返しの矢と分断
「ティア、今のは何をしたんだ?」
私が疑問を抱いていると、エル君がマスターに質問してくれた。
「うーんとね、やをべつのばしょにとばしたんだよ」
「別の場所?さっきの魔法は、転送系の魔法だったのか?」
「うーん?べつに、それがメインのこうかっていうわけじゃないけど」
「じゃあ、メインの効果というのは何なんだ?」
「それはいまからみせてあげるよミカくん!《データセーブ》、《データコピー》、《データダウンロード》」
マスターはそう言うと、また私の知らない魔法を発動させていった。ただし、今度の魔法では魔法陣は出現しなかったので、マスターが何をやったのかは、不明だった。マスターが新たに発動させた魔法の名前は、《データセーブ》、《データコピー》、《データダウンロード》の三つ。これらも先程のように直訳すると、《情報保存》、《情報複製》、《情報収得》といった感じになる。これら四つの魔法の共通点は、情報に関する魔法ということだろう。ということは、おそらく刻属性の魔法。いったいマスターは何をするつもりなんでしょう?
「ティア、何も起きないけど?」
「えへへ、いまのはしたじゅんびだよミカくん。これからがほんばんだよ。いくよ、《データリアライズ》!」
マスターはさらに未知の魔法を発動させた。すると、マスター達の上空に魔法陣が出現し、何かが発射された。
私は、その発射された何かの後を目で追った。そして、その何かの見た目が、先程消失した風の矢と同一であることがわかった。
「全員回避して!」
その風の矢を見たウ゛ェールと呼ばれる女の子がそう叫んだ。
ウ゛ェールの声を聞いた他の五人は、急遽マスター達に向かっていくのを中断し、慌てて回避行動に移った。
その結果、彼らは左右に別れ、風の矢はその彼らの中心に刺さった。
「伏せて!」
私は、マスターの魔法が外れたと思いましたが、ウ゛ェールという女の子から、さらなる警告がはっせられた。
いったいどうしたのかと思い見たら、他の刺客五人は女の子の指示どおり地面に伏せていた。そして、私が先程外れたと思っていた風の矢に変化が起こった。
ヒュオ ヒュオーン!
なんと風の矢が解け、周囲に大量の風を吹かせ始めたのだ。その風の勢いはかなりのもので、刺客達が地面に伏せていなかったら吹き飛ばされていただろうと思うほどに凄まじいものだった。その証拠に、彼らの傍にあった森の木々は風に煽られてバキバキ、ギシギシ鳴っていた。
その風は彼らと森の木々を苛んだが、マスター達には防御結界のおかげで影響がなかった。むろん、マスター達の後方にいる私達にも同じことが言えます。
そして、5分程経つと風の矢が完全に解け切り、風が治まっていった。後に残されたのは、強風で着衣がヨレヨレになった刺客達と、無傷の私達だった。
「へぇー、けっこうべんり」
マスターはそう言うと、新しいおもちゃが手に入ったような嬉しそうな顔で笑った。
「なんで」
そんなマスターを見ていると、そんな声が聞こえてきた。
「なんであなたが私の風矢を使えるのよ?」
現状に呆然とした様子の、ウ゛ェールという女の子の口から、弱々しいそんな言葉がもれた。
「うーんとそれはね、きみのこうげきをうつしとらせてもらったからだよ」
マスターは、そんな女の子の言葉に律儀に答えた。
「「「「「「「「移し取った?」」」」」」」」
そして、その言葉を聞いたマスターとリルちゃんを除いた全員の口から、疑問の声がでた。
「そうだよ」
マスターは、みんなの疑問の声に頷いた。
「移し取ったって、それはさっきの魔法でかい、ティア?」
