状況と説明
『私』が向かった先ではエトガルが、傷一つ無い無傷の状態で転がっていた。
『エトガル』
『私』は、そんなエトガルに必要以上に優しく声をかけた。
『うっ、ううーん。』
『私』の声に反応したエトガルは、落下地点から浮き上がり、空中でふらふらした。
『・・・ひっ!アンサラー!!』
そして、ふらふらしていたエトガルは、『私』のことを認識した瞬間に後ずさった。
『ようやく意識がはっきりしたようですね、エトガル?』
『ア、アンサラー!いきなり《アンサラーアンサー》を我にぶち込むとは、どういうつ、つもりだ!』
エトガルは、奮えながら『私』にそう食ってかかってきた。
『いきなり?エトガル、私はいきなり魔法をあなたに放ってはいませんよ?』
『なんだと?』
『あなたが目覚めたのを確認してから、ちゃんと三回は呼びかけました。もっとも、その三回ともあなたに無視されましたがね』
『私』は、怒気を含めた声でエトガルにそう言った。
『そ、そんな馬鹿なことが・・・』
それを聞いたエトガルの反論の言葉は、だんだん小さくなっていき、最後には途切れた。
どうやら、『私』の《アンサラーアンサー》の効果と発動条件を思い出したらしい。
『エトガル。あなたはもちろん知っていますよねぇ?私の魔法の効果と発動条件』
『あ、ああ。自分と対象との対話で得た感情で効果が変わる魔法。発動条件は、対象との対話だったな』
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この場合の対話とは、アンサラーか相手からの一方通行なものでもそのカテゴリーに入る。理由は、無視というのも対話の選択肢の一つに入るからである。■
『ええ、そうですよエトガル。そこまでは私の魔法について覚えていましたか。だったら、私が先程言ったことが正しいことはもう理解していますね?』
『そ、それは・・・』
『私』は、本でなければ冷や汗を流しているだろうエトガルに、現状を理解出来たかを確認した。
『あ、ああ。すまなかった。我が悪かった』
エトガルは、おどおどしながらだが、謝罪をした。
『わかってくれたのならいいんですよ、エトガル』
『私』は、エトガルからの謝罪を受け入れた。
その理由は、エトガルがちゃんと謝罪したことがメインですが、他の要因もあります。それは、『私』が先程発動させた《アンサラーアンサー》のせいです。この魔法は、発動条件を満たした後に相応の魔力と、発動条件を満たす時に得た感情を消費して発動するからです。そして、これがあれだけの魔法弾を喰らってエトガルが無傷だった理由でもあります。『私』の魔法は、『私』の本質の影響をもろに受けているので、必ず相手の対応に影響を受けます。相手の対応が無視のようなおざなりなら、『私』の怒りを反映して非殺傷攻撃系に。相手の対応が、憎しみや殺意を抱かせるものなら致死攻撃系になります。逆に、相手の対応で保護欲を抱いたりすれば、回復や強化などの補助系の効果になります。
このルールに当て嵌めると、エトガルの対応はムカつきましたが、怪我をして欲しいと思うようなレベルではなかった為、エトガルは『私』のムカつき分のダメージは受けても、傷などをおうことはなかったのです。
『さて、それではエトガル。先程の状況説明をしてもらいましょうか?ただ偵察に行ってもらっただけなのに、どうしたらあんな状況になるんですか?』
『それは・・・』
『私』が先程のことについて聞くと、エトガルはぽつぽつと話始めた。
『私』は、しばらくはエトガルの話に意識を傾けた。そして、エトガルの話が終わると、情報のまとめに取り掛かった。
その結果、以下のようになった。
『私』達と別れたエトガルは、『私』の指示通りに、この階層にあった謎植物の確認に向かった。そして、向かった先にいたのが、『私』達が先程見た、鳥型と戦っていた針葉樹型モンスターだったそうです。それで、あの針葉樹型モンスターの正体ですが、エトガルがマスターの為に作成した、新種のモンスターだったそうです。ならなんで最初に言わなかったのかというと、『私』が正体不明の植物がヒットしたと言った時点では、別の植物が紛れ混んでいるのかと思ったからだそうです。この辺りは、『私』の能力に信頼が高めだったのが原因ですね。どうやら、あの時点ではまだ情報が掲載されていなかっただけだったようです。それで、『私』が偵察を指示した植物の正体がわかったエトガルは、さっさと『私』達のもとに報告の為、帰還しようとしました。しかし、ちょうどその時に奴が現れたそうです。そう、あの鳥型の影が。それを見たエトガルは、帰還を一時中断して、鳥型の排除を実行した。その排除方法は、『私』の《アンサラーアンサー》と同じような、エトガルの固有魔法を使用したそうです。エトガルの固有魔法名は、《エトガルガアウ゛ァー》(挑戦されるものの誇り)といいます。この魔法は、『私』の固有魔法同様発動条件があり、この魔法の場合はエトガルに挑んだ者にたいして発動します。逆に言うと、エトガルからは任意の対象にたいして発動出来ない魔法ということです。こちらの魔法も、やはりエトガルの本質が反映されていますね。さて、この魔法の効果ですが、言ってしまえば現状の簡易行使です。どういうことかというと、対象の相手となるモンスターを召喚、または実体化させる魔法なのです。今回の場合は、この階層に配置していた蟻型モンスターを召喚して、鳥型にぶつけたということになります。
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ちなみに、召喚・実体化されたモンスターの強さは、エトガル内ならば試練同様に対象よりも少し強い程度。エトガル内以外だと、強さ・実体化時間などは所有者の魔力量などに左右される。■
蟻型モンスター達を召喚後は、針葉樹型モンスターも一緒に動かして、鳥型に攻撃を開始したそうです。もっとも、鳥型は当然空を飛んでいた上、かなりの防御力を持っていた為、有効打を与えることは出来なかったそうですが。
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針葉樹型モンスターは、針葉を飛ばして攻撃。蟻型モンスターは、飛行して集団で鳥型に襲い掛かった。■
そして、戦いが長引き、こちらが攻めあぐねいていると、鳥型が急降下して来て、エトガルはさらわれてしまったそうです。その後、下に残された蟻型と針葉樹型モンスターがエトガル救出の為にいろいろしたそうですが、救出は出来なかったそうです。
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針葉樹型は、ドレインソーンみたいに茨の持ち合わせがなかったので、針葉を飛ばして牽制を行い、鳥型が針葉樹型の相手をしているうちに、蟻型がエトガルの救出に向かった。しかし、鳥型はそれを察知すると、大きく羽ばたき、蟻型モンスター達を地面に叩きつけた。ちょうどその後で、アスティア達が戦場に到着した為、アスティア達が最初に見た状況になっていたのである。■
まあ、その後いろいろモンスター達が頑張ったようですが、結局どうにも出来ず、戦場に到着した『私』達がエトガルを救出したということです。
『苦労したんですねぇ』
『私』は、エトガルの話をまとめ終わった後、そう感想をもらした。
『ああ、大変だった。あの鳥型に捕まって、アクロバット飛行を体験することになったぞ』
エトガルは、疲労を滲ませながらそう呟いた。
『そうですか。では、マスターが目覚めたらすぐにここから退避しましょう。下手をすると、あの二体以外にもまだいるかもしれません』
『二体?どういうことだ、アンサラー?』
『ああ、そうでした。こちらの話をしていませんでしたね』
『私』は、エトガルの言葉でこちらのことを教えていないことを思い出した。
『そちらでも何かあったのか、アンサラー?』
『ええ。それなりにいろいろとね』
『私』は、エトガルと別れた後こちら側であった出来事をエトガルに話始めた。




