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スケルトンと歪み

音の発生源。それは、森の中を行進する骸骨の群れだった。そう、骸骨。ヒューマン種の全身骨格のスケルトン達だ。


『私』はマズイと思った。何故なら、死霊系のモンスターの特徴に、生者に襲い掛かる性質がある。

『私』が認識出来る範囲にいるいじょう、このままだとマスターが襲われてしまう。


『マスター!急いでお兄さんのもとまで走ってください!』


そのことを理解した『私』は、慌ててマスターにそう叫んだ。


「え!え?いきなりどうしたの、あんさらー?」


マスターは、『私』が急に叫んだ理由が判らずに、オロオロしている。


『説明は後ですマスター。急いでください!』


「わ、わかった」


『私』がもう一度叫ぶと、マスターは慌ててお兄さんの方に走り出した。


ガ・チャ


マスターが走り出したすぐ後、スケルトンがその落ち窪んだ眼孔でマスターの方を見た。


見つかった!そう思った『私』は、マスターにさらに急いでもらう為に、声を上げようとしたが、その前に違和感を覚えた。


何故あのスケルトン達は、マスターを認識しているにも関わらず、動こうとしない?


これが一般的なスケルトンならば、生者を認識した瞬間にでも、ダッシュで追いかけてくるはずなのだ。


なのにあのスケルトン達は、いっこうに動こうとはしない。それどころか、死者が生者に向けるべきいかなる感情の色も、あのスケルトン達からは、『私』は確認出来なかった。

「おにいちゃん!」


『私』がスケルトンの様子を訝しんでいる間にも、マスターは走りつづけて、ようやくお兄さんのもとまでたどり着いた。


「うん?どうしたんだアスト。そんなに慌てて?まさか、魔法が使えなくて、慌てているわけじゃないよな?」


「え?まほうなら」


『マスター、それは後にしてください。今は、後ろの状況をお兄さんに見せるのが先です!』


『私』は、暢気な二人の会話に割り込み、話をスケルトンのことに戻した。


「おにいちゃん!まほうのことはいまはいいから、あっちをみて!」


そう言ってマスターは、森の奥を指差した。


「あ?向こうがどうかしたのか、アスト?」


お兄さんは、マスターの指差した方に目を向けた。


「アスト、向こうがどうしたんだよ。何も、うん?・・・あれは!何でここにスケルトンがいるんだ?」


お兄さんは、森の奥のスケルトン達を見つけられたようで、目を見開いて驚いている。


「スケルトン?」


お兄さん同様、スケルトン達の方を見ていたマスターは、お兄さんのその言葉に反応した。


「ああ、死者の成れの果てのモンスターだ。だが、なんでここにスケルトンなんかがいるんだ?」


「なにかおかしいの、おにいちゃん?」


「ああ、ここを紹介する時にも言ったが、ここにはスケルトンみたいな、危険なモンスターはいないはずなんだよ」


「げんにいるよ?それと、スケルトンってきけんなの?」


「たしかにそうだな。それから、スケルトンはかなり危険だ」


「なんで?みためはよわそうだよ」


マスターは、スケルトン達を見ながらそう言った。


「何?」


お兄さんは、マスターの言葉を聞いて、スケルトン達を観察し始めた。


『私』も、あらためてスケルトン達を観察した。


スケルトン達の姿は、『私』に記載されている情報と同じで、生物の全身骨格。つまり、骨が支え無しで浮いた状態の骸骨の姿だ。

そして、数は二十と、一般的に集団で行動することが多いスケルトンにしてはやや少ないと思った。

それから武装は、『私』が知覚出来る範囲では、剣・槍・鎚・弓・杖と、種類が揃っていた。ただ、スケルトン達はその武器を構えてはいない。

他には、盾や部分的に鎧を纏っている個体も何体かいた。


『私』は、やはりおかしいと思った。

スケルトン達の見た目は、たしかに『私』に記載されている情報と一致している。

だが、スケルトン達の様子が『私』の情報と全くと言っていいほど一致していなかった。


何故、武器を持っているのにそれを構えようとしない?何故、数もそこそこいるのにマスター達を囲むどころか、動こうともしない?きわめつけに、何故マスター達に、生者に向ける視線に、嫉妬も羨望も憎悪も、いかなる負の感情も見受けられないのはいったい何故?


