ボスと対決
■は、第三者視点情報です。
あれから探検は、マスター達が飽きるまで続いた。そして、一段落ついた現在は休憩に入ったところである。
『それにしてもこの亜空間、なんでこんな有様になっているんですかねぇ?』
マスターが休憩に入ると、『私』はそんな感想をもらした。
実際、この亜空間は臓器という言葉が当て嵌まらない感じですしね。現状を鑑みると、一つの世界かフィールドとして独立してやっていけそうに思うんですよねぇ?
火のように燃える太陽で熱と光が生まれ、その熱と光を吸収して大地を埋め尽くす広葉樹達が果実を実らせる。その果実から自走型植物が生まれ、その自走型植物達が川から水を汲んで森に水をやる。川に果実が落ちると、それがガーデンスライムになって、こちらも森に水をやる。それと先程は気づかなかったが、広葉樹の樹液が大地に垂れると、そこからインテラント達が発生していた。彼らは大地を耕し、落ちた果実を別の場所に植えたり、分解して肥料を作ったりしていた。この辺りですでに一つの生態系が構築されていた。
ここまでの光景を見たところ、この亜空間はマスター達の属性や契約の影響をもろに受けていることがわかった。赤い太陽がマスターの火属性。どこまでも広がっている大地がマスターの地属性。森の広葉樹が、ガーデンスライムとアルケミィーソーンの木属性。流れる川がガーデンスライムの水属性。この森の広葉樹達の種類を見たところ、先程マスター達が収穫した果実と同じ種類であることがわかったので、マスターの時属性で急成長したようだ。そして、全ての広葉樹に果実が稔っているのはアルケミィーソーンの刻属性で状態が固定されているせいのようだ。他に果実、樹液からモンスター達が生まれるのは、アルケミィーソーンの命属性の影響のようです。出現するモンスターの種類が偏っているのは、マスターが契約した彼らの影響でしょう。ただ、それなら何故マスターの種族のヒューマンが出現しないのか不思議です?人間種とモンスターの違いでしょうか?それとも、『私』達が把握していないだけで、何処かにいたのでしょうか?
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ヒューマンはいませんが、それいがいなら数種族亜空間内に存在しています。■
「あんさらー。そろそろかえろっかぁ?」
『私』が亜空間についてまとめていると、マスターが『私』を手に取ってそう言ってきた。
『え?ええ、マスターがもういいのなら、帰りましょう』
「それじゃあ、《くうかんれんけつ》っと」
そう言ってマスターが手を叩くと、扉状の連結面が出現した。
「それじゃあ、またあとでねぇ~」
マスターは、アルケミィーソーンにそう言うと、連結面をくぐって行った。
「あれ?どうかしたの?」
マスターが連結面をくぐった先では、インテラント達と蟻型モンスター達が右往左往しているところだった。
「ギギィ!ギィ、ギギィ!」
「え?ああ、ごめん。みんなをまっているあいだ、ぼくたちもいろいろしてたんだよ」
インテラント達は、連結面から出て来たマスターを見ると、最初に驚き、次にマスターに何かを訴えかけた。
それにたいして、マスターが謝って説明みたいなことをした。
どうやらインテラントと蟻型モンスター達は、巣穴の拡張が終わってマスター達を呼びに来たら、マスター達の姿が影も形もなくて、慌てて捜索していたのだろうと推察出来た。そして、捜索していたマスターが突然出現したから驚き、ついでいなくなったことを抗議したのだろう。それを受けてマスターは謝り、説明をしたと、たぶんこんなことだろう。
にしても、やっぱり言葉が通じないとやりにくいですね。
『私』がそう思っていると、マスターはインテラント達と一緒に歩き出した。
巣穴・最下層
現在歩き出したマスターは、インテラント達の案内のもと、巣穴の最下層に到着した。
地下のわりにそれなりの空間を持っているこの最下層が、このフロアのボス部屋のようだ。
その証拠に、現在マスターの目の前には、インテラント達と同サイズの女王蟻らしいモンスターがスタンバイしている。インテラント達との違いがあるとすれば、お尻の部分が肥大化していることぐらいだろうか?
