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ドレインソーンと凍てつく視線

「『こうのうのしせん・アップス』!」


マスターが宣言すると、マスターの瞳から白銀の光が零れた。


『私』は、その光景を確認して意識をマスターからドレインソーンに移した。


移した先にいたドレインソーンの周囲には、先程マスターが手の平から出していた、白い靄が纏わり付いていた。


茨に纏わり付く靄はどんどん広がり、最初はせいぜい茨を少し隠す程度だったのに、今では茨を一本覆い隠すほどになっている。


そして、その靄は延々と広がり続けていた。


ドレインソーンの茨は、靄が触れた端から動きが鈍くなっていった。


ドォォォン!!


靄の進行が進むと、他の木に巻き付いていた茨達も力無く地面に落ちていった。

ピィキ、ピキピキ


やがて、靄に包まれた茨の表面に霜がおり、茨が凍りはじめた。


少しずつ、少しずつ。けれど着実に、ドレインソーンの凍っている場所が増えていった。


やがて、ドレインソーンは完全に沈黙した。


そうなってからも、『私』はしばらくの間マスターの魔眼の使用をとめなかった。


なにせ『効能の視線・アップス』の効果はあくまでも冷却。直接の殺傷能力を持っているわけでは無い。それに、ドレインソーンはかなり生命力の強い戦闘植物。全身を凍らせても、せいぜい冬眠状態にさせるのがやっと。その上、今回はマスターの初めての実戦。『効能の視線・アップス』の効能物質を、どれくらいの間維持出来るかわからないいじょう、時間をかけておくにかぎります。そうすれば魔眼を停止しても、冷気が残っているうちにドレインソーンに触って、使役を完了出来るでしょう。


ですが、ここまで上手くいくとは、思ってもみませんでしたね。


てっきり、効果が中途半端になると思っていましたのに。一発で成功させるとは、マスターはすごいです。


『やりましたね、マスター』


「うん」


『まさか、たった一度の発動でドレインソーンを覆い尽くせるとは思ってもみませんでした』


「うん。そう、だね」


『おや?』


魔眼は成功しているのに、マスターの歯切れが微妙に悪かった。表情も、なぜか気まずそうだ。


『魔眼は成功しているのに、浮かない顔をしていますが、どうかしたのですか?』


「うんっとね。そのぉ~・・・」


『?いったいどうしたというのですか、マスター』


『私』は、そのマスターの様子に疑問を深めた。


「そのぉ。あれって、まがんだけでやってるんじゃないんだ」


『魔眼だけじゃない?』


「うん。ひょうせつせいせいと、そうさもいっしょにやってるの」


『魔眼と氷雪系スキルを同時発動しているのですか?!』


『私』は、マスターのその言葉に驚いた。


「うん。その、ごめんなさい」


『なんで謝るのですか?』


『私』には、マスターが謝る理由がわからなかった。


「だって、まがんだけだと、うまくできなかったんだもん」


『なんだ、そんなことですか』


「おこってないの、あんさらー」


『怒る?なぜそんなふうに思ったのです?』


「だって、あんさらーにいわれたようにできなかったから」


マスターは、頭をうつまかせてしょんぼりしながらそう言ってきた。


『そんなことは気にしなくてもいいのですよマスター。まだ一回目なんですから。それよりも、スキルの多重発動を出来たことの方が私には驚きでした』


「そうなの?」


『ええ。能力の多重発動は、かなり難しいんです。それなのに、たった一回の発動でマスターは成功させた。これはかなりすごいことですよ!』


「えへへ♪ほめられた?」


『ええ、褒めましたよ。けれど、いったいどうやって多重発動なんてさせたんですか?』


『私』は、その点がひどく疑問だった。


「うーんとね。まがんでキラキラをしろくしてたんだけど、とちゅうからあまりひろがらなくなったの。それでどうしようかかんがえて、さっきやったひょうせつせいせいのことをおもいだしたの」


