world end
1.
世界なんか大嫌いだ。
最も、今言った世界というのは地球規模で言う世界なんかではなく、俺の今現在生きているとてつもなく狭く、下らない世界だということを、最初にわかっていてもらいたい。
俺の家には金がある。
とてつもなく莫大な財産がある。
父親が大手不動産業者の社長で、母親が華道の家元の三女という、ものすごくありきたりな、いわば金持ち夫婦の間に俺は不本意にも生まれてしまった。
そしてすくすくと16歳の立派な高校生まで育った俺は、容姿端麗、頭脳明晰な少女漫画雑誌を開けば絶対何処かにいそうなアイドル系、女子の憧れ、少女漫画のヒロインの彼氏待遇的男子になっていた。
小さい頃から勉強やら習い事やら、両親が俺に求めた教養を天性の才能と努力でこなし続け、会社のパーティだ、社交界だ、どこにだって連れ出され、褒め称えられ、賞賛を浴びまくった。
ピュアだった小学校低学年の頃はそれが嬉しくてしょうがなくて、人に褒めてもらうのが快感だった。
褒められるためなら何でもやった。ありとあらゆる教養を身につけた。
けれど。
おかしなことに気づき始めたのは、小学校6年の、冬。
12歳の誕生日だった。
自宅の豪邸での馬鹿じゃねーかと思うくらいの盛大なパーティ。
12歳の子供の目で見てもこれは金がかかっているのだと理解できた。
だってケーキがウエディングケーキ顔負けのおよそ30段の特大ケーキだった。だってたかが12歳の餓鬼の誕生日にモー●ング娘が来ていた。(興味がなかったので顔や名前は全く思い出せないが)。
飛び交う祝福の言葉。それに混じって俺の自慢話。
祝福は、客。自慢は、母。
父の姿はここにはない。
母の口からは俺と、家の自慢話ばかり。
客からは社交辞令。
父は仕事。
母は話す。
客は聞く。
父は会社。
母は話す。
客は褒める。
父は家の主。
母は話した。
客は聞いた。
父は、いなかった。
母は止まらない。
客の反応はパターン化。
父はいない。
俺は知らない。
そして俺は初めて気づく。
12年同じことを続けてきてやっと気づく。
ああ、
ここに、俺はいなかった。
この場所にはいた。しかも主役だった。でも、名前ばかりの主役だった。本当に、本物のお飾りだった。だから俺の名前はいたるところでよく聞こえた。
けれど、
話すのは母。聞くのは客。父は仕事。
俺は、ただの話のネタ。
俺は母の自慢だった。俺は母の道具でしかなかった。俺は母の金もうけの道具だった。
俺の今までの人生の全てが、こいつらのものだった。
俺の名誉も、成績も、特技も趣味も、容姿さえも。
全ては、母のモノだった。
ああそうか。
悟った瞬間に世界は変る。
全てが偽善。全てが偽者。
今の俺の世界に本物は俺だけだった。
俺の周りは、大層、吐き気がするほど、汚かった。
気づいた俺は、歪んでいく。
パーティは続く。俺は停止。
アイドルが歌を歌う。
平和や、美しい恋愛の歌を。
全部全部偽者だろう飾り立てられた言葉は、酷く軽々しかった。
どうせ思ってもいないことなのに、引きつった笑顔で、ゴクロウサマ。
時間は進む。
俺は止まる。
誰も話しかけないで。
どうせ全部偽者だろ。
ああ、触んじゃねえよ母親。
穢れる。
言っておくが、この時俺は、表面上まだあどけない12歳の餓鬼だった。
*
こんな感じで始まりを迎えました。
mad-dog。
英語圏のスラングで睨みつけると言う意味らしい・・・。(自信なし)
ギャグ風味に、ある男の出会いと母親とのバトルを描いていきたいと思いますので、どうかお付き合いくださいませ。
世杞