「たしかに、アストの言うとおり強そうには見えないな。というか、あのスケルトン達、本当にスケルトンなのか?」


「どういうこと、おにいちゃん?」


「姿は俺の知っているスケルトンなんだが、それいがいは俺の知っているスケルトンとは、かなり違って見えるんだよな?」


「おにいちゃんの知っているスケルトンって、どんなモンスターなの?」


「俺の知っているスケルトンは、放置された死体に瘴気が入り込んで生まれるモンスターで、集団で徘徊して、生物を見ると無差別に襲い掛かって来る奴らだ。スケルトンに恐怖なんて感情ないから、相手が魔王だろうが、竜だろうがお構いなしに襲い掛かってくる。その上、あいつらはもう死者だから、光魔法や神聖魔法で浄化でもしない限りは、まともに倒すことも出来ない。剣や弓は効果が薄いし、鎚みたいな打撃武器は有効なんだが、骨を一つ二つ砕いたぐらいじゃ、スケルトン達を倒すことは出来ない。魔法も、さっき言った二つ以外は、よほど威力がない限り、なかなかスケルトン達を倒せない。それに、こっち側は生きていて、向こうが死んでいることがさらに問題なんだ」


「どういうこと?」


「それはな、スケルトン達は集団で徘徊するから、単体との戦闘なんてほとんどない。だからこっちも、スケルトン討伐の時には集団で戦うんだが、生者と死者じゃあ、集団戦のリスクがまるっきり違うんだ」


「つまり?」


「俺達は生きてるからな、水も食糧も集団を討伐の間中維持出来るだけ必要だし、さっき言った二つの魔法の使い手も多数いて欲しいことになる。が、そこは人のしがらみというか、なんと言っていいのか、動かせる数や命を賭けてくれる数もその時々で安定しないんだ。それに比べて向こう側はもう死者だからな。食糧なんて必要ないし、疲労による休息も不要。それに向こうの意思は、生者を殺すことでまとまっているから、こっちみたいなしがらみなんか何も無いんだ。はっきり言って、集団で相手にしたくないモンスターの上位に入ってるぞ、スケルトンわ」


「うわー、たいへんそうだねおにいちゃん。でも、そうするとあのスケルトンたちはちがわない?」


「そうなんだよなぁ。だけど、逆にスケルトン以外のなんだと言われると、わからないしな」


マスターとお兄さんがそんな話をしている間も、スケルトン達は動かず、ただマスター達を見ていた。


ピ・キ


『私』がスケルトン達を見ていると、どこからか何かがひび割れるような音が聞こえてきた。


『私』は周囲を見回した。しかし、今のような音を出す物は見当たらなかった。


ピ・キ・キ


また聞こえた。


『私』がまた周囲を見回していると、スケルトン達に動きがあった。


スケルトン達は、マスター達から視線を外し、マスター達と自分達の間にある空間に視線を向けた。


「おにいちゃん、うごいたよ!」


「ああ、だけどあいつら何を見ているんだ?」


スケルトン達の動きを見て、マスター達からそんな言葉がこぼれた。


ピ・キ、ピ・キ・キ、パ・リ


また音がした。今度は、音の発生源がわかった。


スケルトン達が見ている場所。そこの空間が歪み始めていた。


それに反応するように、スケルトン達は武器を構え、臨戦体勢に移行しだした。


「あのスケルトンたち、どうしたんだだろう?」


「わからん、だが、明らかに俺達じゃない何かを警戒しているみたいだ」


お兄さんの言葉に『私』は思った。


『マスター達には見えていないのですか?』


「みえていないって、なにがあんさらー?」


「どうかしたのか、アスト?」


「あのねおにいちゃん、あんさらーがみえていないのかって」


「アンサラー?その本が見えていないのかだと?」


「うん」


「・・・詳しいことは後で聞く。それよりも、その本には何が見えているんだ」


「なにがみえているの、あんさらー?」


『空間の歪みです、マスター』


「くうかんのゆがみ?」


「空間の歪み?そう言ったのかアスト?」


「うん、そうだよおにいちゃん」


「俺は理解出来ないが、スケルトン達がああなった理由はそれか」


「そうなの」


『そうです。空間が歪むと同時に、スケルトン達は臨戦体勢になりました』


「おにいちゃん、あんさらーがそうだって」


「そうか。にしても、ますますわけがわからない。いったいぜんたいどうなっているんだ」


ビ・ギ・ビ・ギ、バ・リーンーーーー


お兄さんがそう言った直後、今までの比ではない音をその場にいる全ての者達が聞いた。


そして、歪みより何かが出て来た。

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