刺客対蟹型&貝型3
「さあ、いくわよ!炎矢 Level5 集束!」
ウ゛ェールの弓に、莫大なエネルギーが集束を始めた。それは徐々にエネルギーから変化していき、最終的には一本の炎の矢と化した。
「みんな。私の方の準備は出来たわ」
「了解だ。後は、あの貝が口を開けばいいんだよな?」
「ええ。それまで私は、この炎矢の維持に掛かり切りになるけど、防御は任せたわよ!」
「おう、任せとけ!しっかり守ってやるよ!」
ルベルとアスルの二人は、ウ゛ェールの前でそれぞれの武器を構えた。
その他の仲間達も、ウ゛ェールを守る為にそれぞれの位置に移動した。ブラオンとブランの二人は、ルベル達とウ゛ェールの間に。ユウは、ウ゛ェールの後方に移動した。そして、ユウは杖を構えて《障壁》の魔法を展開した。
「来るわよ!」
彼らが戦闘準備を完了させた直後、蟹型が浜辺に上陸した。
蟹型は、横歩きでルベル達のもとに突っ込んでいった。
「ウ゛ェールの邪魔はさせねぇぞ、蟹野郎!」
「そのとおりだ!」
ルベルとアスルも、蟹型の足止めの為に前に出た。
そうして、蟹型とルベル達の戦いが始まった。
蟹型は、その殻でルベルの剣とアスルの槍を弾きながら、泡とハサミでルベル達に襲い掛かる。
それにたいしてルベル達は、ルベルの《真空斬》で泡を破裂させながら、殻の隙間目掛けてスキルを放っていった。
蟹型とルベル達は、一進一退の攻防を繰り広げた。
パカッ
そんな蟹型を他所に、貝型も着実にルベル達に近づいて来ていた。そして、浜辺から数メートルの距離にまで来た貝型は、砲撃準備の為に殻を開いた。
「チャンス!これでも喰らいなさい、貝モドキ!」
ウ゛ェールはそのチャンスを逃さず、今まで維持していた炎矢を、貝型の内部目掛けて解き放った。
ヒューン ドォーン!
炎の矢は、狙い違わずに貝型の内部。貝型の柔らかいであろう部分に命中し、盛大に燃え上がった。
「やったのか?」
「手応えはあったわ」
彼らが固唾を飲んで見守る中、貝型は殻をパックリ開けて沈黙した。
「倒した?」
沈黙した貝型を、蟹型を気にしつつ観察した。
「死んでる。死んでるわ!私達の勝ちよ!」
その結果、貝型の死亡が確認出来た。ウ゛ェールは、歓声を上げた。
「よし。じゃあ、次は僕の番だね」
貝型の死亡が確認されると、ユウは《障壁》を解除して、何事か始めた。
「ユウの方は何をするつもりなんだ?」
そのユウを見て、ルベルが疑問を口にした。他の面々も、ユウが何をしようとしているのか、興味津々で聞き耳を立てている。
「ああ、そのことか。わりと簡単なことだよ。この貝を、砲弾にしようと思うんだ」
「「「「「えっ!砲弾!?」」」」」
ユウの言葉を聞いた全員が、唖然とした。
「そんなに驚くことかなぁ?」
ユウは、仲間達の様子に首を傾げた。
「そりゃあなぁ」
「そうよねぇ」
「普通はねぇ」
「そんなことは考えつかないよな?」
「・・・(コク)」
ユウの仲間達は、誰もがユウの思考を理解出来なかった。
「だけどさ、あの硬い蟹を倒すのに、同程度の硬度があるこの貝をぶつけるのは、有効だと思うけど?」
「同程度の硬度?」
「その案って、石を削るとかそんな話がモトネタなの?」
「そうだけど?理屈からいっても、高い確率であの蟹に有効打を与えられると思うよ?」
「どう思う?」
「そうねぇ?」
ユウを除いた五人は、ユウの提案について検討した。
蟹型と戦っている最中だというのに、以外と余裕があるようだ。
もっとも、現在蟹型が積極的に攻めていないからかもしれないが。現在蟹型は、泡を吐き出すばかりで、ハサミを振ることもせず、前進しようともしていない。
貝型がやられたことに、動揺でもしているのだろうか?
