に生まれたのがルチアなんだ」
セルジュは訝しげにルチアを眺めた。
「ということは……お前十八歳か? 全然見えないな。十四、五歳かと思っていた」
「はあ、何故か昔から幼く見られるんです。年相応に見られたことがありません」
「老けて見えるよりはましじゃないか」
「ええー、そういう問題ですかね」
のんきな会話を繰り広げるふたりをエルガルドが制した。
「論点はそこじゃねえ」
ごふんとひとつ咳払いをして続ける。
「親父は子どもはもちろん引き取るつもりだったし、その女の面倒も見るつもりでいた。あれでいて意外と義理堅い所があるからな。だが、ある日女は子どもを残して失踪してしまったんだ。以来密かに手を尽くして探しているらしいが、いまだ見つかってはいない」
「それで、引き取るつもりだったのがどうしてこんなことになっているんだ?」
「それは……」
ルチアのじっとりとした視線を受けて、エルガルドが言葉を詰まらせた。
「……お袋が」
「ああ……オルランディ夫人にしてみればとんでもないことだな。どこの馬の骨とも知らない愛人の産んだ子どもを育てるだなんて」
セルジュの言葉にはどこか棘のようなものが感じられる。悪いと思っているのか、エルガルドは視線を落として俯いた。
「お袋はオルランディ家の傍流でさ。魔力の高さを見込まれて嫁入りしたという自負もあるし、何よりも家名に誇りを持っている厳しいひとなんだ。うちは代々、序列や性別に関わらず、魔力の高い者が家督を継ぐことになってる。だから跡取りの俺がいれば、魔力の欠片も持たない愛人の子など育てる必要はないと拒否したんだ」
苦々しげな口調でそう言って、微かな音を立ててお茶を一口飲む。少しの沈黙はそのまま彼の気持ちを表しているようだった。
「子どもは養子に出した。俺がそれを親父に聞かされたのは十年前、じいさんが隠居した時だ。それまでは親父がこっそり見守っていたらしいが、オルランディ家の当主を継ぐことが決まった以上それも叶わないかもしれない、できるならお前が気にかけてやってくれないか――そう言われて」
ふっと目つきの悪い緑の眼が懐かしそうに細められた。
「まだ十五歳だった俺は隠し子なんていう事実を受け止めきれなくて、お袋のことを思うと親父のことが許せなかった。どうせろくでもないガキに決まってる、オルランディ家の跡取り息子であるこの俺が気にするほどの価値などあるはずがないと確認しようと、そのパン屋に行ってみた」
ははっと軽い笑いが空気を震わせる。
「俺さ、パン屋どころか下町の店になんて入ったことなかったんだ。勝手がわからずに右往左往してたら小さな女の子が手を引いてくれて、『こっちよ、おにいちゃん』って色々教えてくれたんだ」
照れ笑いを浮かべるエルガルドの様子に、ルチアの表情も思わず緩んだ。
「ああ……そうでしたね。確かに坊ちゃ……エルガルド様は、大層気難しそうなお顔で入っていらっしゃって。なのに長い間そんなに大きくもない店の中をうろうろとしながら、次第にどこか心細そうなお顔になっていって。見かねた母が行ってきなさいと私に言ったんです」
困っているひとには声をかけてあげなさい。それは母がよく言っていたことだ。解決できなかったとしても、ひとりで困っているよりは心細くないでしょう? と。
結局困っているひとがふたりに増えるだけなのだけど、確かにひとりで考え込んでいるよりは少しだけ安心するかもしれないなあと幼いルチアは妙に納得したものだ。
「初めて見た妹は人懐っこくて明るくて小さいくせにしっかりしてて、思ってたのと大分違ってた。それ以来俺はパン屋に通うようになったが、俺のことを『おにいちゃん』と呼んで随分懐いていたんだ」
うっとりと明後日の方を見つめるエルガルドに、ルチアは冷たく言い放つ。
「あれは接待、つまり営業活動の一環です。私は所謂看板娘でしたから、自分の役割を正しく認識し、それを実践したまでのこと。それから、『おにいちゃん』というのはあくまで一般的に自分より年上でおじさんというにはまだ早い男性を指す意味での呼び方です。あの当時はたくさんのお客さんのことをそう呼んでいましたよ」
「おおおおおお前は不特定多数の男にそんなことを……っ!?」
「誤解を招くような言い方はよしてください! そもそも『おにいちゃん』という呼び方自体に深い意味はないんですから、変な勘違いをしないでくださいよ気持ち悪い」
