carry out
2.
俺が中学を卒業する頃。
父親は相変わらず家にはいなくて、母親はホスト狂いになった。
毎晩毎晩。大金を振りまいては、たまに帰ってくる糞ババアに、俺はとうとう。
限界点を突破した。
16の誕生日。
俺は決意する。
―こんな家、出てってやる。
決行はPM12時。
―――バタバタバタ。
「お待ちください炯様!!美和様が知ったらなんと言われるか・・・!!」
「うっせ、死ね。」
家付きの執事が煩く喚いた。何が美和様だ。顔に似合わねえ名前しやがって。
今は母の名前などに構っているほど暇ではないのだが、長年の憎しみメーターが頂点に達しているので、その美和という単語一つにも舌打ちをしたくなってしまう。
広い家だ。運動不足の中年執事を撒くのは容易い。
というか、自分でかけた廊下のワックスで滑ってこけていれば世話はない。
凄い音と悲鳴が聞こえたが死んじゃいないだろう。死んだとしてそれは決して俺のせいではない。
・・・多分。
勢いよく玄関の扉を開き外にでる。
また無駄に広い庭を通り抜け家の敷地から一歩踏み出し振り返った。
あの日から、見るだけで吐き気を催しそうだった。
見栄の塊のような豪邸。
趣味の悪い金箔の門。
二度と帰ってくるかこんな家。
今までだって此処を通るのが恥ずかしくて裏門から出入りしていた。
今日で最後。見納め。
今日そこを通ったのは、一回通ってみたかったからとかではなく、決してそんな好奇心ではなく、最後だから。
もう二度と帰ってこないと決めたから。
それだけだ。
本当に。
―――いや、本当にそれだけだよ?
***
俺はババアが通うホストクラブの前で待ち伏せた。
その間2,3度知らない女の人とか危ないオヤジに声を掛けられたりしたけれどそれを全て
ウザイと一刀両断して追い払う。それどころじゃない。俺のこれからの人生がかかってんだよ。下等人間ども。
寒さに負けず待ち続けてきっかり2時間。
男共をはべらせ出てきたババアの金のどっさり入ったハンドバックを、ひったくりよろしく奪い取り、俺は走った。
サングラスに、金髪のウィッグ。一瞬じゃ、自分の息子だとは判断できないだろう。
なぜなら、あの女は俺にそこまで愛はない。
なんたって、先日久々に家に帰ってきたあの女は、俺の名前を呼ぶのに1分弱かかっていたから。
それから俺は、
逃げて、逃げて。逃げまくった。
追われているかもわからなかったが、
全力疾走で走り続けて。
そして、今に至る。
繁華街の裏路地に入り込んで、息を整える。
バックの中には、30枚はくだらない諭吉と、ゴールドかードが入っていた。
これで、暫くは一人で生活できる。
俺は息を吐く。
安堵の溜息を。
これで、やっと。
家出、成立。
ずるずると壁伝いに座り込む。
ちょっと、・・・疲れた。
このまま、此処で眠ってしまおうか。
考えるのが面倒くさくなってきた、その時。
「・・・あ、いた。」
突然コンクリートの壁に響いた声。
暗くて顔はよく見えないけれど、長めの髪と、色素の薄い目だけがやけに目立った。
俺は威嚇するようにバックを胸に抱え後退さる。
「誰っ・・・!!!」
誰だ――。言おうとした瞬間に鳩尾に響いた衝撃。
痛い、と思う間もなく、情けないことに俺は、そこで意識をなくしてしまった。
家出決行から3時間。
早くも、そして愚かにも俺の家出は、終わりを迎えて・・・・・・・・・・・・・・・いいわけあるか。冗談じゃねえ。
でも、この状況でそんなことを思ってみても、空しいだけだろうが。
ああ、もう。面倒くさい。
そしてフェードアウト。
言っとくけど、ゲームオーバーにはまだ早いだろ?
*
家出編です。
炯君は頭は良いのに何処か抜けているので全く計画性がありません。
何故わざわざ誕生日まで待ったのかというと、16歳以上の方がなんとなく色々できそうだから(偏見)となんか格好よかったから。
所詮お坊ちゃん。