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車の話

物もモノ足り得る話。

大学一年の春の話だ。


僕は免許を取ったばかりで浮かれ、同じ大学に通っている彼女を中古の安い軽の助手席に乗せてドライブするのがここ1週間程の日課だった。

もともと長い時間座っているのが苦手な彼女だ。僕とのドライブも一時間もすれば陰鬱な表情を見せる。

まだ交際を始めて日が浅いとは言え、もう何年もの付き合いだ。彼女の性格はよく分かっていたが、しかし僕はそれでも彼女とドライブをしたかったのだ。

車という密室空間に彼女と2人きり、会話がなくともそこに高揚感を得てしまうのは男としておかしいだろうか?否、断じて通常である。

しかし。


「あのね」

不意にドライブ中は無言を貫く彼女が言葉を発した。

「私は別に君とドライブするのが嫌なわけじゃないんだよ」

ほう。では何が嫌なのかと。

「決まってるでしょ、この車」

その言葉に納得半分、困惑半分の僕は苦笑する。

この車は彼女と2人で買いに行ったものだった。

単純に安かったのもあるが、一目見て、あぁ、憑かれてるなとわかるほどの、空気感とでも言おうか、そんなものを漂わせるそれは、あの頃を境にオカルトにすっかりハマっていた僕にはとても魅力的で、彼女の猛反対を押し切り購入したのだ。

「大体、私もその手の物は好きだけど、これはやめようって言ったでしょう」

そう、彼女も、と言うより僕をこの道に引きずり込んだのは彼女であるのだからこれを気に入ると思っていたのだが。

「君は気に入ってるみたいだし、今の所実害もないから言わなかったけどね」

結果として、この車は廃車になる。


「これに乗るのは君で24人目。これは憑いてるものじゃないよ」

つまり?

「これ自体が一種のモノになりかけてる、いやもうなってるのかな。事実、君は『この車』に憑かれてるんだよ」


時として、物が意思をもつ、あるいはその物をモノたらしめることがある。


「ね、今、君はどこにいるの?」

世界が割れる、音がした。


後に彼女に聞いた話だが、車を買った翌日から僕とは連絡が取れなくなり、1週間程経って病院に運び込まれたことを聞き、駆けつけたらしい。

それから3日目を覚まさなかった僕に焦った彼女は車を廃車に出し、僕はなんとか事なきを得たというわけだ。


さて、僕はどこで何をしていたんだろうか。

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