アルケミィーソーンと契約
「うわー、おっきい」
アルケミィーソーンの根本にたどり着いたマスターは、アルケミィーソーンを見上げながらそう言った。
「ピィ」
「「「ギィ」」」
ガーデンスライムやインテラント達もアルケミィーソーンを見上げながら、マスターの意見に賛意の声を上げた。
『まあ、たしかに大きいですよね』
『私』も、そんなマスター達に同意した。
なぜなら、アルケミィーソーンの高さは五十メートル以上。幹や根、枝などの各部位の太さなども、それそうおうの大きさとなっていたからだ。下手をすると、小枝一つにマスターがすっぽり納まってしまいそうなのだ。
それほどまでに、アルケミィーソーンは巨大だった。
「ねぇ、あんさらー」
『なんですかマスター?』
「ここまできたけど、この後はどうすればいいの?」
『そうですねぇ?契約するにしろ、話をするにしろ、アルケミィーソーンが反応する場所に行きませんとね』
「はんのうするばしょ?それってどこ?」
『うーん。ドレインソーンの時は、核のある場所でしたけど、進化した今はどこになるんでしょうね?』
「あんさらーにもわからないの?」
『ええ。私が知っているのは、さっきマスターに見せた分だけです』
「そっかぁ~。じゃあ、どうすればいいのかなぁ?」
『そうですねぇ。アルケミィーソーンは、とりあえず使役状態のはずですから、マスターが命じれば教えてくれると思いますよ』
「そうなの?ぼく、そのしえきっていうのに、じっかんがわかないんだけど?」
『まあ、いつ使役したのかわかっていませんから、しかたがありませんよ。けど、私に記載されていたいじょう、アルケミィーソーンがマスターに使役されているのは事実です。なので、試しに軽く声をかけてみたらどうですか』
「うーん?・・・わかった、やってみる」
マスターは一歩前に出た。
「アルケミィーソーン!」
ザワ ザワ ザワ
マスターが声をかけると、風が強くなったわけでもないのに、アルケミィーソーンの羽根状の葉っぱの擦れる音が大きくなった。
どうやら、マスターの呼びかけに反応しているようですね。
「あんさらー、なにもおきないね」
『いえ、マスター。葉っぱが呼びかけに反応していますよ』
ザワ ザワ ザワ
「そう、なの?けど、はっぱがはんのうしても、このあとどうすればいいの?」
マスターは、アルケミィーソーンを見上げながら首を傾げた。
『反応はしていますから、もっと具体的な命令かお願いをすればいいと思いますよ』
「ぐたいてきなおねがいかぁ~。なんていえばいいのかなぁ?・・・そうだ!それじゃあ、ぼくたちをきみとおはなしできるところまでつれていってよ!」
ザワ ザワ ザワ ズズズズ
マスターがそうアルケミィーソーンに頼むと、アルケミィーソーンの根本から一本の茨がマスター達の目の前に伸びて来た。
「これにのればいいの?」
ザワ ザワ ザワ
『たぶんですが、そうだと言っているようです』
「わかった!じゃあ、みんないこっ!」
「ピィ!」
「「「ギィ!」」」
『わかりました』
マスターは『私』達にそう言うと、茨に向かって歩き出した。言われた『私』は、すぐにマスターの後を追いかけた。
そして、全員が茨の上に乗った。
マスター達が乗った茨は、やはりというか、ドレインソーンの時とはまるで別物だった。
「うわー、冷たくない!?」
「ピィ」
「「「ギィ!」」」
そう、ドレインソーンの時の茨は、霜がおりていて冷たかったが、今の茨は火属性が加わったせいか、ほのかに暖かかったのだ。
「それにすべすべ!?」
「ピィ!」
「「「ギィ!」」」
他にも、茨の表面が竜鱗に覆われているにもかかわらず、肌触りはごつごつはしておらず滑らかだったり。
「お~、ふかふか!」
「ピィ!ピィ!」
「「「ギィ!ギィ!」」」
それに加えて、竜鱗は羽根のように柔らかく、クッションのようでもあった。
マスター達は、しばらくこのクッションのような茨の上を跳びはねていた。
しかしこんな柔らかい茨が、あの影の攻撃を完全に防ぎ、閃光でも傷一つつかなかったという事実は、ちゃんと見ていた『私』をしても、驚きの一言につきた。
一方、マスター達とは違い、『私』の方は直接見て驚きを感じて、そんな感想を持っていた。
『マスター、そろそろいいですか?』
『私』は、マスター達がある程度遊んで満足したのを確認してから声をかけた。
「え?ああ、うん。だいじょうぶ」
「ピィ?」
「「「ギィ?」」」
マスターの方は多少名残惜しそうなだけだが、ガーデンスライムとインテラント達はもう少し遊びたいようだ。
『遊ぶのは、アルケミィーソーンとの話が終わってからにしましょう。それに、このダンジョン内ならどれだけ遊んでも問題はないのですから、厄介ごとをさきに片付けて、後から好きなだけ遊びましょう。ね?』
「ピィ!」
「「「ギィ!」」」
ガーデンスライムとインテラント達は、『私』の言葉を聞き入れてくれたようで、おとなしく茨に座ってくれた。
『マスター、お願いします』
「わかった。アルケミィーソーン、みんな乗ったよ!」
ザワ ザワ ザワ ズズ ズズ ズズズズ
マスターがそう言うと、茨が動きだした。
茨はゆっくりと上へ上へと持ち上げられて行った。
茨は根本から幹へ、幹から枝へ、枝から登頂部分へとゆっくり上がって行った。
そして、茨はアルケミィーソーンの登頂部分に差し掛かると、今度はアルケミィーソーンの枝の間に降りていった。
生い茂る葉っぱと咲き乱れる虹色の花。たわわに実る卵型の果実。それらを通り過ぎて行き、やがて茨は停止した。
茨が停止した場所は、大きく枝が分かれていて、それなりのスペースがある開けた空間だった。
その空間の中央には、何故か緑色の普通双葉が生えていた。
『なんで枝の間に双葉が?』
「さあ?」
「ピィ?」
「「「ギィ?」」」
マスター達は、とりあえず茨から降りて、その双葉に近づいて行った。
ザワ ザワ ザワ
すると、周囲の葉っぱが鳴りだした。『私』は、それで一つの考えが浮かんだ。
『ひょっとして、これがアルケミィーソーンの核なんでしょうか?』
「え!そうなの?」
ザワ ザワ ザワ
マスターが驚きの声を上げると、葉っぱの鳴る音が大きくなった。
どうやら、この双葉が核で正解のようだ。ただ、周囲の葉っぱが羽根の形をしているのに、何故核の形状が普通の双葉なんでしょうね?