「そうだよミカくん。さいしょのまほうでやをじょうほうにへんかんして、あくうかんにきゅうしゅう。つぎのまほうでそのじょうほうをほぞん。そのほぞんしたじょうほうからふくせいをつくって。さいごにそのふくせいをじょうほうからじったいかさせたんだ!」
マスターは、得意げにそう解説してくれた。
矢を情報。データに変換して、別の場所に保存。保存したデータから複製を作り、最後にその複製データを元に、効果を再現して魔法として放ったということですか。
私は、マスターの解説を聞いてそう理解した。
「なによそれ」
ウ゛ェールという女の子は、そう言うことしか出来ないようだった。
「なあ、つまりどういうことなんだ?」
「つまり、あの竜の子供は僕達がした攻撃を自分のもの出来るっていうことだよ」
「なっ!そりゃ大変じゃないか!」
「うん。かなり大変だよ」
マスターの解説をあまり理解していなかったような赤い男の子ルベルは、黒い少年ユウに説明してもらって、ようやく事態の深刻さがわかったようだ。
「どうするんだよブラオン?」
「どうするんだとか聞かれても。どうしようか?」
赤い男の子、ルベルに聞かれた鞭使いの青年ブラオンは、困り顔で他の子供達に話を振った。
「おそらくだが、あの竜の子供には遠距離攻撃は意味がないだろうな」
青い男の子、アスルがそう言った。
「そうね。私の他の攻撃も移し取られる可能性があるわ」
緑色の女の子、ウ゛ェールがそう言った。
「そうなると、あの竜の子供には接近戦を挑むしかないね」
黒い少年ユウがそう言った。
「たしかに、その選択しか出来ないか。よし、ルベル、アスルの二人は私と一緒にあの竜の子供の相手をするぞ。残ったユウ、ウ゛ェール、ブランは、王子の相手をしてくれ」
鞭使いの青年ブラオンは、子供達にそう指示を出した。
「「わかった」」、「わかりました」、「わかったわ」、「・・・(コク)」
子供達はそれぞれ頷いた。
そして、彼らは二手に別れてマスター達に向かって行った。
「行くぞ、《空裂斬》!」
マスター達に向かって行く赤い男の子、ルベルが走りながらそう言って剣を振った。彼が振った剣からはスキルの発動光が発生し、剣を振った先に向かって何かが飛んで行った。
「おっと!」
「よいしょ」
赤い男の子ルベルの攻撃を察知したマスター達は、さっきの彼らのように左右に飛んで、その攻撃を回避した。
マスター達が回避した後、何かが先程マスターがいた辺りを通り抜けて行った。何かが通り抜けて行った後の地面は、何かに斬られたように溝が出来ていた。
「ありゃ?」
「衝撃波ですか?」
その溝を見たマスター達からは、そんな疑問の声が聞こえてきた。
「チャンスだ!」
鞭使いの青年ブラオンは、そう言うとマスターに向かって鞭を振るった。
振るわれた鞭は何故かマスターの安全機構に引っ掛からず、マスターの身体に巻き付いた。
「あれ?」
マスターの口から疑問の声が上がった。
今の彼の行動は、攻撃ではない?
「それ!」
鞭使いの青年ブラオンがそう言ってさらに鞭を振るうと、マスターはエル君がいるのとは逆の方向に強制移動させられた。
「うわっ!」
マスターの口からは、その強制移動にたいする驚きの声が上がった。
「ルベル、アスル、今だ」
「「おうっ!」」
鞭使いの青年ブラオンがそう指示すると、赤い男の子ルベルと、青い男の子アスルの二人がマスターに突っ込んで行った。
「僕達も行くよ!」
「はい!」、「・・・(コク)」
そして、エル君の方にも残った三人が突っ込んで行っていた。
「ティアと分断されちゃったか」
「王子、その命いただきます」
「君達に出来るかな?」
黒い少年ユウの物騒な発言にたいして、エル君は余裕を持ってそう返した。
この瞬間、マスター対ブラオン、ルベル、アスル。
エル君対ユウ、ウ゛ェール、ブランの図式が完成した。