『よく来ましたねぇ、挑戦者よ。わらわがこのフロアをエトガル様よりお預かりしているボスです。挑戦者、あなたの到来を歓迎いたします』
『私』が目の前の相手を見ていると、相手が念話でそう言ってきた。
「あ、はじめまして。アスティア=ドライトです」
『うむ、よい挨拶です。さて、では挑戦者よ。あなたは戦闘とそれ以外、どちらでわらわに挑戦いたしますか?』
『マスター』
「わかってる。せんとうでおねがいします」
『戦闘ですね』
「うん!」
マスターは、ボスの確認に元気よく頷いた。
『わかりました。それでは、挑戦者以外の方は白線の外側にお下がりください』
ボスがそう言うと、部屋の中を白線が駆け抜けた。
「あんさらー」
『わかりました。マスター、頑張ってください』
「うん!」
マスターに促された『私』は、空に浮かび上がり、ガーデンスライム達と一緒に白線の外側に移動した。
『それでは準備はよろしいですか?』
「は~い!」
『それでは戦闘開始です!』
カパッ ブシャアー
そう言うとボスは、左右に割れた口を開き、マスターに向かって何かを吐き出した。
「わっ!」
マスターは、それを見て慌てて回避しょうとした。
「うわっち!」
ジュゥゥゥゥ
が、マスターの身体能力は所詮五才児。そんな簡単に回避出来るわけもなく、ボスが吐き出したものが服の裾にかかって、音をたてた。インテラント達の能力から判断すると、どうやら蟻酸を吐いたようだ。
『マスター!』
『私』は思わず叫んだが、マスターは手を振って大丈夫だと言ってきた。
『マスター』
『私』は、マスターが心配だったが、マスターの言うことを信じることにした。
「うわっち、あぶなかったあぁ」
『ふふ、初撃はかろうじて避けましたか。では、次はどうでしょう、ね!』
ボスは、再び蟻酸をマスター目掛けて吐き出した。
「それはもうみたよ、《くうかんれんけつ》!」
ボスの攻撃に、マスターはそう言って空間連結の魔法を発動させた。
『良し!』
これで亜空間に接続して、アルケミィーソーンの茨を召喚すればマスターの勝ちです!
『私』は、マスターの勝利を確信した。
が、すぐに『私』の想像がハズレたことがわかった。
なぜなら、連結面はマスターの目の前だけではなく、ボスのそばにも出現したのだ。
『いったいなにを?』
蟻酸を吐き出し終わったボスがそんな疑問を口にしていたが、気にはならなかった。それよりも、マスターの意図の方が気になったからだ。
蟻酸は、マスターが出現させた連結面をくぐって行った。
バシャッ!
『え?・・・ギャアー!?』
連結面をくぐった蟻酸は、マスターがボスの背後に展開させていた連結面から出現し、蟻酸を見送っていたボスの背中に直撃した。
ボスから、蟻酸が背後から当たった疑問と、蟻酸で溶ける痛みの声が上がった。
そして、ボスは痛みにのたうちまわり始めた。
まあ、無理もないでしょう。背後から不意打ちを喰らったのですから。
「これもオマケしておくね!《くうかんれんけつ》」
マスターは、のたうちまわるボスにそう言うと、新たな連結面を出現させて何か白い物体を取り出した。そして、蟻酸で苦しむボスのそばにそれを放り投げた。
何を放り投げたのか見てみると、それは白い林檎大の果実。アップスの実だった。
コン、ブシャアー!
放り投げられたアップスの実は、ボスのそばに出来ていた蟻酸の水溜まりに落ちた。その結果アップスの実の皮が溶けて、アップスの実の中身。冷却物質が一気に吹き出し、すぐそばにいたボスに襲い掛かった。
『こ、れ、わ!?』
ボスがそれに気づいた時にはすでに手遅れ。ボスは白い靄に飲み込まれていった。
少しして靄が晴れると、そこにはピクリともしないボスが転がっていた。
こうして、マスターは第一階層のボスを倒した。
しかし、予定よりも酷い勝ち方になりましたね。
『私』は、ボスに少し同情した。




