ミカエル対刺客
~ミカエル対ユウ、ウ゛ェール、ブランサイド~
「さて、あなた達をさっさと片付けて、ティアの援護に行くとしましょうか」
エル君はそう言うと、光の翼を羽ばたかせ、高度を上げた。
どうやら、制空権を握るつもりのようですね。しかし、敵が魔法使い、弓使い、投げナイフ使いというのがネックですね。相手が、マスターの相手している三人だったら、一方的に攻撃出来たでしょうが、こちらの三人は対空攻撃が豊富そうですからね。
「王子、そう簡単にはいきませんよ」
黒い少年ユウがそう言うと杖を構えた。
「ブラオン達のもとにはいかせません」
緑色の女の子ウ゛ェールがそう言って弓を構えた。
「・・・」
白い女の子ブランは、無言でナイフをいつでも投げられるようにした。
「その心意気は立派だと思いますが、あなた達に僕を阻むことは無理ですよ」
そう言うとエル君は、彼らに向かって腕を一降りした。
すると、エル君の前にサッカーボール大の光球が出現し、彼らに向かって行った。
「阻め、災厄を退けるものよ《障壁》!」
黒い少年ユウがそう呪文を唱えると、三人の前に薄い壁のようなものが出現した。
ドォーン
そして、エル君が放った光球は障壁に衝突。大きな爆発が起こり、爆発音が周囲に響き渡った。
「くぅっ」
爆発で発生した煙りが晴れると、そこには刺客の三人が無傷で立っていた。しかし、術者達は無事でも、障壁の方はそうでもないらしく、あちこちにひびが入っていて、後そう何発も防げるようには見えなかった。
「へぇー、今の一撃を防ぎましたか。すぐに終わらせようと思って、それなりの力をこめたんですけど」
エル君の方は、自分の攻撃が防がれていたことに若干驚いていた。
「ユウ、大丈夫?」
「後何発かは防げると思う。けど、さっきの攻撃を連続で喰らったら、とても防ぎきれない」
緑色の女の子ウ゛ェールが、黒い少年ユウに心配そうに声をかけた。そして、黒い少年ユウはそう返事を返した。
「じゃあ、これ以上あの王子様に攻撃させないようにしないと駄目?」
「ああ、少なくとも連続攻撃させる隙を与えたら駄目だ」
「わかったわ、ユウ。あなたは障壁の維持に集中して。王子様は、私とブランで落とすわ。行くわよブラン!」
「・・・(コク)」
白い女の子ブランは、緑色の女の子ウ゛ェールの言葉に頷くと、エル君に向かってナイフを投げ始めた。
「おっと!」
エル君は、空中を縦横無尽に移動してその飛んで来るナイフを次々に回避していった。
「私も行くわよ王子様。焼き尽くせ、火矢 Level2!」
緑色の女の子ウ゛ェールは、そう言うと火の矢をエル君目掛けて射だした。
「へぇー、さっきのやつですか。・・・いえ、違いますね」
エル君は、今度はその攻撃を回避するそぶりを見せずに、そんなことを言っていた。
ドォーン!!
その結果、緑色の女の子が放った火の矢はエル君に直撃した。
「エルく・・・」
私は思わず叫びそうになった。
「この程度ですか?」
そう叫びそうになった。実際は、叫ぶ前にそんなエル君の声が聞こえてきた。
私がその声のした方に視線を向けると、そこには無傷のエル君がいた。
「な、なんでよ、直撃だったはずよ!?」
緑色の女の子ウ゛ェールの口からは、そんな驚愕の言葉が飛び出した。
「たしかに直撃はしましたね。けど、僕には火は効きませんから」
「火属性無効化能力?それとも、そういう種族的な体質?」
緑色の女の子ウ゛ェールの頭は、疑問で埋め尽くされたようですね。
「答えるつもりはありませんよ。さあ、行きますよ」
エル君はそう言うと、今度は火の玉を左手の手元で発生させた。発生した火の玉は、エル君が右手を近づけると形を変えていき、火の玉が完全に形を変えると、そこには赤い剣があった。赤い剣の形になった火の玉は、エル君の右手に握られた。
エル君は、その赤い剣をユウ達三人に向かってゆっくりと振り下ろした。
その瞬間、赤い斬撃がユウ達に向かって走った。
ガキィーン!!
