鏡の話
鏡は時に死をうつしだすという話。
高校三年生の冬の話だ。
僕の家に彼女が遊びに来ていた。
家には両親はおろか、兄弟もいない僕の家にだ。
そりゃ僕だって男なのでそういう期待もしていたわけだが、彼女はそんなこと微塵も考えていないらしく、入ってきて早々「面白いことしてよ」だ。
僕に一体何を期待してるんだコイツは。
何年も一緒にいてそう面白いことできるタイプだと思ってるのか。
でも今回は少し話が違う。
なんといっても鏡がある。
「え?鏡?」
そう鏡だ。実家から送られてきた。
母さん曰く「そういうの得意でしょ」
別に得意じゃない。
「へぇー、じゃあ何かうつるわけ?」
いや、それが何もうつらないらしい。
「それの何がおかしいの?」
まぁ見てけよ。夜中になんなきゃダメらしいけど。
「じゃあ今日は泊りがけかなー」
そうなるのか。
「じゃあそれまで何するの?」
結局彼女に「色々」させられ時刻は深夜2時。
いわゆる丑三つ時。素晴らしい。
「素晴らしくげっそりした顔してるけどね」誰のせいだと。
「で、その鏡は?」
そこにある。部屋の隅だ。
「へぇー、これかー。布とるよ?」
ご勝手に。
「おー、意外と綺麗な鏡だね。でもなにもうつらないな」
そうだな。おかしいことに何もうつらないんだよ。
何もね。
「なるほどね。こりゃ確かに怪奇現象だ」
そう、鏡には何もうつらない。彼女や、僕でさえも。
でも景色はきちんとうつす。
なぜ人間はうつらないのか。
その理由はわからないが、この鏡を見たのは結局これが最後だった。
彼女は家に来る度に見ていたが一体何が面白いんだろう。
何が面白くてその鏡見てるんだ?
「たまにね、人がうつってるよ。いや、多分この鏡にうつる人は人じゃないんだろうけどね」
つまりそういう話だ。