『魔眼発動中に氷雪生成のことを思い出して、それでどうしたんですか?』


「こう、キラキラをへんかさせるとき、ひょうせつせいせいでかきごおりとか、ゆきダルマをつくろうとしたときのかんじでいじってみたの」


『ああ。先程実際にやってみた、氷雪系スキルの効果を魔眼に反映したのですか。たしかに、系統が同じ能力なら多重発動も成功しやすいですからね』


それなら納得です。でも、それは多重発動というよりは、合成か派生能力に当たりますね。


《アスティア=ドライトのスキル合成を確認。魔眼と氷雪生成の合成により、氷結の視線を修得》


『私』がそう思ったちょうどその時、世界から『私』の考えを肯定する声が聞こえてきた。


『ふむ。マスター、新しい能力の修得おめでとうございます』


「あたらしスキル?」


『ええ。今度からは、今した多重発動を氷結の視線と、名称を宣言すればいつでも使用可能になりましたよ』


「わーい、やったー!ぼく、つよくなった?」


『ええ。スキルが増えて、強くなりましたよ。けれど、どんな能力も使いこなせなければ意味がありません。ちゃんと練習しましょうね』


「うん!れんしゅう、がんばる!いっぱいれんしゅうして、おとうさんたちみたいに、もっとつよくなる!」


『その意気ですよマスター』


「うん!」


『さて、マスターが新しいスキルを得たところで、そろそろメインイベントの時間です。ドレインソーンの核のところに行きましょう』


「わかった!」


マスターと『私』、ガーデンスライムの三人は、ドレインソーンの形成している繭に向かって歩き出した。


地面に折り重なっている茨を一つ一つ越えて、少しずつではあるが、着実にドレインソーンの中心に近ずいて行った。


「う~、つめたい」


マスターは、茨を乗り越える為に、霜のおりた茨に触るとそうもらした。


それも当然ですね。実際のところ、ドレインソーンの周囲の気温は、マスターが効能再現で冷気に耐性が無かったら、普通に凍死するレベルですから。やはり、環境耐性がつくスキルというのは、とても便利ですね。凍死レベルの寒さが、冷たいで済むのですから。これは必ず、、他の耐性も獲得しなくてはいけません。


そういえば、ドレインソーンの果実の効能って、何でしたっけ?さっきは、由来や能力を調べただけで、果実の効能までは気にしていませんでしたからね。やっぱり、吸収などでしょうか?それとも、生命力や魔力を貯める性質があることを考えると、貯蔵とかそのての効能である可能性もありますか?


予想はその後もいくつか思い浮かびましたが、ここはあえて調べずに、食べてからのお楽しみにするとしましょう。


『私』がそんなことを思っているうちに、マスター達はドレインソーンの核のある場所。繭の目の前にたどり着いた。


「うわー、おっきいねぇー」


「ピィ」


『たしかに大きいですね。というか大きすぎるような?』


間近で見た繭は、マスターの言うとおり、かなり大きかった。


地面より上の部分だけでも、軽く十メートルは越えているように見える。けれど、アースターの記録にある繭の最大サイズは、せいぜい五メートル程度。倍以上のサイズである。


この階層にある植物の生息世界はかなりバラバラであるからして、ドレインソーンと相性のいい植物でも混じっていたのだろうか?他に、ドレインソーンが巨大化した原因が思いつかなかった。


いえ、待ってください。後二つほど可能性の候補はありますね。


一つ目は、エトガルが配置しているはずのこのフロアのモンスター。


二つ目は、エトガルに斥候を命じた出所不明の謎植物。


そのどちらかのせいで、ドレインソーンが巨大化した可能性は捨てきれませんね。


ズズ ズズズズ


『私』が可能性を検討していると、何かを引きずるような音が聞こえて来た。


「なに、このおと?」


「ピィ?」


『さあ、何でしょうね?何かを引きずるような、あるいは何かが這っているような音ですね』


「たしかに、そんなかんじがするね」


『私』達三人は、音の正体を探して、あっちこちをキョロキョロ見回した。


そして、ある一点で三人の視線が交差した。



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