疑問と次の来客
「ねぇ、まだおはなしつづけるの?」
『私』達三人が話ていると、マスターが退屈そうにそう言ってきた。
『あっ!すみませんマスター。マスターには退屈でしたね』
「うん。それに、はやくおばあちゃんたちとおはなししたいよ」
「あらあらごめんなさいねティアちゃん」
アステリア様はそうおっしゃられると、不機嫌なマスターを抱っこした。
「すまなかったなティア。懐かしい相手とあってしまってついな。ほら、機嫌を直しておくれ」
アイティリア様はそうおっしゃられると、アステリア様に抱かれているマスターの頬を撫でた。
「じゃあ、ぼくとおはなししてくれる?」
「ええもちろんいいですよ。私達は、ティアちゃんとお話する為に来たんですから」
「そうだぞ。たくさん話をしようティア」
「うん!」
お二人の言葉に、マスターは満面の笑顔で頷いた。
「そういうことですまんがアンサラー、話はまた今度で頼む」
『了解いたしました』
「さあ、ティアちゃん。いきましょうね」
「うん!」
マスターの機嫌を直す為に話に一段落つけた『私』達は、玄関から家の中に場所を移した。
そして、それからは孫と祖母達との会話の時間となった。
「そういえばおじいちゃんたちは?」
マスター達がしばらくお話をしていると、唐突にマスターがそんなことを言った。
「うん?ああ、あの二人なら明日来る予定だ」
「そうなの?」
「ええ。あなたの誕生日プレゼントように、何かを狩に行ってるわ」
『何か?お二人は何を狩に行ったのかご存知ないのですか?』
「ああ。今年は、それぞれ別個で用意することにしたからな」
『そうですか。そういえば先程からお二人にお聞きしたいことがあるのですが』
「聞きたいことですか?それはなんですか、アンサラー?」
『何故そんな若い見た目にしているのです?たしかお二人は、以前お会いした時はもう少し年上の外見を愛用なされていたでしょう?』
『私』は、お二方に再会してからの疑問をぶつけた。定命の種族と違い、お二方は成熟された大人の外見を好んでいましたのに。
「うん?ああ、たしかにアンサラーと最後に会った時よりは若い見た目をしているな」
「まあ、たしかにそうですね。そうですねぇ?この見た目の理由としては、夫の見た目に合わせただけですよ、アンサラー」
『夫の見た目に合わせたって、お二人の御夫君はそんなにお若いのですか?』
竜種や幻獣種などの見た目二十代前半といったら、年齢は四桁になるかならないかの時間しか生きていないことになりますよ?
「ええ。まだ千歳程度の若輩ですね」
「そうだな」
『そうですか』
随分と歳の差がある御結婚をされたみたいですね。
コンコン
『私』がそんなことを考えていると、また遠くの方からそんな音が聞こえて来た。どうやら、また誰か来たみたいですね。
「は~い」
マスターはそう言うと、玄関に向かって行った。
『私』は今回は留守番をした。
そして少しして、マスターが新たに二人の人物を連れて戻って来た。
「ただいま」
『おかえりなさい、マスター。そちらのお二人は誰ですか?』
『私』は、マスターが連れて来た二人を見ながら、そう尋ねた。
マスターの横に立っていたのは、金髪碧眼のマスターと同い年くらいの二人の子供だった。顔立ちは両者とも整っており、そしてうりふたつのことから、その二人が双子であることが伺えた。顔立ちからは性別はわからなかったが、片方がズボン。もう片方がスカートだったので、男女の双子であることがわかった。ただ、一つだけどうしても気になることがあった。それは、男の子の方の目だ。マスターや女の子の目に比べて、その目には違和感があった。抽象的な表現をするのなら、知性の光が宿っているように見えたのだ。この年齢でそれはおかしいと思ったが、実年齢と見た目の年齢が合っているのかわからなかったので、この考えは保留にした。
「ミカくんとリルちゃんだよ」
「お久しぶりですアステリア様、アイティリア様」
