日常を愛する男。
突発的な思いつきから書き始めた作品です。
俺の名前は寺井裕司。年齢は16歳で高一だ。
家は一軒家で、俺、妹、父、母の四人で暮らしている。
今日、学校の友人にラノベを貸して貰った。ジャンルは様々で恋愛ものから異世界転生ものまで、計10冊あり、どれもアニメ化している人気作らしい。帯には「〇月からテレビ放送開始!」とでかでかと書いてある。
恋愛ものを軽く読み進めてみると、これがなかなか面白かった。文芸部に所属している男女五人組が告白したり、振られたり、主人公と親友がヒロインを取り合って険悪になったと思ったらいつの間にかヒロインが顧問の先生と付き合ってたりといった、ドタバタ波乱ラブコメディーな内容だった。
俺は部活はやっていないし、委員会にも入っていないので、ラノベのような出会いは期待すらしていないのだが、やはり、彼女は欲しいものだ。
・・・別に卑猥な事をしたいのではない。
いや、だからといって、したくないというわけではない。そりゃあ俺だって、健全な男子高校生だからそういうことに興味はある。もし、ベッドの下の本の冊数コンテストがあったら優勝出来るのではないかと思うくらいには異性に対しての強い好奇心は持っているつもりだ。
でも、俺はそういうことではなく、学校からの帰り道を一緒に歩いたり、楽しくおしゃべりしたり、あわよくば手なんか繋いじゃったりしたい訳だ!......言ってて涙が出てきた。俺って何て健気なんだろう。そして、なんで彼女がいないんだろう。
話を戻そう。俺は今読んだような恋愛ものは好きだ。そう、恋愛もの「は」好きなのだ。なので苦手なジャンルも存在する。それは—
"コンコン"
はぁ。だれかが俺の部屋に来たようだ。だが、部屋の扉をノックされたわけではない。俺は扉を開けた。すると、何かが俺に向かって飛び込んできた。
「コンコン!」
今の音の正体はこいつだ。こいつは妹のペット—というか使い魔のコンである。耳の先からしっぽまで白い毛皮で覆われている狐で、目の色は、最初は黒だったはずなのにいつの間にか金色になり、最近は輝いている様にさえ見える。そのせいなのか、心なしかテレビや動物園でみる狐よりもしぐさが上品な気がする。
そして、一番の特徴である毛皮の柔らかさは、そこいらの犬や猫とは比べものにならない。前に一度、母が商店街の福引でシルクのマフラーを引き当てたのだが、はっきり言ってコンの毛皮のほうが柔らかく、滑らかなのである。
だから、コンが妹よりも俺に懐いていることは嬉しく思うし、一日中もふもふして過ごしたいという願望を密かに抱えていたりもするのだ。
しかし、それによって引き起こされる騒動とは、あまりお近づきになりたくはないのだが・・・
‘ドガンッ’
また俺の部屋がノックされた。ただし、先程とは違って訪問者はドアの外ではなく、壁の向こう側。
一瞬、妹の部屋で誰かが騒いでいるのか?と思った。
俺の部屋がある2階には妹の部屋もあり、そっちの部屋にはいつも、おっとりしたお姉さんや薄茶色の髪をボブにしている癒し系の女の子、プロレスラーのようにがっちりとした体型の爽やかイケメンなどが引っ切りなしに訪れているのだ。
しかし、俺の部屋には誰一人訪れたことがないし、呼ぶつもりもない。俺のテリトリーへ侵入など絶対にさせないぞ。
話を戻すが、よく考えたら音の方向に部屋はない。つまり、家の外から俺の部屋に直接訪問してきたという訳だ。
「またか・・・」
だが迎えるつもりはない。なぜなら―
「ちょっと、なんで開けてくれなかったのよ?」
俺の背後から声が聞こえた。そう。その人物に壁などは意味をなさないのだ。
俺は少し気怠げに振り返ると、そこには俺の平和な日常をぶち壊す訪問者、金髪碧眼の悪魔が艶やかに微笑んでいた。
「今日こそはその狐を渡してもらうわ」
おい、まじかよ・・・
更新が続くといいな。