虚影VSスケルトン
空間の歪みはひび割れ、そのひび割れより一つの影が、『私』達の目の前に降り立った。
そう影、その降り立った者を一言で表すのならば、見た者は誰もがそう言うだろう。
何故なら、その降り立った者はそうとしか言いようのない存在だったからだ。
見た目は、全長ニメートル程の大きさの、猫科の動物を彷彿させる、四足獣の姿をしていた。
ここまでならば普通のモンスターと言ってもよかっただろう。しかし、このモンスターは、その存在感がおかしかった。
見た目は三次元の立体のはずなのに、この世界にいるのが正しくないような、今見えている姿が本当の姿ではないような、そんな印象を『私』は持った。それに加えて、さっきからあのモンスターからは何か、揺らぎを感じる。
まるで、ここにいるのは別の何処かにいるモンスターの影にしか過ぎないのではないか?そんな風に『私』に思わせるだけの何かが、その揺らぎから感じられた。
「何だあれ?」
『私』がそんなことを考えていると、お兄さんが呆然とした声でそう言った。
「わかんない。わかんないけど、こわい」
マスターは、自分自身を抱きしめながら、震える声でそう言った。
「アスト。・・・少し待ってろアスト。あいつは俺が倒してやるから」
お兄さんはそうマスターに言って、腰にさしていた剣を抜いた。
「化け物、俺が相手だ」
お兄さんは抜いた剣を構え、影の前に進み出た。
『GAAAAA!!』
それに反応した影がお兄さんに向かって跳躍した。
「これでも喰らえ!」
お兄さんは、跳躍した影に向かって剣を振るった。
が、影は空中でさらに跳躍して、お兄さんの剣をかわす。
「な!?」
剣をかわされて驚いたお兄さんの隙を突き、影がお兄さんに肉薄して腕を振り上げた。
「おにいちゃん!」
マスターがそれを見て叫ぶ。
「くっ」
影は振り上げた腕をお兄さん目掛けてたたき付けた。
当たる!『私』はそう思った。
だが、現実にはそうはならなかった。
何故なら、お兄さんと影との間に割って入った別の影があったからだ。
影の振り下ろした腕は、お兄さんではなく、割って入った新しい影の方に命中し、その影を吹き飛ばした。
『GA?』
「「『な!?』」」
その光景に、『私』、マスター、お兄さん、影の四者はそれぞれ驚き、慌てて影が吹き飛ばされた方向を見た。
吹き飛ばされた影は、広場の周りにある木に激突したようで、幹の真ん中から折れた木の根本に転がっていた。
『私』がその影を注視してみると、その影の正体は先程こちらを見ていたスケルトン達の内の一体。盾持ちのスケルトンだった。
状況から考えるに、あの盾持ちのスケルトンがお兄さんを庇ったようだ。
だが、何故スケルトンがお兄さんを、生者を庇ったのだろう。
ますますあのスケルトン達が何を考えているのかわかなくなり、『私』は困惑した。
だが、影はそんなことは気にしないようで、再びお兄さん目掛けて攻撃を決行した。
しかし、吹き飛ばされたスケルトンの方を見ているお兄さんとマスターの二人は、影のその動きに気づいていない。
『危ない、マスター!!』
「え?」
『私』の警告をマスターが聞いた時にはすでに手遅れ。影の腕がマスターの直前に迫っていた。
当たる!そう『私』が思った瞬間、横から飛んで来た闇色の塊が影の側面に命中し、影を大きく吹き飛ばした。
『GUAAAAA』
「え?」「なんだ?」『いったい何が?』
『私』達三人は、その展開についていけず目を白黒させた。
しかし、状況は『私』達を待ってはくなかった。
『GURAAA!!』
吹き飛ばされた影は、怒りを宿した叫び声を上げながら、自身を吹き飛ばした相手目掛けて疾走した。
『私』達は影が向かった先に目を向けた。
『私』達が見た先にいたのは、陣形を組んで影を迎え討とうとしているスケルトン達だった。スケルトン達の割り振りは、前衛に剣と盾を持ったスケルトンが七体。その後ろに槍を持ったスケルトンが四体。そして前衛から間を空けて、後衛に杖を持ったスケルトンが三体と弓を持ったスケルトンが二体。そして、後衛を守るように鎧を纏い鎚を持ったスケルトン達が三体配置されていた。
スケルトン達がまるで生者のようだと思った。
このスケルトン達は、完全に『私』の知るスケルトンとは別者であることが『私』の中で確定した瞬間だった。
だが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。『私』がスケルトン達の評価をしている間に、影がスケルトン達と交戦を開始した。
影の方は、さっきお兄さんの攻撃を回避する時に使用した、空中跳躍あるいは二段ジャンプと言える移動能力を駆使し、スケルトン達を撹乱しながらヒット&ウエイで攻撃している。
それに対してスケルトン達は、前衛の盾持ちが影の攻撃を受け止める。そして、影が攻撃を防がれて硬直するその一瞬の隙を狙って、他のスケルトン達が攻撃するという戦術をとっていた。
「わあ、すごい」
マスターが両者の戦いを目をキラキラさせながら見ている。
「たしかにすごいな。というか、あいつらは結局何なんだ?」
お兄さんもマスターに同意しながら、両者の戦いを観戦している。
カ・チャ
『私』がそれぞれ両者の戦いを見ていると、後ろからそんな音がした。
「「『うん?』」」
『私』達が音のした方を見ると、そこには剣と盾を降ろした状態のスケルトンが一体立っていた。
どうやら、最初にお兄さんを庇って吹き飛ばされたスケルトンが復活したようだ。
そして、マスターは何を思ったのか、スケルトンのそばに歩み寄った。
「スケルトンさん。さっきは、おにいちゃんをたすけてくれて、ありがとう」
マスターは、立っていたスケルトンに向かって、頭を下げながらそうお礼を言った。
カチ、カチ、カチチ。
スケルトンは、マスターのお礼に反応するように、歯をかちあわせた。
「おい、アスト。危ないぞ」
お兄さんは、マスターの行動に驚き、慌ててマスターとスケルトンの間に割って入った。
「なにが?」
「何がって、そりゃあ・・・」
「おにいちゃん。スケルトンさんならだいじょうぶだよ。だって、さっきもいまもたすけてくれたんだよ」
「それは、そうだけどな。アスト、俺だって助けてもらったことは感謝してるんだ。だけどな、こいつらの正体がはっきりしてないのも事実なんだ。だからなアスト。頼むから不用意なことはしないでくれよ」
「う~ん。でも、おれいはちゃんとしないとダメだよ、おにいちゃん」
「それは・・、そうだな。さっきは助けてくれてありがとう」
マスターの言葉を聞いたお兄さんは、マスターと同じように頭を下げながらスケルトンにお礼を言った。
カチ、カチ、カチチ。
スケルトンは、さっきと同じように、歯をかちあわせて応じた。
「それで、あらためて聞くが、お前達は何なんだ?」
お兄さんは、いをけっしたようにスケルトンにそう質問した。
カチ、カチチ、カチ、カチ、カチチチ。
スケルトンは、お兄さんの質問に対して、そう歯をかちあわせて返答した。
そう、返答したのだろう。が、いかんせん『私』達にはスケルトンの言葉など理解出来ない。
『「「???」」』
その結果、『私』達は揃って首を傾げた。
「たぶん、答えを教えてくれたんだろうが、何と言ったのかわからないな」
お兄さんは、スケルトンの返答に対して、正直にそう言った。
たしかに、スケルトンに答える意思があっても、話が先に進みませんね。
『私』は、スケルトンとの意思疎通方法がないか、検索を開始した。