理由と報酬
「あんさらー、かったよぉ!」
マスターが『私』達の方に駆けて来て、嬉しそうにそう報告してきた。
『ええ、よかったですねマスター』
「うん!」
『私』が褒めると、マスターは満面の笑みを浮かべて頷いた。
『けど、マスター』
「なあに、あんさらー?」
『何故アルケミィーソーンの一撃で終わらせなかったのですか?最初の蟻酸にしても、アルケミィーソーンの竜鱗コーティングなら、簡単に防げたと思いますよ?』
「えっとねぇ、ちょっとそれはかわいそうかなぁ?とおもったんだ」
『可哀相?何故そう思ったのですか、マスター?』
「だってあのひと、エトガルのためにとてもはりきっていたんだもん。ぼくも、あんさらーにほめられたくてはりきってたから、あのひとのキモチがよくわかるんだ。それに、インテラント達のおかあさんに、ケガをさせたくなかったしね。でも、ちょっとしっぱいしちゃった」
マスターは、最後に肩を落としてそう言った。どうやら、蟻酸をボスにぶっかけて、のたうちまわらせしまったことを反省しているようですね。
『そうだったんですか。マスターは、優しい子ですね』
もっとも、今回はその優しさが原因でボスが酷い目にあってますけど。
自分の攻撃で不意打ちされたあげく、追い打ちまで加えられたというのが客観的な事実。
これをやったのがマスターでなかったら、陰険というか、容赦がないと誰もが思う状況ですね。
もっとも、マスターの心情を知る『私』としては、相手がいたたまれないですね。なんせ、あの容赦のなさが陰険とかそういうのとは反対の優しさや思いやりの結果なんですから。『私』がボスと同じ立場だったら、下手な敵にやられるよりも精神的にくるものがありそうです。
『見事です』
『私』がそんなことを思っていると、地面に横たわるボスからそんな声が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、横たわるボスが光の粒子に変わった後、最初の傷一つ無い状態でマスターの前に立っていた。
『まさかこんなにあっさり負けるとは思っていませんでした。ですが、あなたの力はたしかに見せていただきました。アスティア=ドライト、わらわの試練はクリアです。おめでとう』
「わあーい、やったー」
『それでは、この第一階層をクリアした報酬をお渡しいたします。受け取ってください』
「は~い!」
マスターが元気よく返事をすると、ボスは腕を一降りした。すると、マスターの目の前に大人が一抱えするほどのサイズの宝箱が出現した。
『報酬はその中に入っています。どうぞお受け取りください』
「なかみはなにかなあ?」
「ピィ?」
「「「ギィ?」」」
マスターは、早速宝箱を開け始めた。そして、今までマスターの試練を見守っていたガーデンスライムやインテラント達も、宝箱に興味津々なようで、マスターのそばに歩いて行って、一緒に宝箱が開くのをワクワクした様子で待っている。
ギィ
マスターが蓋に触れると、宝箱はゆっくりと開いていった。
「なにこれ?」
「ピィ?」
「「「ギィ?」」」
宝箱が開くと、そこにはマスターの拳大の透明に輝く宝玉が一つ入っていた。いえ、あれはただの宝玉ではありませんね。あれは。
「キラキラしてるね。これがたからものなの?」
『そうです。それがこの第一階層を攻略した挑戦者に送られる報酬。《ダンジョンコア》です』
「《ダンジョンコア》?」
『そうです。詳しい説明については、アンサラー様にお聞きください』
「わかった。あんさらー、《ダンジョンコア》ってなあにぃ?」
『《ダンジョンコア》ですね。それなら、こういうものです』
『私』は、マスターのもとに飛んで行って、《ダンジョンコア》についての情報を表示してマスターに見せた。
《ダンジョンコア》
ダンジョンを形成する為の核となる宝玉。ダンジョンコアには、自然発生型と人意発生型の二種類のパターンが存在しており、その種類に応じていくつかの差異がある。
自然発生型
世界の魔力が一定の範囲に集まり、吹き溜まりとなった結果、その吹き溜まりを消費・正常化させる為に世界がダンジョンコアを発生させたパターン。
人意発生型
術者(たいていの場合、魔法使い・魔王・神といった職業・種族のもの)が、各々の理由(拠点・実験施設・試練など)を持って、技術・能力でダンジョンコアを作りだしたパターン。
基本的に共通しているのは、どちらもダンジョンコアに蓄積されている魔力量に応じてダンジョンの規模が決まること。ただし、魔力蓄積量が変化すると、ダンジョンの規模も変化する。自然発生型だと、周囲の魔力量に応じて規模が変化する。たいして人意発生型は、術者または魔力提供者(総称ダンジョンマスター)がダンジョンコアに蓄積している魔力量に応じて規模が変化する。
ダンジョン内の構造及び出現するモンスターの種類は、それぞれの型によって異なる。
自然発生型の場合は、ダンジョンコアが発生した場所と同じ環境になり、モンスターもその環境に適したものが魔力濃度に応じて自然に出現する。
人意発生型の場合は、ダンジョンマスターが設定した環境になり、モンスターはダンジョンマスターが指定したものが任意のタイミングで出現する。
ダンジョンが破損した場合、自然発生型は周囲魔力を吸収して破損箇所を自動修復する。
人意発生型は、ダンジョンマスターが魔力を注がない限り修復はされない。
以下、対象のダンジョンコアについての詳細。
《ダンジョンコア・オリジン》
■■■が生み出した、全てのダンジョンという概念の源初にあたる存在。エトガルがブックメーカーに与えられた宝物。
ダンジョンコア・オリジンの能力は以下のとおり。
1所有者に魔力を注がれることによって、その魔力量に応じたダンジョンを形成出来る。
2形成されたダンジョンの環境(天候・地形・壁の位置等)を自由に変更出来る。(通常のダンジョンは、作成時の状態から変更は不可)
3ダンジョン内に任意のオブジェクト・アイテム・ギミック(仕掛け)を設置出来る。(破壊可能・不可の設定が可能)
4任意のモンスターを作成出来る。(モンスターの属性はダンジョンマスターの属性に依存。種類・レベルは、所有者の熟練度によって上限が設定される)
5ダンジョン内のルール設定が出来る。(ダンジョン内での生死判定・人数制限・攻略条件など)
6ダンジョン内の生物・非生物の強化・ランクアップが出来る。(レベル制の適応・存在進化等)
7ダンジョンコアの作成が出来る。(ダンジョンコアの性能は、通常のダンジョンコアと同等)
8スキル・アビリティー・モンスターの合成が出来る。(合成後は、合成素材は消滅する)
9能力付与が出来る。(付与出来る能力は、所有者の熟練度に依存。付与された能力は、基本的にダンジョン内でしか発揮されない。ただし、所有者の熟練度があるラインを越えた場合、そのラインに比例した範囲ならダンジョン外でも能力を発揮可能)
×アクセス不許可×
プロテクトにひっかかりました。それいがいの能力は、現在開示出来ません。
『すみません、これいじょうの情報はブックメーカーの許可がないとお見せ出来ませんマスター』
「うん、わかった」
マスターは、『私』を閉じて手に取った。
「ていうか、すこしむずかしかったから、あとでじっさいにやりながらおしえてよ、あんさらー」
『わかりました、マスター』
『それでは皆様、これでわらわのボスとしての役目は終了です。これからは別室でお話したいことがありますので、あちらへどうぞ』
「はーい!」
こちらの話が終わると、ボスがそう言って隣の部屋に手招きしてきた。
マスター達は、ボスに招かれるままに、別室に移動を開始した。




