刺客の姿と戦闘開始
「それにしてもアスト、いつの間に《完全竜化》なんて出来るようになったのですか?」
私は、ここ一ヶ月の間にマスターが竜化した姿を見た覚えがなかった。
「えへへ、サラをおどろかせようとおもって、ないしょでれんしゅうしてたんだ」
リルちゃんに抱き抱えられているマスターが、照れた様子でそう言ってきた。
「素直に驚きました。まさか、お一人で出来るようになるとは」
「えへへ、すごいでしょう!けど、なんでちぢんだのかな?」
「たぶんですが、ヒューマンの存在年数そのままで竜の姿に移行したのでしょう。竜の存在年数五歳は、ヒューマンの存在年数五歳よりも幼いですから」
「そういうものなの?」
「そういうものだと思いますよ」
「ふうーん、そうなんだ。まあ、そのへんはあとでしらべればいっか。さあ、いこうよミカくん!」
「うん、わかったティア。あいつらを倒そう。サラさん、それではリルのことをお願いします」
「わかりました。ほらリルちゃん、アストを離してください」
「え~。う~、わかりました」
そう言うとリルちゃんは、抱き抱えていたマスターを離した。マスターは、翼を羽ばたかせ、空中に浮かび上がった。
「それではいってらっしゃいアスト。けれど、危なくなったらすぐに退いてくださいね」
「わかった。いってきますサラ、リルちゃん」
「行ってきますサラさん、リル」
「がんばってねふたりとも」
このやり取りの後、二人は翼を羽ばたかせて刺客の方に向かって行った。
私は二人を見送り、その後二人が向かった先に目を向けた。
私が目を向けた先では、すでに六人の刺客達が合流しており、マスター達を迎撃しようとそれぞれ武器を構えて待ち構えていた。
その六人を観察して見ると、先程マスターが発動させた《斥力波》をもろに喰らったせいか、全身を覆い隠していた外套が吹き飛ばされていて、先程見た時にはわからなかった、彼らの容姿や装備が日の下にさらされていた。
私は、その六人の様子を注意深く確認した。
まず最初に私の目についたのは、マスター達や私達を苦々し気に見る、鞭を持った二十代後半ぐらいの男性だった。彼は軽装の皮鎧を身につけ、手に持った鞭を油断なく構えながらこちらを見ている。髪の色は焦げ茶色で、瞳の色はブラウン。ここから見える範囲では、種族はヒューマンだと思われた。
次に私が目を向けたのは、その男性の次に年上だろう、見た目十代前半頃の杖を持った少年。こちらの人物は、先程観察した鞭使いの男性とはかなり違っていた。まず第一に顔立ちが、他の五人と違ってほりの浅い東洋系である。次に髪も瞳も黒く、東洋人の特徴が見受けられた。背丈も中肉中背で、容姿も凡庸である。ひょっとするとだが、それらのせいで私には少年が若く見えている可能性があった。それ以外の部分だと、残る四人と共通の部分が目立った。まずは、首に嵌められている金属製だろう鈍い銀色の首輪。次に、鞭使いの男性と違い着ている服はボロボロで、誰も防具の類いを身につけていなかったこと。最後に、こちらに向けている表情。苦々しい表情を浮かべている鞭使いの男性とは違い、他の五人の表情は今の状況が嫌そうに歪んでいた。少なくとも、マスター達には敵意を向けていなかった。それならば鞭使いの男性の方に敵意が向いているのかというと、こちらもそうではなかった。彼らが鞭使いの男性に向ける視線は、どちらかというと憐れみや同情の類いに感じられた。
端から見ていますが、イマイチよくわからない状況ですね。彼らの関係は、主と奴隷という想定であっているのでしょうか?
