予習と方式
広葉樹が生い茂る森の中を、マスター達は道なりに歩いて行った。
そして、しばらく歩いて行くとかなり開けた場所に出た。
「うわあー!ひろい。おにいちゃん、ここがひろばなの?」
「ああ、ここであってるぞアスト。それで、アストはここで本に書いてある何をしてみたいんだ?」
「それはね、まほうだよ」
「魔法?世界大全集とかいうタイトルの本に魔法について書いてあったのか、アスト?」
「うん♪」
「そうか。まさかアストがしてみたいことが魔法とはな」
「おにいちゃん、どうかしたの?」
「いやな、アストには魔法はまだ早いと思ってな」
「ええ~!やっちゃっダメなの」
「うーん。まあ、ものは試しというし、やってみるか、アスト」
「うん!」
「ただし、危なくなったらすぐに止めるからな」
「うん。あぶないことはしないよ」
「わかった。じゃあ、俺はここにいるから、アストもこの広場の中で魔法の練習をするんだぞ。それから、練習する魔法は、たぶん発動しないと思うが、危なそうなのは避けて、簡単そうなのにしろよ」
「うん、わかったよおにいちゃん」
そう言ってマスターは、広場の真ん中に向かって歩き出した。
そして、芝生が生えている場所に座って『私』を開いた。
「あんさらー、このばしょでだいじょうぶ」
『ええ、これだけの広さがあれば問題ありません』
「それじゃあ、なにからすればいいの」
『そうですねぇ、マスターのお兄さんも注意してましたし、今日のところは初歩の初歩を試してみましょうかマスター』
「わかった。それで、はじめになにをすればいいの?」
「まずは、魔法が何であるかを知ることから始めましょう。キーワードを魔法で検索してみて下さいマスター」
「わかった。えっと、キーワード 魔法、検索っとぉ」
マスターが言い終わると、『私』が一人でに開き、白紙のページに魔法についての記述が記載されていった。
『それでは、魔法についての説明を開始しますマスター』
「うん、おねがいあんさらー」
『では、最初は魔法とは何からいきます。
魔法とは、生物の魂又は、世界から生成される魔力を消費して、火・水・風・地・光・闇の6属性のいずれかの力を一時的に生み出す技術というのが、大半の世界における魔法と呼ばれるものです』
「そうなの?」
『はい。魔法の存在する魔法世界では、だいたいがこの認識です』
「たいはんはってことは、べつになにかあるの?」
『そこに気がつきましたかマスター。ええ、あります』
「じゃあ、べつなのはどんなせかいなの?」
『それは、極稀に存在する、科学と魔法が同時に発展した世界です。そして、その世界の方が魔法がより強大な傾向があります。まあ、それはしかたのないことです。なぜなら、魔法の本質を知る為には、科学の発展が必要不可欠なんですから』
「かがく?かがくってなあに、あんさらー?」
『科学というのは、魔法の存在しない世界で発展しやすい学問です。科学については、また後日私を読んで下さい』
「うん」
『それでですね、その極稀な世界での魔法の定義は、魔力という世界に満ち溢れている力に方向性を与えて、術者の望むことを実現させる技術となっています。そして、こっちの方が先程のものよりも魔法としては正しいのです』
「そうなの?」
『ええ。マスターの属性に時というものがあったでしょう?』
「うん、あったね」
『それが答えです』
「どういうこと?」
『つまり、時という6属性に分類できないものが普通にある時点で、前者は間違っているんです。ちなみに、後者の方には、時間魔法等の前者で見つかっていない魔法も普通に存在しています』
「そうなんだ」
『ええ。そして、今からマスターには、世界から見た魔法をお教えします』
「せかいからみたまほう?なあにそれ?」
『とりあえずは、今から私のする話を聞いて下さい』
「わかった」
『では、まずは世界にとって魔力とは何かといいますと、自分を形作る原材料です』
「げんざいりょう?」
『そうです。世界とは、何も存在しない《無》に魔力を使って作成又は、魔力が偶然集まった結果生まれるもののことなのです』
「だれがつくるの?」
『一般的には、《神》、《創造主》と呼ばれる存在が作成します』
「じゃあ、このせかいも?」
『ええ、この世界も神の手によって作成されました』
「そうなんだ。それで、せかいってどうやってつくるの?」
『作り方は簡単です。世界の原材料である魔力に方向性を与えて、その方向性を固定化し、その方向性が矛盾しないように調整していけば出来上がります』
「そうなんだ。あれ?だとしたらまりょくって、なんでまだあるの?」
『それはですね、魔力が世界を維持するシステムに使用されているからです』
「え、そうなの?」
『ええ、魔力はなんといっても世界の原材料。世界に不具合が出ると、その箇所に魔力を流し込んで補修するんです』
「そうなんだ」
『そして、魔法は魔力のその性質を利用した技術なんです。もっとも、このことは知られていないので、本当の意味で魔法を極めた者は、私の内容を隅からすみまで探しても存在しないんですけどね』
「そうなんだ、だれもきわめていないのかぁ」
そう言ったマスターの目は、何か決意を固めたように『私』には見えた。
『さて、それでは次に、魔法の使用方法についてです』
「うん」
