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mad-dog  作者: 世杞
4/4

The true character

ホストの正体が暴けてきた。

4.




「・・・けい。・・・炯!!」

聞こえない。俺は何も聞こえない。

俺は今眠っているのであって、しかもノンレム睡眠で熟睡中。

よっぽどのことじゃなければ、誰が土曜の休日の朝の7時なんていうふざけた時間にに大人しく目ぇ覚ましてやるもんか。

頭からすっぽりと毛布をかぶり狸寝入り続行。

今は冬だし、暖房は良い具合に部屋を暖めて気持ちよすぎる。

もったいなさすぎ。

なんと言われようと、絶対俺はこの空間を死守しなければならない。

「・・・・・・けい・・・?」

・・・嗚呼、俺を呼ぶ声が疑問形になってきた。しかもさっきより大人しい。

雪妃と出会って、そして居候生活を始めて3日。

そろそろこいつの性格やら行動がわかってきた。

これは、ちょっと怒り始めている。

「・・・けーいーくーん?」

俺を拾った美形ホスト。

名前は季篠雪妃。(きとう ゆきひ)

男にしては珍しい、そして凄い名前だとは思ったが、その見た目が名前負けしていないのがまた凄い。

名前を聞いて、漢字を知って、そしてその名前になんとなく納得してしまうのは俺だけではないはずだ。

だが、雪妃は見た目に反してかなりの自己中、天上天下唯我独尊な傍若無人男であった。

気に食わないことがあれば直ぐにそれに嫌悪を示し不機嫌になる。

自分が気に入るまで妥協はしないし邪魔をしようものなら徹底的に排除される。

かなりの毒舌家で手が出るのも早く、頭も良いので抵抗のしようがないという。ある意味、最強。

今まで色んな人間と交流してきた俺だってこんな俺様人間見たことなかった。

・・・もちろん、それは素の雪妃での話だが。



こいつは店に出ると180度。まだ短い付き合いの俺だが、あながち間違ってもいないだろう。完璧に性格が変る。

その瞬間は、何度見たって慣れるもんじゃない。

ブルリと身震いし、毛布に包まれぬくぬくと雪妃の生態研究をしていた俺の上から舌打ちが聞こえる。




あ、ヤバイ。





そう直感した時には遅かった。









―――――ドスっ。―――――








鈍い音が腹に響く。

ああ、暫く静かだったから忘れていた。自分の無防備さに雪妃を相手にしては遅すぎる後悔をする。

それにしたって毛布越しなのにこの痛さは何だ。

目いっぱい足を振り上げそれを俺の腹めがけて踏み潰さんばかりの勢いでそのまま降ろしただけの至ってシンプルな攻撃法だが効果は絶大だった。

あまりの痛さに俺はベットから転がり落ち、床暖の聞いたフローリングの上に蹲る。

「・・・っ―ゲホッ!!・・・ぅえ、  かはっ・・・!!」

「おはよう炯君。仕事明けで不機嫌極まりない俺を前に狸寝入り決め込むなんて度胸あんなぁ。嫌がらせかコラ。お前ん家の糞ババアのせいでこっちはくたくたなんだっつーのー。」

「ぅ、・・・―っと待て・・・やつあたりかよテメエ!!」

蹲ったまま俺は悲鳴を上げる。

ちょ、これ絶対痣になるって。今まで瘡蓋一つ作ったことない俺の体に初青痣できるって!!

「それもまあちょっとあったけどー?でも俺がそんなことに全力で無駄な体力使うわけねえだろ。眠いの。出てって。」

そりゃそうだ。お前はそういう意味のないしかも自分に全く利益がない事大っ嫌いだもんなー。

くっそあーもう寝たきゃ寝ろよ。あのババアの相手を一晩中してたのかと思えば俺だって同情したくなる。昨夜もお疲れ様。そしてまた今夜も頑張って優雅に猫かぶってきてください。



・・・でもちょっと待て。今のセリフを聞いて突っ込まなきゃいけなさそうなとこが一つだけあるんだが?



「・・・なんで俺の部屋で寝ようとしてんの。」

風呂上りなのかまだ僅かに湿った髪はそのままに、(それで何故あんなさらさらのアジエ●スのような輝きを保ったままなのか全くわからないが。)毛布にもぐりこむ雪妃に一応聞いてみる。

「・・・・・・えー・・・?だって俺の部屋暖房ついてねえんだもん。」

だもんじゃねえよだもんじゃ。良い年こいてその言葉使いは何なんだ。

「何が悲しくて男にベット貸さなきゃいけねえんだよ。」

溜息混じりにそう言うと、雪妃はむくりと上半身だけを静かにベットから持ち上げた。

・・・あれ、なんか、こころなしか、雪妃さん目が据わってません?