ルチアにばっさり切って捨てられたエルガルドが肩を落とす。俯いてテーブルにのの字をぐりぐりと指で書きなぐりはじめた。
「嬉しかったのに、俺がオルランディ家の息子だと知られるといつの間にか呼び方が『坊ちゃん』に変わってた……」
「両親がそう呼んでましたので合わせただけですが、それが何か?」
ぐうの音も出ない。黙り込んだエルガルドに少しだけ同情して、セルジュはルチアに質問した。
「それでも、常連ともなれば、それなりに印象も悪いものじゃないだろう?」
「印象……ですか。なんだかやたらと頭を撫でたりとボディタッチの多いひとだし、こんな幼女に並々ならぬ興味を持つなんて、きっと世に聞く変態さんなんだろうなと思っていました」
「………………」
フォローもできやしない。
セルジュはエルガルドからそっと視線を外した。
「それで、ルチアの両親は実の親のことを知っていたのか?」
セルジュの問いにエルガルドが首を振る。
「養子縁組は間にひとを介しているから、おそらくは知らなかったんだと思う。……本当は親父が養子に入った先を知っているのだってルール違反なんだ」
調べずにはいられなかったんだろうとため息まじりにこぼす。
「兄妹だというのは分かったが、それがなんでこんな面倒な追いかけっこになっているんだ」
セルジュの何気ない質問に、ルチアがカップを取り落とした。透明な赤い液体がテーブルにこぼれる。
「……あ、すみません、手が滑って。えへへ」
「大丈夫か。やけどは?」
「大丈夫です、もう冷めてましたから。あ、食べ終わった分ついでに片づけちゃいますね。そのあとでお茶でも入れますから、あっちでくつろいでいてください」
がたんと立ち上がってせかせかと動き出すルチアに急かされて、男ふたりはソファへ移動する。ソファに腰を落ち着けると、エルガルドがちらちらと台所にいるルチアを気にするそぶりを見せながら切り出した。
「実は最近、あいつの両親……パン屋の店主夫妻が亡くなったんだ」
「それでオルランディ家で面倒見ようってことになったのか? 今さら?」
訝しげにセルジュが眉根をひそめる。
十八年経っているとはいえ、エルガルドの母親はまだ当主夫人として健在だ。その彼女が今になって考えを変えるものだろうか。
「一週間前、王都で爆発があったのを知ってるか」
急な話題転換に瞳を瞬いてセルジュは首肯する。
「ああ、村の方でも噂になっていた」
「あれはルチアの両親のパン屋だったんだ。表向きには事故として処理したが……何らかの魔術が発動した可能性が高いと考えている。というより他に考えられる原因が見当たらない」
「ルチアの両親はただのパン屋なんだろう。それが何故魔術師なんかに狙われる」
「分からない。それに、ルチアの両親が亡くなったのは爆発のせいではないんだ」
「どういうことだ」
「ルチアの両親は胸に受けた刃物の傷が元で亡くなっている。爆発による損傷は一切受けていない。ルチアもそうだ。目立った外傷はない。爆発の中心地にいたのにだ」
セルジュが腕組みをして考え込む。それは如何にも不審だ。それで「魔力が封じられているのかもしれない」という話になる訳かとセルジュは得心した。
「それでルチアが術者である可能性があると?」
エルガルドは曖昧に頷いた。
「可能性に関しては……皆無ではないと思うが、俺は正直あまりあるとは思っていない。見ての通り、あいつには欠片も魔力が感じられない。そもそも、爆発からして随分妙だ。地面に穴があくほどの威力なのに、隣近所の被害は酷く少ない。まるで爆発によって加えられる力の方向を縦方向に調整したみたいだった。例え大きな魔力を持っていたとしても、魔術師としての教育を受けていないルチアにはそんなことは無理だろう」
「ふうん、なるほど」
セルジュが納得したように嘆息する。
「まあしかし、だからと言って放り出す訳にもいかないんだ」
「目的が不明だということだな」
「ああ。少なくとも、ルチアが狙われているという可能性が消えない限り、親父も俺も手を引くつもりはない」
「本人はどう言っているんだ」
「ルチアは当時のことを何も覚えていないと言っている。事情を全部話して、魔力の有無に関わらずうちで引き取ると話をしたんだが……目を離した隙に窓から逃げやがった」
何がそんなに嫌なんだかと渋い表情を浮かべる。
まあ嫌だろうなとセルジュは少しだけルチアに同情した。
「そんな訳で、あいつを放っとくことはできないんだ。本人の意志がどうであれ――」
