空間連結と亜空間
■は、第三者視点情報です。
「ねぇねぇあんさらー、いっぱいできたよ~!」
マスターが嬉しそうに魔法の成功を見せてきた。
そのマスターの周囲には、大小様々な大きさと形状の穴がいくつも存在していた。そして、その穴の向こう側の景色は、別の穴のこちら側の景色でした。
『よかったですね、マスター。これで三十二回目の成功ですよ』
「うん!」
マスターは、あれからずっと空間連結の魔法を練習した結果、空間連結の魔法を驚くべき早さで修得した。
これならアルケミィーソーンの移動は問題ないでしょう。
ちなみに、何故三十二回も成功しているのにまだマスターが空間連結の魔法を繰り返しているのかというと、本人がこの魔法をやることをやたら気に入ったことが一つ。そして残りの理由はというと。
『私』は、マスターから視線を他方にずらした。
「ピィ!」
グニュ?
ずらした先では、何故かガーデンスライム達も空間連結の魔法を練習していた。
時を遡ること少し、マスターが練習していたら、お留守番していた彼らもやりたがったのでついでに教えて見たところ、ガーデンスライムがマスターよりも少し遅れてはいましたが、無事に空間連結を修得しました。
ただ、アルケミィーソーンがなかなか上手く出来ず、いまだにいろいろ試しているので、最初に修得したマスターがお手本をやってあげているのが二つ目の理由ですね。
三十二回もして見せて、いまだに出来ないのだからそろそろ諦めるか後回しにすればいいのにと思わないではないですが、マスターが楽しそうなので良しとしましょう。
それに、アルケミィーソーンが空間連結を修得してくれると、出入りが楽になってマスターの負担が無くなりますしね。
『私』はそんなことを考えつつ、彼らの姿を見守った。
そして、マスターの空間連結成功回数が、五十回目をこえたあたりでアルケミィーソーンは無事空間連結を修得した。
ずいぶんと時間がかかりましたねぇ。まあ、外では時間が流れていませんし、エトガルはまだ休息中。針葉樹型モンスターはあれから動き無し。蟻型モンスターの方はインテラント達が巣穴を拡張中であちら待ち。とくに急ぐ要素はないですから、問題ないですか。
『マスター』
「なあに、あんさらー?」
『そろそろ本番に移りましょう』
「わかった~」
パンッ!
そう言うとマスターは、手を一回叩いた。
すると、マスターの周囲にあった様々な大きさの穴。空間連結面が次々閉じていった。僅かな間に、マスターの周囲からは連結面が全て無くなり、正常な空間に戻った。
ワンアクションであれだけの数の連結面を操りますか!親和性の助けがあったとはいえ、この短時間で恐ろしい制御能力ですね。しかし、時属性に続いて空属性の魔法の修得に成功ですか。・・・なんで火と地の初歩の魔法は成功しないのに、難易度が高めの属性だと上手くいくんでしょうね?
マスターが魔法を修得出来て嬉しいのですが、難易度を考えると順番がおかしいと思った。普通、難易度としては、念話や翻訳などの無属性魔法が一番低く、時や空属性の使い手の少なく、影響範囲の広い特殊属性が一番修得が難しい。火や地属性の四大元素は、修得難易度でいえば無属性魔法の次。魔法世界だと、自分の属性ではない子供でも使用出来る程度の難易度しかないんですよねぇ?魔力も属性も持っているマスターが成功しない理由が謎ですね。
「それじゃあいくよ、あんさらー!」
『私』が疑問を抱いていると、マスターからそう言われた。
『え!?あっ、はい。いつでもいいですよ、マスター』
「それじゃあいくよ、アルケミィーソーン」
コク
マスターの声にアルケミィーソーンは茨を頷かせた。
「《くうかんれんけつ》!」
マスターは、アルケミィーソーンが頷いたのを確認して、空間連結の魔法を発動させた。
ブンッ、ブンッ
すると、アルケミィーソーンの枝先数センチの辺りに連結面が出現し、その辺りの景色が変化しだした。
最初はせいぜい数十平方センチメートル程度の穴と変化だったが、その穴を基点に同じサイズの穴が上下左右に次々展開していった。それらはやがて全長七十メートルほどの扉状の形に落ち着き、展開が停止した。
『すごい!これだけのサイズの連結面を展開させられるなんて、凄すぎますよマスター』
「えへへ、そうかなぁ?」
マスターは、照れているらしく顔を赤くしながらそう返事を返してきた。
『ええ。けれど、なんで一度に開かずに、穴を増殖させていったんですか?』
「え?ああ、それはね。ちいさいのをツミキみたいにかさねていったほうがらくだったの」
『ああ、そういうことでしたか』
積み木みたいにね。マスターは、魔法処理能力が低いとなっていた。けれどこれを見るかぎり、一度に大きな処理は出来ずとも、処理内容が小さなものは並列使用が可能なようですね。それとも、心結契約と導盟契約などを経て、マスターの魔法処理能力に変化でも出たのでしょうか?今度、暇な時にでもステータスを確認してもらうとしましょうか。
「アルケミィーソーン、じゅんびオッケーだよ!」
『私』がマスターの魔法処理能力について考察している間に、マスターはアルケミィーソーンに準備が出来たことを伝えた。
コク
アルケミィーソーンは、マスターの言葉に頷き、空間連結面に向かって移動を開始した。
■
アスティア達を自分に乗せたまま。アスティア達は、揃って亜空間の中に消えて行き、その後連結面も次々閉じていった。後にはなにも残らなかった。
その後しばらく経って、巣穴の拡張作業をしていたインテラント達が帰って来たが、誰もいない状況に首を傾げることとなった。それはまた別の話である。■
『私』は、現在自分の失敗に頭を痛めていた。
理由は、うっかりアルケミィーソーンがマスター達を乗せたまま亜空間へ突入するのを許してしまった件についてだ。
本来は、アルケミィーソーンを一緒に連れて行くために提案したのに、何故かマスター達が揃って亜空間にいる。
『私』達が今いる亜空間は、傍にいるマスターの亜空間臓器であり、足元にいる共有元のガーデンスライムのものでもある。ついでに、アルケミィーソーンのものとも共有化されていたりする。
さて、それならば現在『私』達は誰の腹の中にいるのだろうか?
『私』は、現実逃避がてらそんなやくたいもないことを考えた。が、実際謎である。亜空間は共有化されている。それは事実だ。が、その亜空間の持ち主が全員その亜空間内にいる現状だと、今いる亜空間がどこに存在しているのかはなはだ疑問だ。
ちなみに、『私』がこんなくだらないことを考えている間、マスター達は絶賛亜空間内を探検中だ。
『私』も子供返りして、一緒に探検したいと思う今日この頃である。
■
ちなみに、この亜空間は現在世界の境界に存在していたりする。■
『私』は、気の迷いを振り払い亜空間の現状を確認した。
まず目につくのは、境界が見えず、どこまでも広がる雄大な大地と、その大地を埋め尽くしそうな規模の、様々な果実がたわわに実った広葉樹の森。そのたもとを流れるいくつもの川。そして、その川から水を汲んで木々に与えている自走型植物達とガーデンスライム達。その全てを照らす赤い太陽。
それがこの亜空間に存在していた全てだった。
『私』は、その亜空間の様子に頭を悩ませるのだった。