ポォー
『おやっ?』
『私』が疑問に思っていると、双葉が発光しだした。
そして、双葉は明滅を繰り返し始めた。
『これは、何かを伝えようとしているのですか?』
「たぶん、そうじゃないかな?」
「ピィ?」
「「「ギィ?」」」
アルケミィーソーンは、何かを『私』達に伝えたいようだが、『私』達にはさっぱり伝わらず、みんな揃って首を傾げた。
しばらくお互いに四苦八苦していると、アルケミィーソーンが細い茨をマスター達の胸元まで伸ばして来た。そして、それぞれの紋章をちょいちょいやってきた。
『ええと、マスターと契約したいのですか?』
コクコク
『私』がその様子を見て聞いてみると、紋章をちょいちょいやっていた茨が一斉に上下してきた。どうやら頷いているようだ。
『マスター。アルケミィーソーンは、マスターとの契約をご所望のようです』
「え、そうなの?」
コクコク
マスターが尋ねると、また一斉に茨が上下した。
『確定ですね。それでは、早速契約に移りましょう。あっ!』
「どうかしたの、あんさらー?」
『いえ、契約どうやってしましょうか』
「どういうこと?さっきみたいにやればいいんじゃないの?」
『それがそのう、魔法陣のことでちょっと問題がありましてー』
「もんだい?」
『ええ。はっきり言って、アルケミィーソーンが大きすぎます。これでは魔法陣の中には納まりきれませんよ。よしんば収まるだけの魔法陣を描くとなると、どれだけ巨大になることか』
『私』は、魔法陣の大きさを想像して、それだけの大きさの魔法陣を描く手間隙に辟易した。
普通に考えて、今の人手だと数日かかりそうだ。エトガルの様子が気になる現状では、さすがにそこまで悠長にしているわけにはいかない。
「え~、それじゃあどうすればいいの?」
『それはまあ、気長に魔法陣を描くか、契約を諦めるかの二択ですね』
「え~」
ブンブン
『私』の答えに、マスターは不満の声をあげ、茨は一斉に横に振れだした。
どうやら、どうしてもマスターと契約したいらしい。
「ねぇ、あんさらー。ほんとうに、ほかにはなにかないの?」
『そうですねぇ?』
「そういえばあんさらー」
『なんですかマスター?』
「けいやくって、まほうじんのなかにぜんぶはいっていないとだめなの?」
『いえ、そんなことはありえませんよ』
「え!じゃあ、どこがはいっていたらいいの?」
『そうですねぇ?あえていえば、交換される魂が魔法陣の中に入っていれば問題ないです。ああっ!そうですよ、魂が魔法陣に入っていれば問題ないのですから、アルケミィーソーンの核があるここでやれば問題はないですよ!』
「よかった。じゃあ、けいやくしようよ。まほうじん、またおねがいできる?」
「ギィ!」
マスターは、双葉の傍によって、インテラントにそう頼んだ。
マスターの頼みを聞いたインテラントは、早速マスター達を中心に魔法陣を描いた。
「ギィ!」
「あんさらー、じゅんびいいよ!」
『わかりました。それではいきます《違う場所、異なる時、別の星の下で生まれし種族の者達。今、彼の者達の魂を結び、何者にも断ち切れぬ絆となす。互いを心友とし、不変なる約束を互いに胸に刻め。心結契約》!』
マスターとアルケミィーソーンの間で魔力が結ばれ、やがて紋章の形になった。
マスターの胸元には、周囲を茨で覆われた木の紋章が、アルケミィーソーンの双葉には、いつもどおりのマスターの紋章が刻まれた。
こうして、三回目の契約も無事に終了した。