私はそう思いつつ、残りの四人も観察した。
その四人は、先程思ったとおりマスターと同じくらいの子供の姿をしていた。剣を持った赤髪赤眼の男の子。槍を持った青髪青眼の男の子。弓矢を持った緑髪碧眼の女の子。ナイフを持った白髪白眼の女の子。ここから見た限りでは、みなヒューマンに見えた。しかし、先程弓矢が放たれた時の声から推察出来たとおり、その四人の顔には子供らしさが足りないように見えた。
「ウ゛ェール、あの子供達を矢で牽制しろ!ユウ、ルベル、アスル、ブランはあの子供達が足を止めたら突っ込むぞ!」
私が観察をしていろいろ考えていると、刺客達がそんなことを話す声が聞こえてきた。
ウ゛ェール、ユウ、ルベル、アスル、ブラン。これが彼らの名前ですか。今の言い方だと、ウ゛ェールというのがあの緑色の女の子ということしかわかりませんね。
「なあ、本当にやるのかよブラオン?」
赤い男の子が、鞭使いの青年。ブラオンにそう聞いた。
「しかたがないだろう、ルベル!もう向こうに見つかって、こちらから攻撃して戦闘がもう始まってしまっているんだから!」
「そりゃそうだけどさ」
ルベルと呼ばれた男の子は、やる気がなさそうにそう言った。
「ルベル、話は後にしよう。先にあの子達の相手をしないと」
黒い少年がルベルにそう言った。
「ユウ、そうは言うけどさ、俺達があんな小さな子供と戦うのは大人げなくないか?」
青い男の子が、黒い少年。ユウにそう言った。
しかし、おかしな言い回しですね?彼らの見た目の年齢はマスター達とそう変わらないのに、大人げないとは。やはり、彼らの年齢は見た目そうおうではないということでしょうか?
「けど、あの子達の様子を見る限り、そんなことは言ってられないでしょう、アスル?あなたもそう思うでしょう、ブラン?」
「・・・(コク)」
ウ゛ェールと言う緑色の女の子が青い男の子。アスルにそう言った後、白い女の子。ブランにそう言うと、ブランは無言で頷いた。
「それじゃあ、牽制いくわ。掻き乱せ、風矢 Level2」
ウ゛ェールは先程同様、弓に矢を番えない状態で構え、マスター達に弓をむけながらそう言った。すると、先程同様何も無いところに唐突に風の矢が出現し、弓からマスター達目掛けて放たれた。
「行くぞ!」
「わかったよ」
「仕方ないな」
「そうですね」
「・・・(コク)」
ブラオンが全員に号令をかけ、ウ゛ェール以外の全員が放たれた風の矢を追いかけるように走りだした。
私は、視線をマスター達の方に移した。
「どうやら、むこうがせんてをうったみたいだね」
「ああ、あの風の矢を打ち落とすぞティア!」
「ううん。ぼくがたいしょするから、ミカくんはみててよ。《データドレイン》」
相手の動きを見たマスター達は立ち止まり、どうするか相談をしていた。しかし、マスターは矢を打ち落とすことを提案したエル君の言葉に頷かず、私の知らない魔法を発動させた。
マスターが魔法名を言うと、マスターの前に魔法陣が出現した。そして、その魔法陣からマスター達に向かって来ている風の矢目掛けて光が放たれた。
その光は狙い違わずに風の矢に当たり、風の矢を消失させた。
「「「「「「はっ!?」」」」」」
その光景を見た刺客達の口からは、そんな言葉がもれた。
それはある意味当然でしょうね。彼らの方があの矢については詳しいのですから。あの様子を見る限りですが、あの風の矢はあんな簡単に消失するような攻撃ではなかったのでしょう。
にしても、マスターが今発動させた魔法。そんな威力の攻撃を一瞬で消失させるなんて、いったいどんな効果の魔法なんでしょう?
私は、マスターの魔法のことを考えた。
魔法名が《データドレイン》。類似の言葉で意味を直訳すると、《情報吸収》というところでしょうか?情報を吸収する魔法?いまひとつ効果がわかりませんね。
私は、マスターの次の行動に注目した。