『私』がそんな感想を持っていると、マスターが二人のことを紹介してくれました。『私』がマスターの紹介を聞いていると、男の子の方が前に進み出て、アステリア様とアイティリア様の前で綺麗な一礼をしながらそう言った。
やはり見た目の年齢に合っていないな、と思った。
「あらあらミカエル君に、ジブリールちゃんではないですか」
「二人もティアの誕生日を祝いに来てくれたのか?」
「はい!アスくんのおたんじょうびをいわいにきました!」
アイティリア様が尋ねると、マスターの横にいた女の子が、手を上げながら元気よくそう返事をした。
「今日は二人だけで来たのですか?」
「いえ、供の者達と一緒に来ました」
「その方々は今どちらに?」
「暇を与えました。今日明日はこの都市で自由行動です。ただ、オファニエルは一緒にここに来ました。ですが、家主の許可が無いのに家の中に入るわけにはいかないと言って、今は外で立っています」
アステリア様からミカエル君と呼ばれた男の子は、困り顔でそう言った。
「あらあら、オファニエルらしいわね」
「そうだな。あいつはこういうところで融通がきかないからな」
どうやら、そのオファニエルという人物はアステリア様やアイティリア様と面識があるようですね。
「ふむ。せっかくだから、オファニエルの奴を引っ張ってくるとするかな?」
「あらあら叔母様、無理矢理は良くないですよ」
「問題なかろう。アスティアの許可では家に入って来ないのでも、私達が許可すれば問題なかろう?」
「・・・たしかにそうですね。ミカエル君とジブリールちゃんも来てくれたことですし、私達はオファニエルの方に行きましょう。ティアちゃん」
「なあに、おばあちゃん?」
「私達はオファニエルのところに行ってきます。しばらくの間ミカエル君達と遊んでいてください。いいですか?」
「うん、わかった!」
マスターは、大きく頷いた。
「では行きましょう、叔母様」
「ああ、わかった。おっと、忘れていた。アンサラー」
アステリア様に言われて部屋を出ようとしたアイティリア様が、何かを思い出したようにこちらに振り向き、『私』に声をかけられた。
『なんでしょう、アイティリア様?』
「アンサラー、お前はたしか主以外とは念話が繋がらなかったよな?」
『まあ、基本的にはそうですね。ただ、こないだ何故かクラニオとは繋がりましたけど』
クラニオと繋がった理由はさっぱりですけどね。
「ふむ。そういえば影の話の時にそんなことを言っていたな。まあ、それは今は置いておく。お前とアスティアの現状を傍から見ると、アスティアが独り言を言っているように見えて、問題があるように感じた。少しお前の機能を拡張しておくとする」
そう言うとアイティリア様は『私』に向かって手を翳した。
『え!?』
『私』がアイティリア様の言葉に驚いていると、『私』の全身が淡く発光しだした。
「うわー、アンサラーがひかってる」
「キレイです」
「いや、そんなことを言っていていい状況なのか?」
発光している『私』を見て、マスターとジブリールちゃんとやらは目を輝かせ、ミカエル君とやらは現状に戸惑っていた。
が、『私』とミカエル君の心配は長くは続かなかった。何故なら、発光現象は数分で治まったからだ。
「ふむ。こんなところだろう」
アイティリア様はそう言って、『私』に翳していた手を下ろした。
『アイティリア様、私に何をなされたのです?』
「先程言っただろうアンサラー。お前の機能を拡張した。具体的に言うと、お前の念話が誰とでも繋がるようにした。それと、あの影について私達が知っている情報もついでにお前に送っておいた。その他にもいくつかしたが、後の詳しい拡張内容については、自分で検索するように。わかったか?」
『了解いたしました、アイティリア様』
『私』は、すぐにそう言った。
「ふむ。それでは行くとしようか、アステリア」
「はい、叔母様」
アイティリア様は『私』の返答に満足気に頷くと、アステリア様に声をかけて部屋を後にした。
『私』は、そのままお二人を見送った。