・・・・・・もしかしてまだご機嫌斜めかこの俺様ホストは。

はあ、といかにも面倒くさそうに息を吐き雪妃は髪を掻き上げる。

「・・・あのさあ。夕べ美和さんが店来たっつったよな?」

「・・・それが、何。」

「うちの息子がいなくなったってキレててさあ、不機嫌絶頂でもーやりたい放題。」

そこで言葉を区切り雪妃はすうっと息を吸った。



――あのババア店に来た時から不機嫌でグラス置く時にうっかりちょっと音立てたヘルプに舌打ちして頭からシャンパンぶっかけるわその酒まみれのそいつの頭にライターで火つけようとするわついでにそいつはマジ泣きしだすしああ当たり前だけど止めたぜ?止めたけどその美和を止めた通りがかりのマネージャーは暴れた美和に眼鏡落とされて踏まれてしかもその当人は踏んだ眼鏡のせいで靴が傷ついたってんでさらに機嫌悪くなって酒瓶は割るわその砕けたガラスのせいでテーブルに傷がつくわ俺の20万のブランド物のジッポはぶっ壊されるわ・・・20万だぜ?いやそんな高いもんじゃねえけどさ俺のだぜ?俺のジッポ。私物!!俺の自前の私物の20万のジッポだぜ?それをヒステリーの馬鹿女にいとも容易く壊された瞬間ってお前分かるかあーもーマジ死ねば良いのに。んでさらには店の装飾にまで文句つけた挙句に壁にまで酒撒いてヒステリックに喚き散らすしもーボロボロ。店もスタッフもやってらんねえっつのあの糞ババア!!!!!!


はあはあと荒く息を継ぐ雪妃の目はやはり据わっている。

あれだけ捲くし立てられた筈なのにその内容がしっかりと頭に入っているのは雪妃の迫力のせいか。それとも俺の聴力と集中力がすごいのか。一瞬考えたが後者はありえないと結論づける。すごいのは俺ではなく雪妃だろう。



そしてまだ延々と続く雪妃の回想と言う名の説明。正しく言えばただの愚痴。




その後の話を聞けば、雪妃はこの日の損害をを全て弁償させ、しかもあわよくば店の売り上げアップに貢献させんばかりに好き勝手に暴れまくる美和を押さえつけ、宥めすかし、酒を注文させまくり飲ませまくり、見ろこれがNo.1のプライドだとでも言うように、最終的には泥酔させ酒豪のババアを潰してしまった。

俺の記憶だとあの女は大五郎の4リットルを飲んでもけろりとしていたはずだが。(しかもその前にワイン一本とかなり度の強いウイスキーをストレートで飲み干していたはずだ。)

そんなザルを超え、もはやワクのような女をどうやって泥酔させたのだろう。そしてどうやってそれだけの酒をあの女に入れさせ、飲ませられたのか。

その日美和が使った金は優に500万を超え、細かい金額は1000万くらいいったかなー?と適当で、雪妃もよく覚えていないらしい。

そしてさらにその後、美和を家まで送り届けた際に、若干自我を取り戻した美和に謝礼として50万ほどいただけたという。

そして店に帰った雪妃は自分を褒めまくり讃えだす周囲を尻目にオーナーに泣きついた。

美和さんのあまりにもあんまりな振る舞いに流石に精神的に疲れてしまったかもしれません。昨夜も実は俺徹夜でしたし、明日お店でお客様に素敵な時間をお過ごし頂く自信ないです・・・。このままじゃ、俺、明日店に出られないかも・・・。オーナー、俺、どうしたら良いでしょう・・・。


と涙目ながらに訴えた。(もちろん目薬。)

オーナーはうちの大事な雪ちゃんにそんな無体なことさせられるわけないじゃないっ!!