「ぐうっ!」
放たれた斬撃は、ユウが維持していた障壁にぶつかり霧散した。
しかし、斬撃を受けたことで障壁にさらなる亀裂が入った。
あの様子では、後一発か二発打ち込めば障壁は突破出来るでしょう。
「さて、続けていきますよ」
エル君はそう言うと、今度は普通に赤い剣を数回振るった。
ガキィーン!ガキィーン!!
「ウ゛ェール、ブラン、逃げろ!!」
エル君の攻撃を防いでいる黒い少年ユウがそう叫んだ。
「馬鹿なこと言わないでよ!王子様の好きにはさせないわ。行くわよブラン!」
「・・・(コク)」
緑色の女の子ウ゛ェールは、黒い少年ユウの必死の叫びを退け、白い女の子ブランにそう言った。ブランはウ゛ェールの言葉に頷き、ウ゛ェールとともに前に出た。
「行くわよ、私の手札は火属性だけじゃないんだから!押し流せ!水矢 Level1 連!」
「・・・(切り裂け、《闇刃》)」
エル君の前に踊り出た二人は、新たな手札を切ってきた。
ウ゛ェールの弓からは無数の水の矢が上空に降り注ぐ雨のように放たれた。ブランのナイフは闇色に変色したナイフをエル君に向かって投擲した。
「これは!?」
その下から向かって来る攻撃を見たエル君は、咄嗟に剣を振るいそれを迎撃した。
カッ!ドォーン!!ヒュオーン
両者の攻撃は、若干エル君よりの位置で衝突し、周囲に衝撃波を撒き散らした。
「エル君避けて!」
「え!?」
私は、その攻撃が衝突した直後にあることに気がついた。そして、慌ててエル君に向かって警告の声を上げた。
ヒュンッ!ヒュンッ!
私の警告の言葉に疑問苻を浮かべたエル君を、先程の攻撃で相殺出来なかった水の矢と闇色のナイフの残りが襲った。
そして、今度は迎撃が間に合わず、攻撃はエル君に直撃した。
「ぐうっ!」
「エル君!」
攻撃が直撃したエルは、うめき声を漏らしながら後ろに下がった。攻撃が直撃した身体のあちこちからは、血が滲み出した。
「嘘、直撃だったはずよ!?」
「ああ、たしかに当たったはずだ。その証拠に、今回は血を流している」
「・・・(コク)」
私は、ダメージを受けた様子のエル君を見て声を上げた。そして、私と同じタイミングで、刺客達からも驚きの声が上がった。
「くっ。少しあなた達をなめ過ぎていましたか。いえ、自分の力を過信し過ぎましたね」
エル君の口からは、そんな反省と後悔の混じった言葉がもれた。
「王子様。あなたの身体いったいどうなっているのよ!私達の攻撃はたしかに直撃したはずよ!?」
「そうですね。いいでしょう、教えてあげますよ」
「「「えっ!教えるの!?」」」
ウ゛ェールの疑問にエル君が答えると言ったので、私と刺客達の口からは驚きの声が上がった。
「ええ。あなた達を甘く見たお詫びと、自分の傲慢を正す意味でね。さて、何故あなた達の攻撃が直撃したのに、僕がこの程度のダメージしか受けていない理由でしたね?」
「そうよ!なんであれだけの攻撃を受けて、血が滲んでる程度のダメージにしかなっていないのよ!?」
「その理由は僕の種族特性によるものです。天使化して半天霊状態の僕は、物質世界と精神世界にまたがって存在しています。その為、先程あなた達の攻撃を受けたのは物質世界の部分だけ。精神世界に存在している部分にまではあなた達の攻撃は届いていないんです」
エル君は、ぺらぺらと自分の特性について刺客達に話した。
「そういうこと」
「なるほど、そういうことか」
「・・・」
刺客達は、エル君の説明に納得がいったようで、それぞれ頷いた。
「さて、第二ラウンドを始めるとしましょうか。今度は油断しませんよ」
「それはこちらの台詞よ!」
ウ゛ェールがエル君の言葉に応じて、他の二人と一緒に武器を構えた。
第二ラウンドが始まる。
私は、その時そう思った。しかし、そうはならなかった。
ピキィ ピキィ
なぜなら、かつて聞いた不吉な音が聞こえてきたからだ。




