自己紹介と呼び名
お二方が部屋を後にされた後、『私』は早速拡張された機能について検索した。そして、その内容を理解してすぐに次の行動に移った。
『人化』
『私』は、拡張された機能の発動トリガーを引いた。
すると、アイティリア様より与えられた能力が発動し、『私』の身体が変化を開始した。まず始めに本の輪郭がぶれだし、身体が本の形状から変化しだした。全身の体積が増加し、質量と重量も比例して大きくなっていった。やがて増加したもろもろは、本の時には存在していなかった頭や手足を構築していった。そして、新たに構築された身体に『私』の意識が完全に満ちると、変化が完了した。
「ふむ。今の条件ですと、こんなところですか」
私は、変化が完了した身体を確認した。まず私が最初に認識したのは、細い色白の小さな手足だった。その手足をたどって行くと、白いフリルが目に入った。そのフリルをたどって全体を把握していくと、自分が白いフリルがたくさんついたドレスのような服を着ていることがわかった。視線を今度は正面で驚いた顔をしているマスター達に向けた。私の目線はちょうどマスターの顔の辺りだったので、身長もマスターと同じくらいですね。先程検索した内容によれば、私の人化形態の年齢はマスターの年齢に同期しているようです。ですから身長が同じくらいなのは当然ですね。あと、今確認出来ないヶ所は髪や目の色などでしょうか?変化前に見た人化基本設定のカタログスペックだと、髪の色は水鏡色で、眼の色は銀色になっているはずです。それについては、後で鏡で確認するとしましょう。とくに問題は無さそうですね。とりあえず一通りの確認が終了した私は、そう結論を出した。
「ア、アンサラー?」
私がそう結論を出していると、マスターが弱々しい声で声をかけてきた。
「ああ、お待たせしてすみませんマスター」
「ほ、ほんとうにアンサラーなの?」
マスターの表情は、かなり戸惑いの色が濃かった。
「ええ、そうですよ。マスターのお兄さんやお姉さんも普段は人化していますから、そこまで驚くことですか?」
「うん?・・・それも、そうだね。おにいちゃんたちとおなじなら、そこまでおどろくことじゃないのかな?」
マスターは、納得がいくようないかないような顔をした。
「あー、いいだろうか?」
私とマスターがそんなやり取りをしていると、控えめに声をかけられた。
「はい。なんですか?」
私が声をした方に向くと、固まっている女の子と、マスター同様混乱気味の男の子の姿があった。
「状況がイマイチ掴めないが、今は置いておく。で、根本的質問なんだが、君は誰なんだ?」
「そうですね。言葉が通じるようになったことですし、改めて自己紹介いたしましょう。私の名前はアンサラー。そこにおられるマスター。アスティア様の曾祖父にあたる人物に作成された、《サポートシリーズ》の一冊です。そして、一ヶ月前にマスターと契約を結び、現在はマスターのアドバイザーなどをしております。以後おみしりおきお」
そう言って私は一礼した。
「あ、ああ。これはご丁寧にどうも。それじゃあ、こちらも名乗ります。僕の名前は、ミカエル=セラフ=ピュシス。この国、ピュシス共生王国を建国した初代勇者王ルシフェルの孫にあたります。それと、アスティアの関係性は幼なじみになります。ほら、ジブリールも自己紹介をしよう」
ミカエル君は自己紹介が終わると、固まっていた女の子の方に声をかけた。この様子を見るに、ミカエル君の方がお兄さんですかね?
「えっ!えっと、あの、その、ジブリールでしゅ」
ミカエル君に言われたジブリールちゃんは、大慌てでそう名乗った。
「そうですか。なんと呼べば良いですか?マスターと同じ呼び方でかまわないなら、その呼び方にしますよ?」
「いえ、僕の方はミカ君ではなく、エル君かミカエル君でお願いします」
「わ、わたしは、リルちゃんがいいです」
「わかりました」
ふむ。呼び方はエル君とリルちゃんでいいですね。
私は、二人の呼び方を決めた。
「あの、アンサラー、さん?」
「なんですか、エル君?」
「僕達の方は、あなたのことを何と呼べば良いですか?」
「私の呼び方ですか?あなた達の好きに呼んでくれて構いませんよ」
「それでは、僕の方はアンサラーさんとお呼びします」
「あの、サラちゃんって、よんでもいい?」
「どちらも構いませんよ。しかし、エル君の方はなんでフルネームの上、さん付けなんですか?」
双子に見えるのに、それぞれの私の呼び方に落差があり過ぎませんか?
「ええと、何といいますか。今まで話をして、アンサラーさんが目上の人に感じられましたので、こちらの方がいいかなっと」
「ああ、そういうことですか。たしかにこの外見はマスターの見た目に合わせただけで、私の存在年数自体はそれなりですからね」
「ああ、やっぱり年上でしたか」
「物の私相手に、年上とか言われてもちょっと微妙なんですけどね」
「まあ、よく考えなくてもそうですね。それでアンサラーさん。呼び方は変えた方がいいですか?」
「そうですねぇ?これからは基本的にこの姿でいることになるでしょうから、もう少し親しげな呼び方にしてもらえると嬉しいです」
「そうですか。それでは、サラさんでどうでしょう?」
「その辺りが妥当ですね。私の呼び方はそれでお願いします」
「わかりました、サラさん」
「あの、アンサラー」
「はい、なんですかマスター?」
「その、ぼくはなんてよんだらいい?」
「マスターは、アンサラーで構いませんよ」
「えっ!でも・・・」
そう言うとマスターは、頬を赤らめながら押し黙った。
「マスター?」
私は、マスターのその様子を訝しいんだ。
「サラさん」
「なんです、エル君?」
「たぶんティアは、あなたが女の子になったことに戸惑っているんだと思います」
「ああ、そういうことですか。今まで本だった私が女の子扱いされるなんて、ちょっと変な感じですね。けれど、マスターに女の子扱いされるのは、なかなか嬉しいですよ」
「あの、その・・・」
「そうですねぇ?それでは、私のことはサラと呼んでください、マスター」
「う、うん。わかった。じゃあ、サラもぼくのことはアストって、よんでくれない?」
「え!あ~そうですねぇ?」
私は、マスターの言葉に少し悩んだが、この姿の時に人前でマスターと呼ぶのはどうかと思ったので、マスターの要望を聞くことにした。
「わかりました。この姿の時は、アストとお呼びします。けれど、本の時はマスターと呼ばせてください」
「うん、わかった!」
「自己紹介や呼び名についてはこんなところですね。では、アステリア様とアイティリア様の指示通り、遊びましょうか」
「「は~い!」」
「そうですね」
マスター達は元気よく返事をした。
それから私達は、なにをして遊ぶか話し合いを始めた。