お店のほうは大丈夫よ。なんとか開けられると思うわ。雪ちゃんがいなくても一日くらいだったら何とかなるから、ゆっくり休んで頂戴? 今日はいっぱいお金貰ってくれたし、雪ちゃんだったら一週間位休んだって良いくらい。

じゃ、気をつけて帰ってね?v

と素晴らしく快く休暇をくれたらしい。(ちなみにオーナーは48歳男性である。)

雪妃は何処か儚げでクールで、そのたまに見せる笑顔が堪らないと店に来る女性全般に絶大な人気を誇っている。

店の客はその仕草に見惚れ、声色に聞き入り、稀に見ることのできる100万ドルの笑顔に卒倒するという。雪妃は今やこの街どころか東京で一番売れている最強のホスト、至上最高の夜王と言われている。

だが実際は、その仕草から声から笑顔から、実は全てが演技の嘘で固められた接客なのだ。

今回の休みもその日頃の演技力をフルに使い得たものである。

そんな男が仕事中常備しているものは客を落とす為の目薬と、営業用の客を呼び出す為につかう携帯電話だ。(ちなみに雪妃は3台以上の携帯電話を使い分けている。。)





―――長ったらしい説明をし終え、ふう、と達成感に満ちた息を吐き雪妃はまたベットに潜り込む。少しはすっきりしたらしい。

「・・・詐欺師。」

「ううん、俺はホスト。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

いや、詐欺師としてだってこの男は立派に食っていけると思う。

コイツの客が素の雪妃を見たらどう思うのだろう。

とてつもなく興味はあるが、この詐欺師まがいのホストがそんなヘマをするはずないので下らない妄想は止めておく。

そして、やめときゃ良いのに俺はふと思ってしまった事をぼそりと声に出してしまった。

声というのは一度外に開放してしまうと戻らない。

「・・・・・・・・・雪妃って死んでも成仏できなさそー。」

「・・・・・・――えー何?俺の代わりに部屋の掃除してくれんの?うわー、炯君優しー。」

「・・・は?・・・・・・・・・いや何言」

「あ、マジ?飯の買い物も行ってくれんの?嬉しー。」

「・・・・・・誰が行」

「あ、夕飯いらねえって?なんだ。休みだし美味いもん作ろうと思ったのに。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

最初は疲れすぎて頭がイったかと思ったが、


違う。


こいつ根本的に俺と会話する気が無い。そしてあわよくば俺をよく言ってお手伝い。悪く言えば雑用に使おうとしている。


嫌ならやらなきゃ良いだろうがとお坊ちゃん精神が働くが、生憎俺は料理ができない。

そしてホストを辞めても詐欺師に転職できそうなこの男の料理は、意外にも料理人にでもなれるんじゃないかというほど美味かった。

普段忙しく、ほぼ出来合いのもので作った料理でもものすごく美味いのに、まともに美味い物を作ろうとして作ったら、雪妃の料理はどれだけ美味いのか。


そして毛布の隙間から覗いている雪妃の目は、その視線だけで人を殺せるんじゃないかと思うくらいに怖かった。


俺は16歳の育ち盛りの食い盛りでなので夕飯を食えないのは痛い。

あんな顔して雪妃はムカつくことに喧嘩も強い。あの路地裏で出会った日、俺の鳩尾に拳を決め気絶させたのも実は雪妃だ。


そして俺は嫌々とはいえ、甘やかされて育ったお坊ちゃまで居候。

世間知らずなわけではないと思うが、多分今は逆らわないほうが良いだろうと直感的に思う。

昨夜の美和の事も、いくら今少し発散したからといって完全に気にしていないわけではないだろうし、多分機嫌もあまり良いとはいえなさそうだ。













「はーーーーーーーー・・・・・・・・・。」



長い長い溜息を吐いて部屋から出る。雪妃のクスクスという癪に障る笑い声が聞こえた。








・・・畜生。






どうせ誰か拾ってくれるんならもっとまともな人間がよかった。


そうは思ってもここから出て行く気は毛頭ないのだが。

敵にしてしまえば恐ろしいが味方であればこんなに頼もしい人物はいないだろう。










せめて雪妃の機嫌をこれ以上悪化しないようにと、音を立てないように、神経をフルに使って静かに扉を閉める。









―――こんな俺の些細な気遣いが報われる日は来るのだろうか。









だけど、報われなくても、でもまだ俺の家出は終わらない。


―――終われない。




雪妃様のジッポはSTANLEY GUESS(スタンリーゲス)の限定500個生産のLarge Wood Inlaid Zippo/Multi Wood Limited (ラージウッドインレイドジッポ/マルチウッド)

オンラインショップで見ていたらとても素敵だったので使わせていただきました。

まあ、壊されてしまいましたが(ごめんよ雪様)

正確には225,750円です。

雪様はシルバーアクセが好きだと良い。

CHROME HEARTS(クロムハーツ)とかKING BABY(キングベイビー)とか。

シルバーアクセは詳しくないので情報怪しいですが。

作者の調べ不足ということで勘弁してください。


次の話も、ギャグ主体の炯君弄られ話にしていきたいと思いますので、もしよければお付き合いください。

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