名前と変化
『それではマスター、ここを読んでください』
『私』は、《祝福の御名》の術式を表示したページマスターに向けて開き、読んでもらいたい文字列を光らせた。
「このピカピカしているとこ?」
『そうです』
「わかった!」
マスターはそう言うと、文字列を目で追い出した。
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《祝福の御名》説明
・使用可能な対象
この術式の行使対象は、個体名の無い者に限ります。
・使用上の注意
個体名が存在する者にこの術式を使用すると、現在の加護や恩恵などが消失する可能性があります。名前の変更等は、別術式《洗礼の改名》をご使用ください。
・使用手順
この術式を使用する際の手順は、以下のとおりです。
1、術者と対象がお互いを認識する。(視覚等問わない)
2、対象が術式を受けることに同意する。(口答などかは問わないが、対象が心から同意していなければならない)
3、術者が、以下の術式発動呪文を唱える。
『世界よ、彼者に祝福を。この世界に住まう彼者を認め、汝の惜しみない愛と恩恵を彼者に注ぎ賜え、《祝福の御名》』
4、呪文を唱えた後、名付ける名前を宣言すると、術式が実行されます。
5、術式実行後、対象に以下の変化が見られれば術式は成功です。
一、対象の知性が上がった。(言葉を解するようになる等)
二、対象の姿に変化が見られた。または、変化の兆しがある。(色・形状・大きさ等)
三、対象との意思疎通が、術式実行前よりも円滑に出来るようになった。(念話やテレパシーの発現等。あるいは、言葉が流暢になる等)
四、対象と術者の親密度が上がった。(対象と術者の間に、親愛・友愛・保護欲等が発現することがある)
6、術式が成功していた場合、これにて終了です。
『という感じですが、わかりましたか?』
「うん!だいじょうぶだよ、アンサラー!」
『それでしたら、早速してみましょう』
「わかったー!」
そう言うとマスターは、視線を『私』からガーデンスライムとスィームルグの二人に移した。
「それじゃあはじめるね」
「ピィ!」『はい』
『二人の同意を確認しました。次にいきましょう』
「うん、わかった。それじゃあ、『せかいよ、かのものにしゅくふくを。このせかいにすまうかのものをみとめ、なんじのおしみないあいとおんけいをかのものにそそぎたまえ、《しゅくふくのみな》!!』」
『いいですよマスター。そこで二人に向かってマスターが名付けたい名前を言ってください』
「わかった。ガーデンスライム、きみのなまえは『オーウ゛ェル』。そして、スィームルグ。あなたのなまえは、『アズゥン』」
マスターは二人に向かってそう言った。
そしてマスターが名付けた直後、二人に変化が起き始めた。
最初はガーデンスライムの変化から見ていきましょう。ガーデンスライムの変化は、まずは透明な水色だった体色が透明感のある緑色に変化したことです。次に身体が膨張して、全体的にワンランク上のサイズになりました。具体的に言うと、せいぜい十数センチメートルだった身体が、三十数センチメートル近くまで巨大化しました。それにともない、ガーデンスライム表面に生えていた植物の数も増加して、単品の鉢植えから横長のプランターのような印象を受けるようになりました。
次にスィームルグの変化についてです。こちらは、元々青系統だった羽根の色が、さらに鮮やかな青系統になりました。こちらは、大きさに変化はありませんでした。しかし、尾羽根が長く伸びて二つに分かれました。
二人の変化は、この程度で済みましたか。
『私』は、二人の姿を確認してそう思い、胸を撫で下ろした。これがまたアルケミィーソーンの時のようなことになったらどうしようかと、少し心配でしたからね。ガーデンスライムはともかく、スィームルグがマスターの影響をもろに受けたら、どうなるのかわかったものではありませんからね。
『私』は、そのもしもを想像しかけて、すぐにその考えを振り払った。
『どうやら問題無く成功したようですね。二人とも、身体に異常はありませんか?』
『私の方は大丈夫です』
「ダイ、ジョウブ」
『え!?』
『私』が二人に状態を確認すると、二人とも大丈夫だと返してきた。そう、二人ともが。
『ガーデンスライム、あなた話せるようになったのですか?』
「ウン、ハナセル。ケド、ガーデンスライムチガウ」
『違う?』
「ソウ。ボク、オーウ゛ェル」
『ああ、そういうことですか。たしかに、もう名前があるのですから、名前で呼んだ方がいいですよね』
「ウン」
オーウ゛ェルは、身体を膨らませて。胸を張ってそう言った。
『よかったですね、オーウ゛ェル。それでは皆さん、私の方もこれからはアズゥンと呼んでくださいね』
『了解しました』
「わかった!」
『わかった。・・・そういえばアスティア』
「なあに、おじいちゃん?」
『二人につけた名前の由来は何なんじゃ?』
「なまえのゆらい?」
『それは私が説明しましょう』
『ほうっ。アンサラーがかね?』
『ええ。マスターは、私が表示した名前から選んだだけですから、詳しい意味については私が説明します』
『それでは頼もうかのぅ』
『はい。さて、まずは二人の名前の成り立ちから話ましょう。二人の名前は、ある二つの語句を合わせたものとなっています』
『二つの語句?』
『はい。オーウ゛ェルの方は、《オー》《ウ゛ェール》という言葉。アズゥンの方は、《アズゥ》《シーズン》という言葉です』
『その四つには何か意味があるのかね?』
『ええ。異世界の言葉で、この世界の言葉に訳すとそれぞれがこうなります。《水、オー》《緑、ウ゛ェール》《アズゥ、青》《シーズン、季節》』
『ほうっ。オーウ゛ェルが水と緑。アズゥンの方が青と季節という言葉を合わせた名前か。名前と同じように意味も繋げるなら、オーウ゛ェルが水の緑。あるいは、緑色の水といったところで、アズゥンだと青の季節といった感じかのう。なるほど、二人の変化にも納得がいくな』
『そうですね』
オーウ゛ェルは、体色が緑色になってまんま緑色の水ですし、アズゥンの方も青系統の色がさらに鮮やかになって、名前の青が強調された感じですからね。もっともアズゥンの方は、シーズン(季節)の部分がどうなっているのか、少し気になりますけど、今はおいておきましょう。
『さて、ひとまずはこれで終了ですね』
「ほかのは、たしかめないの?」
『他の?ああ、今はいいんですよマスター。名付け後の変化の内、感情面についてはすぐにわかるようなものではありませんから。それに、元々マスターと二人との親密度は低くありませんから、そこまで気にする必要はありませんしね』
「そうなんだ。うん、わかった」
『それでは、後はお姉さんを待つばかりですね』
「うん、そうだね!」
『そうじゃな』
『そうですね』
「ソウ」
それから『私』達は、お姉さんが戻って来るまでの間、たわいもない話をしてすごした。