「とりあえず、試してみるんでいいんじゃないかな?」
「そうよね。ものは試しと言うし」
どうやら、ユウの案を実行することに決まったようだ。
「とりあえず、やってみることになったわ。ユウ、私達が手伝うことはある?」
「ああ。ウ゛ェールは、風矢を使ってあれを飛ばすのを手伝ってほしいな」
「そう、わかったわ」
「それじゃあいくよ」
「ええ」
「全てを吹き飛ばさせ《ウインド》!」
「跳びなさい。風矢 Level3 拡散!」
ユウの風の魔法と、ウ゛ェールの風の矢が貝型の残骸目掛けて放たれた。
二つの力は、貝型にたどり着くまでに解け、途中で交じり合ってさらに強力な風を起こした。その風は、貝型に到達すると、その残骸を空高く舞上げた。
「さあ、いけ!」
「貫きなさい!」
舞上げられた残骸は、ユウとウ゛ェールの号令に従って、蟹型目掛けて高速で落下していった。
「GUGYAAAA!!」
落下していった貝型の残骸は、その大半が蟹型の身体に命中した。
攻撃を受けた蟹型はのけ反り、絶叫しながら海に倒れ込んでいった。
「倒せたのか?」
「さあ?」
彼らは、蟹型が起き上がってくるかしばらく様子を見た。
しかし、蟹型が自分から起き上がってくることはなかった。
「倒した?・・・倒したぞ!」
「よっし!」
彼らは、全員で蟹型を倒したことを喜んだ。が、ここが彼らの限界だった。
アスティアとミカエル。亀型に蟹型、貝型と連戦を続けた彼らには、体力も魔力もほとんど残ってはいなかった。蟹型を倒して安堵した彼らは、浜辺に膝をつき、そのまま立ち上がれなくなった。緊張感が一瞬途切れて、無理が効かなくなったのだろう。
彼ら六人は、示し合わせたわけでもないのに、残る二体がいる方に揃って視線を向けた。
全員が、今襲われたら終わりだということを理解しているようだ。
しかし、彼らの不安は良い意味で裏切られた。それは何故かというと、彼らの視線の先には、ロブスター型とペンギン型の残骸が転がっていたからだ。
「「「「「「はっ!?」」」」」」
彼らは、その光景にただただ呆然とすることになった。
「うーん。こちらもようやくおわったみたいだね」
呆然とする彼らに、上空からそんな声がかけられた。
ばっ
全員が慌てて声のした方を見た。そこには、アスティアが退屈そうに浮かんでいた。
「お、お前がアレをやったのか?」
ルベルは、ロブスター型とペンギン型の残骸を指さしながらそう言った。
「そうだけど?」
アスティアは、あっさりルベルの言葉を肯定した。
「な、なんで?だってあなた、最初の時に・・・」
「そうだね。きみたちのことをてきだっていって、あいつらのことをみかただっていったね」
「じゃあ、なんで?」
「それはひみつかな~。それに、きみたちもここまでだしね《スリープパウダー》」
アスティアはそう言うと、青白い粉を口から吐き出した。
その粉を吸ったルベル達は、バタバタと倒れていった。少し様子を覗き込んでみると、全員寝ているようだ。
「さて、ぜんぶかいしゅうして、ミカくんやサラたちにごうりゅうしよっと!」
アスティアは、そう言うと刺客達六人と、影達の残骸をこことは別の亜空間に放り込んでいった。
そして、全てを回収したアスティアは、この空間から転移して去って行った。
ピキ ピキ パリーン!!
アスティアが去った後、空間が割れた。しかし、今回は新たに出て来るものもなければ、吸い込まれるものもなかった。しばらく開いていた空間のひび割れは、その後何事もなかったように閉じていった。
ただ、何か黒い物体がひび割れが閉じる前に飛び込んで行ったように見えたのは、気のせいだろうか?




