インテラントと導盟契約
『マスター、とりあえずは安全になったようですし、アルケミィーソーンのところまで行きましょうか』
『私』は、戦闘に区切りがついたので、マスターにそう提案した。
「アルケミィーソーン?ドレインソーンじゃなくて?」
『ええ。マスターの魔眼で進化して名前が変わりました』
『私』はそう言って該当ページを開き、検索した情報をマスターに見せた。
「あっ!ほんとだ。なまえがかわってる。というか、すごいことになってるね、あんさらー」
マスターは、『私』が表示した情報を見ながらそう言った。
『そうですよねぇ。私も、ここまですごくなるのは予想外でした。多少強化されて、歩けるようになる程度のはずだったのですが、やたらハイスペックになってしまいました。まあ、マスターに使役されていてよかったという感じですね』
「そういえば、いつからかはしらないけど、ドレインソーンはぼくにしえきされていたみたいだよね。いつのまにしえきしたんだろう?」
『やはりマスターにも心当たりはありませんか?』
「うん。だって、かくにはさわっていないんだよ?」
『そうですよねぇ。もうそれなら、アルケミィーソーン本人に聞いてみるとしましょう』
「えっ?アルケミィーソーンって、おはなしできるの?」
『まあ、発生器官が無いので喋ることは無理でしょうが、心結契約を結べば意思疎通は可能です。植物にもちゃんと意思がありますから、契約は結べます。というか、意思がなければ使役なんて出来ませんよ』
「そういうものなの?」
『そういうものです』
「ふうーん、そうなんだ。じゃあ、みんなむこうにいこう!」
マスターは納得してくれた後、後ろにいたガーデンスライムとインテラント達にそう声をかけた。
「ピィ!」
「「「ギィ!」」」
『ストップ!インテラント達はダメですよマスター!』
『私』は、マスターとマスターの呼びかけに応えたインテラント達に慌てて待ったをかけた。
「わっ!?」
「ピィッ!?」
「「「ギィッ!?」」」
みんな『私』が慌てて放った思念に驚いた様子でこっちを見ている。
「どうしたのあんさらー、きゅうにおおきなこえをだして。それに、なんでインテラント達はいっしょじゃダメなの?」
「ピィ?」
「「「ギィ?」」」
マスターだけではなく、ガーデンスライムやインテラント達もわけがわからない様子だ。
『マスター。さっきアルケミィーソーンの情報は見せたでしょう。アルケミィーソーンの花からは、効能物質の花粉が出てるんですよ。検索結果に記載されていたとおりなら、使役者のマスター及びその魔力下にある者、またはアルケミィーソーンの樹液を服用した者達以外は、全員花粉の影響を受けるんです』
「あっ!」
『マスターと心結契約を結んでいるガーデンスライムならともかく、インテラント達は確実に影響を受けますよ』
「あ~、そうなるよねぇ」
マスターは、残念そうにインテラント達を見た。
「じゃあ、どうすればいっしょにいけるの、あんさらー?」
『そうですねぇー?一度向こうに行って樹液を取ってくるか、ガーデンスライムみたいに契約を結べばいいですよ』
「しんゆうけいやくをすればいいの?」
『いえ今回は複数なので、一体一体契約していくのは手間ですから、別の契約方式をオススメします』
「べつのほうしき?それって、どんなの?」
『導盟契約という方式です』
「どうめいけいやく?」
『ええ。導盟契約は、二つのグループの代表者が契約を結び、その代表者が所属しているグループにも影響を与える複数対象型の契約方式です』
「ええっと、じっさいにはどうなるの?」
『マスターが受ける変化は、ガーデンスライムとの心結契約で発生した内容と同じです。ただ、代表者を友人や仲間と見なしている者にも、薄く効果が出るだけです。具体的には、契約しているグループ内なら、誰とでも意思疎通が可能になることと、それぞれの魔力が薄く繋がることの二点です』
「じゃあインテラントたちとも、ガーデンスライムとみたいなかんけいになるだけなの?」
『ええ。その認識でかまいません』
「わかった!じゃあ、けいやくのほうにするよ」
『わかりました。それではマスター、この魔法陣を描いてください』
『私』は、導盟契約の魔法陣を表示してマスターに見せた。
「えっ!これをかくの!?」
『そうです。やっぱり複雑過ぎますか?』
まあ、魔法陣の大半が複雑になってますけど。下手に誤作動すると危ないので、どうしても安全装置が多くなるんですよねぇ。
「ギィ」
『私』とマスターが話ていると、インテラント達の一体が近づいて来た。
そして、『私』を覗き込んできた。
「ギィ」
「えっ!ほんとう」
「ギィ」
「じゃあ、おねがいしてもいい?」
「ギィ!」
インテラントは、腕の一つを胸にどんっとした。
任せろと言っているようだ。
インテラントは、『私』を見ながら地面に導盟契約の魔法陣を描いていった。
そのインテラントは、リッチよりは遅いが、それでもかなりの速さで魔法陣を完成させた。
「ギィ!」
「うん!ありがとう。あんさらー、これでいい?」
『ちょっと待ってください』
『私』は、完成した魔法陣の内容を確認した。
『ええ、問題ありません。それではマスター。それとインテラントの代表者は、魔法陣の中に立ってください』
「わかった。いこ!」
「ギィ!」
マスターは、魔法陣を描いたインテラントと手を繋ぎながら魔法陣の中に足を踏み入れた。
「たったよ、あんさらー!」
「ギィ!」
そして、魔法陣の中心に立ってそう言ってきた。
『わかりました。それではいきますよ』
「うん!」
「ギィ!」
『《違う場所、異なる時、別の星の下で生まれし種族の者達。今、彼の者達の魂を結び、彼の者達の友とも何者にも断ち切れぬ絆をむすぶ。互いを心友とし、不変なる約束を互いに胸に刻み、破られることなき導盟とす。導盟契約!》』
『私』が契約の終止を告げると、魔法陣の中にいるマスターとインテラントとの間で魔力が結びつき、やがてガーデンスライムとの心結契約の時と同じように、マスター達の胸のあたりに紋章が浮かび上がってきた。
マスターに浮かび上がってきた紋章は、複数の蟻がピラミッド型に配置されたような形をしていた。
インテラントの方には、ガーデンスライムの体表に浮かんでいるのと同じ、上側には羽ばたく朱い鳥。下側には、咆哮する灰色のバジリスク。そして中心には、黒い文字盤と三本の針が描かれていた。
そして、マスター達の紋章が刻まれた後に、その紋章からさらに魔力が伸びて、マスターはガーデンスライムに、インテラントは他のインテラント達に、それぞれ繋がっていった。
『契約完了です。気分はどうですか、マスター?』
「うーんと、だいじょうぶかな」
『そうですか』
まあ、問題はあまりない術式を採用していますからね。それにしても、マスターの契約もこれで二回目ですか。アルケミィーソーンとも契約するのなら、マスターはこの短期間で三つも契約するということですか。何と言うか、ペースが早過ぎる気がしますね。
「ねぇ、あんさらー。これならみんなでいってもいい?」
『ええ、大丈夫ですよ』
「やった~!それじゃあ、みんなでいこう!」
「ピィ!」
「「「ギィ!」」」
マスターに応えて、全員がアルケミィーソーンを目指して移動を開始した。
『さて、私も行きましょう』
『私』も、そんなマスター達の後を追いかけて行った。