『魔法は、魔力に方向性を与える技術だと先程言いましたが、その方向性の与え方は、いくつも存在します』
「どんなの?」
『一つ目は、魔法世界で愛用されている呪文又は詠唱です。
これは、言語を用いて自身の体内の魔力に方向性を与えて魔法行使するやり方です。
長所は、呪文・詠唱によるイメージの確立に伴う威力・範囲・効果が明確になることと、自身に魔力が残っていれば何度でも使用可能なことです。
短所はその逆。指示方法が言語によるものの為、喋ることが出来ない状況、例としては水中・真空・口を塞がれる等した場合には使用が不可能です。また、この欠点を補う為に、無詠唱という方法もありますが、長所で示した点が潰れる為、威力・範囲・効果が目に見えて弱体化します。
また、自身の体内の魔力を使用している為、自身の魔力保有量に魔法の行使回数が依存します。それゆえ、魔力保有量が少ないと満足に魔法が使用出来ません。
二つ目は、ルーンのような魔法文字や、魔法陣のような記号の組み合わせにより魔法を行使する方法です。
この方法の長所は、記号の組み合わせによるバリエーションの豊富さと、必ず一定の効果があること。そして、組み合わせに問題がなければ、構築した術者以外でも使用が可能なことです。
逆に短所は、記号が正しくないと発動しない、又は意図しない結果になる場合があることです。それと、ある意味これが一番の短所ですが、作成された魔法陣がなんであるか知らない、理解出来ていない者でも発動が可能なことです。
この短所にいたっては、下手をすると国の一つや二つ、軽く滅びる規模の災厄を巻き起こすことも高確率であります。
そして三つ目は、精霊などの高次元存在に方向性の付与を代行してもらう方法です。
この方法の長所は、人間のような魔法に長けていない種族でも強力かつ高度な魔法の恩恵に与れることです。
また、代行してもらう相手との親和性が高いと、魔力消費量の軽減や、効果の上昇などがある場合があります。
短所としては、方向性の付与を代行してもらっている為、最終的な魔法の効果が、代行者の意思で決定してしまうこと。
また、代行者との親和性が高すぎても低すぎても問題が発生する可能性があります。
高すぎた場合は、代行者が術者のメリットになると思って、術者の意図しないことをしてしまう可能性があること。
低すぎる場合は、代行してもらう為に代償を要求されたり、そもそも代行行使を拒否されて被害を受けることもあります。
最後に、魔法の変形にあたる。スキルとアビリティーがあります。
この二つは、世界に存在する者達が築き上げた技術ではなく、世界が構築したシステムに分類されます。
また、この二つは一定の条件を満たすことによって、世界から魂に刻まれます。
そして、この二つの長所は、刻まれたスキル・アビリティーは条件さえ満たしていれば、いくらでも使用可能な点です。
それに加え、魂から効果を及ぼしている為、身体能力上昇などの上昇系のスキル・アビリティーを得られれば、何の努力をしなくても自分の能力を上げられます。
そして短所ですが、条件を満たせば自動的に刻まれる為、自分に必要ない、又は問題があるスキル・アビリティーでも得てしまうことです。
以上の四つがおおまかな魔法の使用方法ですマスター』
「いろいろなほうほうがあるんだね。あれ?たしか、ぼくにはアビリティーがあったはずじゃあ?」
『ええ、回復と魔眼の二つがありましたね』
「いつじょうけんをみたしたのかなぁ?ねぇ、あんさらー、このふたつのじょうけんってなんだったのかなぁ?」
『ちょっと待って下さいマスター。・・・マスター』
「わかったのあんさらー?」
『ええ、どうやらマスターのご両親のアビリティーの劣化版を引き継いだみたいです』
「れっかばん?」
『はい。マスターが持っているアビリティーは、ご両親のアビリティーの効果が落ちたものにあたります』
「そうなんだ。それで、ぼくのアビリティーのこうかってどんなの?」
『こんな感じですね』
『私』は、アビリティーの説明欄を表示した。
回復
自然回復能力を上昇させ、体力・魔力の回復速度が(小)上昇する。自身が使用、又は自身を対象に含んだ回復効果が(小)上昇する。上位互換能力あり。
魔眼
眼を通して、視覚内の物質・魔力に干渉し、対象に様々な効果を与える能力。効果は、所有者の適性及び魔力の質に依存する。魔力効果・魔眼に耐性がある対象には効果が無い場合もあり。上位互換能力あり。
「これって、つかいがってはどうなのあんさらー?」
『効果対象範囲が広く、かなり使い勝手は良いと思いますよ、マスター』
「そうなんだぁ~。あと、このじょういごかんありってなあに?」
『上位互換ありというのは、その能力を含んだより強い能力があるということです。マスターの場合は、劣化前のご両親の能力がそれにあたります』
「じゃあ、じょうけんをみたせればおとうさんおかあさんがもってるアビリティーとかもつかえるようになるのかな?」
『条件にもよりますけど、可能性はあります』
「よぅし、がんばるぞ。そういえばあんさらー」
『何ですかマスター?』
「けっきょく、どのほうほうでやったらいいの?」
『全てに一長一短があるので、とりあえず全部試してみましょうマスター』
「うん、わかった!」
こうして『私』とマスターは、魔法の実際の使用へと移行するのだった。