刺客対蟹型&貝型
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「わあー、ほんとうにかっちゃた!」
アスティアは、浜辺での戦闘終了を見て、そう言った。
「まあ、せっかくサービスしてあげているのに、まけちゃったらアレだし、ここはよろこんでたほうがいいのかなぁ?」
アスティアの口から、また意味深な発言が飛び出した。
サービスというのは、影達の戦力を分散したことについてだろうか?それとも、まだ何か彼らを支援しているのだろうか?しかし、その理由は?
アスティアの行動に新たな謎が発生した。
「さて、カメさんがたおされたことだし、さっそくはじめよっかな。《コンバート》」
アスティアは、浜辺で沈黙している亀型を指さし、何かの魔法を発動させた。すると、ルベル達の見守る中で変化が起きた。
「なんだこれ?」
最初にその変化に気づいたのは、沈黙した亀型を触っていたルベルだった。
「どうかしたのか、ルベル?」
「アスル。いや、なんかこいつ、一瞬光らなかったか?」
「いや、そんなことはないと思うが?」
アスルは、ルベルの言葉に首を振った。
「・・・ルベル、正しい」
そんな会話をしている二人に、ブランがそう言った。
「なに?ブラン、お前もこいつが光ったところを見たのか?」
「・・・(コク)」
アスルの確認に、ブランは迷わず頷いた。
「ルベルとブランの二人が見たってことは、気のせいじゃない?」
ピカッ! フッ
「「「うわっ!?」」」
アスルが、そう結論を出そうとしたちょうどその時、沈黙していた亀型から強烈な閃光が放たれた。そして、強烈な閃光がおさまった時には、亀型の姿は影も形も無くなっていた。
「なっ、なんだったんだ、今の?」
「わからん」
「・・・(ふるふる)」
強烈な閃光を至近距離で受けた三人は、しばらくフラフラしていた。
「ちょっ、なによ今の」
先程の閃光を見た他の三人も、亀型がいた辺りに近づいてきた。
しかし、閃光の衝撃から立ち直ったルベル達と、後から来たウ゛ェール達が見たものは、亀型がいたという砂の跡だけだった。
それから彼らは、その現象の原因究明の為、いろいろ調べはじめた。
「ふふふ。うまくいった」
そんな彼らをしりめに、アスティアは上空で一人笑っていた。
そのアスティアの手には、小さな石ころが握られていた。アスティアは、その石ころを見ながら、楽しそうに笑い続けた。
「さてと、そろそろつぎのあいてにいってもらうかな。どれにしよっかなっと?《リリース》」
しばし笑ったアスティアは、そう言って新たな魔法を発動させた。いや、今回は発動している魔法を解除したと言った方がよいのか?
アスティアの魔法発動とともに、《タイムストップ》で停止していた四つの影の内二つが動き出した。動き出した影は、蟹型と貝型の二つ。影達は、浜辺のルベル達目指して移動していく。
「おい、次が来たぞ!」
亀型消失の謎を調べていたルベル達は、次の敵が来たことを理解した。
「戦闘準備!」
自分達の方に向かって来る蟹型、貝型を見たブラオン達は、調査を打ち切り、戦闘準備を始めた。
「今度は二体かよ」
「愚痴を言わない。残りがまとめて来ないだけ、まだましよ」
正直な感想を言うルベルに、まだ最悪ではないとウ゛ェールは言った。
たしかにそうだろう。残る四体が一斉に襲い掛かれば、彼らの全滅は確実なのだから。
「おやっ?」
「止まった?」
影達を迎え討とうとするルベル達の口から、そんな言葉がもれた。
そう、彼らが見ている前で貝型が途中で停止したのだ。ちなみに、蟹型は移動を続けている。
「うん?」
「なんだ?」
停止した貝型に動きがあった。貝が開き、中身が見えるようになったのだ。
「なにをするつもりなんだ、あいつ?」
「さあ?」
わざわざ防御を薄くしたような貝型の行動に、ルベル達は戸惑った。
ヒューン ドォッカァーン!!
