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仲裁と合流

『うん?』


『どうかしましたか、クラニオ?』


あれから少しすると、不意にクラニオが顔を上げた。


『ふむ。どうやら、向こうが片付いたようじゃ』


『そうですか。それでは、お姉さんを迎えに行った方がいいでしょうか?』


『うむ、外の感じだとその方が良さそうじゃな』


『ちなみに、外は今どんな感じですか?』


『私』は、クラニオの言葉で気になったことを聞いてみた。


『そうじゃのぉ、だいたいこんな感じじゃな』


そう言うとクラニオは、大まかな外の様子を説明してくれた。


まず現在外にいるのは、お姉さんを含めて二グループとのことです。これはまあ、片方が追いかけられていた人達で、もう片方が追いかけていた植物達のことですね。次に、お姉さんの現在の立ち位置ですが、どうやら両者の喧嘩の仲裁をしているそうです。この話と、前情報にあったアズゥンの張っていた結界のことなどを考えると、状況が見えてきます。つまり、追いかけていた方の植物達の正体は、トレントのような森を守る存在で、森で火を使った馬鹿な連中を追いかけていたというところでしょう。あの捕食型植物達のことを考えると、その馬鹿なことをした人達を責められない気もしますが、やっぱり森の中であれだけ派手に火柱を上げたことは問題ですよね。その辺の木に燃え移ったら、大火事になる可能性は十分にありますから。


それで、現在の三者の様子ですが、お姉さんが両者の中間地点に立っている構図らしいです。まあ、仲裁をするのなら、そういう場所に陣取るのが正解でしょうね。両者の視線を仲裁役に向かせないと、言い争いなる可能性が高いですから。それで、お姉さんがここから出て行った後、しばらくは言い争っていたそうですが、現在は両者ともに落ち着いているそうです。しかし、お姉さんはいったいどんな方法で仲裁したのでしょう?そこのところが少し気になったので、クラニオに聞いてみた。


『知らない方が良いこともあるのじゃぞ、アンサラー』


ところが、クラニオからはかなり意味深な答えが返ってきた。お姉さんは、いったい何をしたのでしょう?さらに疑問が深まったが、深く詮索するのは止めておいた。


『そうですか。では、その辺の疑問は胸にしまっておくとしましょう。今までの話をまとめると、現在の状況は両者の仲裁に成功しているということでいいんですよね、クラニオ?』


『ああ、その認識で間違いはない』


『そうですか。それなら、安全面は問題なさそうですね』


『うむ。現状は両者ともに落ち着いておるからな』


『それでは、マスター達がお姉さんのもとに転移しても、大丈夫ですね』


『うむ。すぐに送ろうかね?』


『うーん、どうしましょう。マスター、すぐに送ってもらいますか?』


「うん!ぼく、おねいちゃんのところにいきたい!」


『わかりました。それではクラニオ、マスター達を送ってもらえますか』


『了解じゃ。・・・うん?そういえば、アスティア以外は誰が行くのじゃ?』


『あれ?そういえばそうですね。別に全員でお姉さんを迎えに行く必要はありませんよね。マスター以外は誰がいきますか?』


『私』は、クラニオに聞かれてそのことに気がつき、アズゥン達にどうするか聞いてみた。


『そうですね、私はお姉さんにとっては初対面ですから、ここでお留守番しています。構いませんか、クラニオ?』


『儂はかまわんが、本当に行かなくて良いのか?』


『ええ。お姉さんには、後日アスティア君から紹介してもらうつもりです。アスティア君、お願い出来ますか?』


「うん!わかった」


『オーウ゛ェル。あなたはどうします?』


「オルスバン、スル」


オーウ゛ェルは、短くそう答ると、アズゥンのそばに移動した。どうやら、オーウ゛ェルはアズゥンと一緒にいたいようですね。


『ふむ。残るはエトガル、あなただけですね。あなたはどうします?』


『我は、本調子ではないからここに残るつもりだ』


エトガルは、少しぐらつきながらそう言ってきた。


『そうですか。たしかに、ダメージがまだぬけきっていないでしょうから、その方がいいでしょうね。クラニオ、決まりました。私とマスターの二人を、お姉さんのところに送ってください』


『私』は、そのエトガルの様子と言葉に納得し、最終的に行く人選をクラニオに告げた。


『了解じゃ。それでは二人とも、またのう』


そう言うと、クラニオの足元の影が広がりだした。


『はい、また今度お会いしましょう』


「バイバイ、おじいちゃん」


『私』とマスターは、クラニオに別れの挨拶をして、その影の中に身を委ねた。


そして、『私』達は潜影研究所を後にした。


都市からファブルの森へと向かう道、フブルの小道のその脇にある原っぱに、現在複数の影があった。まずはファブルの森を背にした、高さ五メートル程度の広葉樹の姿をした者達。樹齢十数年程度の、まだ若木であるトレント達。彼らは、自分達の正面に立っている少女の後ろに正座させられている者達を見て、人族にはわからない複雑な表情をしていた(内包されている感情としては、怒り・同情・憐れみなどである)。たいして、少女の後ろで正座させられている面々は、まだ若い五人組である。その四人の共通の特徴としては、武器や防具を装備していて、その装備品のグレードがどれも同じくらいであり、品質が低いことだろう。そして、それもそのはず、彼らは数日前に冒険者になったばかりの、初心者冒険者なのだから。その四人組は、鎧や防具をつけたままの状態で正座していた。いや、させられていると言った方が正しい。その四人もまた、複雑な表情で正面を見ていた(しかし、こちらの感情は苦痛、畏怖、後悔などである)。


そして、その両者の間に一人の少女が立っている。言わずと知れた、アスティアの姉である。こちらは、とくに特別な表情を浮かべるでもなく、トレント達の方を見ていた。そして、目を向けることなく後ろの初心者冒険者達にプレッシャーをかけていた。この場に関係者以外の者がいれば、すぐに逃げ出していただろうほどの威圧感がある。だが悲しいかな、その場にいた者達は全員が関係者。彼らは、彼女が現れてからずっとこのプレッシャーをかけられ続けていた。自業自得の部分があるとはいえ、ご愁傷様である。


「あら?」


そんなお姉さんの足元の影が突如巨大化した。そして、その影の中からアスティアとアンサラーが現れた。■


「あら二人とも、どうかしたの?」


「おじいちゃんがおわったみたいだっていうから、むかえにきたよ」


「あら、ありがとうアスト。じゃあ、帰りましょうか」


ほっ


『うん?』


お姉さんのこの言葉を聞いて、お姉さんの周囲の面々から、何故か安堵した気配があった。


「みんなどうかしたの?」


マスターもその様子に気づいたようで、お姉さんに質問した。


「アストが気にする必要はないことよ。さて、弟が迎えに来てくれたことだし私は帰るわね。残りの話はあなた達でしなさい。いいわね?」


「「「「『『わかりました!!!』』」」」」


お姉さんが聞くと、周囲の面々が大きな声で返事をした。こちらが引くような、必死の形相でである。『私』は、お姉さんが彼らに何をしたのか、かなり気になったが、クラニオから忠告があったので、そのことは聞かないことにした。


「それじゃあ、帰りましょうアスト」


「うん!」


マスターとお姉さんは、手を繋いで都市へと帰って行った。



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