「断固拒否しますってば」
いつの間にか、迷惑そうな顔のルチアが湯気を立てるカップをお盆に載せて側に立っていた。
「私の意志を無視して連行するなんて、それはもう拉致です。犯罪ですよ」
「保護と言え、保護と」
セルジュとエルガルドの前にカップを置くと、ルチアは暖炉の前に椅子を引っ張ってきてちょこんと座る。もちろん警戒してエルガルドから距離をとることは忘れない。
「お前に頼れる親戚がいないのは調査済みなんだ。いい加減諦めろよ」
エルガルドが眉間にしわを寄せながら言うと、ルチアはぐっと言葉に詰まった。
両親ともそういう縁が薄かったのか、祖父母や親戚という者には会ったことがない。頼れるのはご近所さんくらいなのだが、それも不可抗力とは言え、あんな迷惑をかけていながら一体どんな顔をして頼れるだろうか。
かといって確かにこのまま逃亡生活がいつまでも続けられるはずもない。少ない資金はすぐに尽きてしまうだろうし、小娘ひとりでは立ち行かないこともたくさんある。
「だからってあのオルランディ家に引き取られるなんて……せめて下働きくらいなら納得できたかもしれないのに」
「お前なあ……娘を下働きにする親が一体どこにいるってんだ」
「誰が親ですって? 私の両親は魔術師の大御所なんて大層なひとじゃなくて、下町の平凡なパン屋さんです!」
ぎりぎりと睨みあうふたりにうんざりした視線を投げかけ、セルジュが仕方なさそうに口を開いた。
「……行く当てはないがオルランディ家の世話にはなりたくないということなら、しばらくここにいるか」
「へっ?」
「あ?」
二対の緑の眼がこちらを向く。片方はきょとんと、もう片方は不審げな色をのせて。
「急患用の病室も空いていることだし、そこを使えばいい。しばらくここで身の振り方を考えるのもいいだろう」
「で、でも、そんな……ご迷惑では」
おろおろとルチアが聞き返すと、セルジュは小首を傾げた。
「ただで置いてやるつもりはない。いい加減飯を食いに村まで出るのも時間の無駄だし、家事や仕事の手伝いに人手があれば便利かもしれないと思っていた所だ。働いていた方が気が楽なんだろう?」
「ええ、まあ……」
「おおおお前、いっ、妹をひとり身の男の家に置いておけると思うのか!?」
なんだか斜め上の方へ考えがそれたらしいエルガルドが、顔を真っ赤にしてセルジュに食ってかかった。ふたり分の冷たい視線が集中したが、それどころではないらしい。
「お前と一緒にするな」
「ぐああ、違う! 俺はただ純粋に心配をだな!」
「まあ、一応年頃の娘だしな。嫌なら無理にとは言わない」
判断を委ねられて、ルチアはふむと考え込んだ。
確かにここは男性のひとり暮らしのようだし、世間的にはあまり良いことではないのかもしれない。だが、エルガルドの友人であることや世話になったことなどから考えても、信用に足る人物ではあると思う。独身男性を主人として住み込みの下働き――そう考えると不自然なことは何もない。なにより、オルランディ家に連れ戻されてまた閉じ込められるよりは遥かにましであると思えた。
ルチアは顔を上げると重々しく頷いた。
「それでは、お言葉に甘えて」
了承の言葉を口にしたルチアの肩を、エルガルドの大きな手ががしっと掴んだ。間近に迫った緑の瞳は心なしか潤んでいる。
「お前は俺よりあんな男の方がいいって言うのか……!」
「そういう問題じゃないんですけど」
「じゃあなんでだ!」
「強いて言うのなら坊ちゃ……エルガルド様よりは信用できます」
「騙されるな! こいつは見てくれだけは良いが性格は悪いぞ! 大体オルランディ家の血を引く娘を下働きにだなんて……!」
「だからそういうのが嫌なんですってば。オルランディ家なんて大層なお家のお坊ちゃんにはお分かりにならないかもしれませんが、無駄に広い落ち着かない豪華な部屋でただぼんやりしているよりは、家事でもしてた方が気も晴れるってもんですよ。それに、少なくともセルジュさんは私のことを閉じ込めたりしないでしょうし」
ルチアが淡々と説明すると、エルガルドは雷でも落ちてきたかのように頭を抱えた。
「何故だ……女は皆こいつに騙されるんだ」
「過去になにか確執でも?」
「何もない」
邪推するルチアに、セルジュは不愉快そうに眉をひそめた。
「決まりだ。安心しろ、エルガルド。オルランディ家には劣るかもしれないが、ここなら何があっても俺の目が届く限りは何とでもできる」