ルベル達が戸惑っていると、貝型から何かがルベル達に向かって発射された。
その発射された何かは、ルベル達の三メートル程手前の地面に着弾し、大きな土煙を上げた。
「な、なんだ今の!?」
「ちょとまってね。こ、これは!」
落下物を確認したブラオンは、とてつもなく驚いた様子で奮えた。
「どうしたんだよ、ブラオン?」
「こ、これ」
ブラオンは、振るえる指先で落下物のことを指さした。
「いったいなんだったんだ?」
「し、しん・・」
「しん、なんだって?」
「し、真珠だよこれ!」
ブラオンは、ふるえる声でそう搾り出すように言った。
「真珠?真珠って、あの貝がつくる真珠のことか?」
「そうだよ!」
「「「「「ええー!」」」」」
ルベル以外の全員が叫び声を上げた。そして、われさきにと落下地点に向かって行った。
「あ、本当に真珠だ」
「見た目は真珠だな」
「綺麗」
「・・・(コク)」
落下地点には、ブラオンの言うとおり、大砲の玉サイズの真珠が落ちていた。
が、これが決定的な隙となった。
フワッ
真珠を見ている五人のもとに、音もなく何かが飛来した。
「な、なんだこれ!?」
「わ、わかんないわよ!?」
その飛来した何かは、真珠を見ていた五人をその内に取り込み、空中に浮き上がった。
「な、なんだこれ?」
その様子を、一人離れた場所にいたルベルは、ただ見ているしか出来なかった。
少しの間呆然としたルベルだったが、すぐに正気に戻って動き出した。
まずルベルは、仲間達の様子を確認した。シャボン玉のような球状の何かに取り込まれているが、全員無事なようだ。次にルベルは、その何かが飛来して来た方向に視線を移した。ルベルが視線を移した先では、蟹型の影が大量の泡を吐き出しているところだった。
「あいつか」
ブラオン達を捕らえたものの正体は、蟹型の泡だったようだ。
ヒューン ヒューン
それを見たルベルは、蟹型に向かって行こうとした。しかし、ルベルが動き出したちょうどその時、新たな飛来音がした。
貝型が、また真珠を発射したようだ。いや、違う?今回は、先程の大砲玉サイズではなく、普通の真珠大の物が多数ばらまかれた。
ヌプッ ヌプッ
貝型より発射された真珠散弾は、蟹型の泡に捕われているブラオン達のもとに飛来した。そして、大部分の真珠はブラオン達に当たらなかったが、一部の真珠が泡に命中し、そのまま泡の中に入っていった。
「な、なによこれ?」
「爆発したりしないよな?」
「縁起でもないこと、言わないでよ」
ウ゛ェール達は、泡の中に入ってきた真珠に、戦々恐々した。しかし、爆発の心配はすぐに無くなった。なぜなら、みんなの見ている前で真珠が水になったからだ。
「これは水?この真珠って、水を変化させたものなのか?」
「状況から考えると、そうなるね」
「まあ、爆発とかしないのなら、よかったのか?」
「・・・良くない」
真珠が爆発しなかったことに喜んでいたアスルに、ブランが深刻そうにそう言った。
「良くないって、どういう意味だブラン?」
「・・・水責め」
アスルの質問に、ブランは端的にそう言った。
「水責め?それってどういう・・」
ヒューン ヌプッ
アスルが、ブランにその不吉な言葉の理由を聞こうとしたちょうどその時、新たな真珠が飛来した。飛来した真珠は、また泡の中に入りこんで水になった。
その結果、泡の中の水嵩が少し増した。
「これは・・・。おいちょっと待てブラン!水責めってまさか?」
「・・・(コク)」
顔を青くしたアスルに、無情にもブランは頷いた。そして、アスルとブランの会話を聞いていた他の仲間の顔も、もれなく青くなっていった。
彼らは、慌てて泡からの脱出を試み始めた。
こうして、新たな戦いが開始された。