「安心できるか! 俺が心配しているのは別のことだ!」
きっと鋭い目つきで睨みつけられて、セルジュはやれやれと肩をすくめた。
「そんなに俺が信用できないのなら、鍵でもなんでも好きにすると良い」
「あ、でも私着替えの一着もないんでした。お金もあまりありませんし」
爆発のせいで自宅にあったものは使い物にならない。新しく色々揃えなければならないが、先立つものもないとなるとセルジュに借金を頼むしかないだろうか。
どうしたものかと考え込んでいると、ルチアが滞在する予定の部屋のドアに貼りついて魔術で細工をしていたエルガルドに聞こえるようにセルジュが大きな声を出した。
「ルチアの身の回りのものはオルランディ家で何とかしてくれるだろう。何と言ってもオルランディ家の血を引く可愛い妹のためだ。それくらいのこと何でもないだろう」
「もちろんだ!」
エルガルドは快諾したが、借りを作りたくなかったルチアは慌てた。
「え、いえあの、そんなことは……」
断ろうと口を開きかけたルチアの頭にぽんと大きな手が載る。
「利用できるものは利用しておけ。あいつにとってはそんなこと貸しのひとつにもならない」
「はあ……、ではありがたく」
大金持ちの懐からはした金が出て行っても気にならないものなのかもしれない。ここはお言葉に甘えることにして素直に頷くと、頭に乗った手は褒めるようにさらりとひと混ぜして離れて行った。
「あ、でもくれぐれも動きやすいものをお願いします。軟禁されていたお部屋に揃えてあったような、上等のフリフリでコッテコテの装飾重視の服は実用性ゼロです。何ならメイドさんのお仕着せでもいいくらいですから、とにかく実用性重視で!」
これだけは言っておかないと、誰の趣味だかわからない到底自分には似合いそうもない乙女趣味な衣類ばかりを揃えられそうだ。そう考えて釘をさすと、心なしかエルガルドの背中がぎくりと強張った。
「メイドは駄目だろう……メイドは」
ぶつぶつと呟く背中には白い目を向けてため息をひとつ落とすと、ルチアはセルジュに向き直って深々と頭を下げた。
「ご迷惑をおかけした上に居候させてもらえるなんて、心苦しい限りですが助かりました。家事なら得意ですから任せてください。しばらくの間、よろしくお願いします」
一昨日まで知らなかったひとのお家に居候するのはいささか不安ではあったが、やむにやまれぬ今の状況では仕方がない。ここは住み込みの仕事先と思って乗り切ろう。
そう心を決めて頭を上げると、視線が琥珀色の瞳とぶつかった。へらりと笑いかけると、細められた琥珀色の瞳が浮かべた優しい色に思わず見惚れる。
吸い込まれそうなほど澄んだ瞳の奥には一体何があるんだろう。何故だかそんなことを考えた。
「……よしできた。ルチア! ちょっと来い!」
「ひえっ!? あ、はい」
エルガルドの呼びかけに驚いて肩を揺らし、どきどきと跳ねる胸に手を当てながらエルガルドの側へ移動する。扉の前で座り込んでいたエルガルドの隣に立って覗き込むと、ドアノブが何故かうっすらと発光していた。
「ノブを掴め」
「はあ、こうですか?」
言われるがままそっとドアノブに手をかける。ルチアの手に反応してドアノブが光を一瞬強め、次第に光は収まっていった。今はもう普通のドアノブにしか見えない。
「これでお前以外の奴にはこのドアは開けられない。後で窓の方も同じようにしておくぞ」
ふんと鼻息も荒くエルガルドが言う。
「それって坊ちゃ……エルガルド様もですか」
「もちろんだ」
そう答えながらエルガルドがノブを掴んで開けようと試みるが、ドアは頑なに閉じたまま微動だにしない。代わってルチアがノブを掴むと簡単にくるりと回り扉が開く。
「安心しました。そこが一番心配ですから」
「お前は一体俺のことをなんだと思っている」
「『妹』属性に萌えて監禁までしちゃう変態さんだと思ってます」
「その認識は今すぐ改めろ! 名誉棄損だ!」
「跡取り息子が坊ちゃ……エルガルド様みたいな変態さんだと世の中に知れ渡れば、オルランディ家の名誉は地に落ちるでしょうね、確かに」
「変態じゃねえ! あと、うっかりを装って坊ちゃんと呼びかけるのをいい加減やめろ! わざとやってるのは分かってんだぞ!」
「おや、ばれていましたか」
ぎゃあぎゃあと兄妹喧嘩を繰り広げるふたりを前に、セルジュは大きなため息をついた。静かな暮らしは気に入ってはいたけれど、どうやらこれからはそうもいかなくなりそうだった。