ドレインソーンと魔眼
『ではマスター。そこに立ってください』
「ここ?」
『ええ、そこです』
マスターは、『私』が指示した場所に移動した。
そこは、ドレインソーンからだいたい五十メートル程離れた、大きな岩の陰にあたる場所。
マスターは、その岩陰に身を潜めた。
「ねぇ、あんさらー」
『なんですか、マスター?』
「こんなにちかづいて、ほんとうにだいじょうぶなの?」
『大丈夫です。ドレインソーンに、視覚なんてありませんから』
「しかくがない?じゃあ、いったいどうやってまわりをみてるの?」
『それは簡単です。ドレインソーンは、見ているのでは無く、感じているのです』
「かんじる?」
『ええ。ドレインソーンは、生物から放たれている生命力や魔力の波動を感じとることによって、獲物の位置を把握します』
「けど、それならここじゃああぶなくない?」
『マスター以外なら、たいていの生物は危険ですね』
「たいてい?ぜんぶじゃなくて?」
『ええ。生物なら誰彼かまわず襲っていそうなドレインソーンですが、先程言った苦手属性の魔力の波動を放つ者には、一切茨を伸ばしません。だから、火属性を持っているマスターは、この辺りにいても襲われる心配はありませんよ』
「そっかー。よかった」
というか、ドレインソーンにその性質が無かったら、こんな指示はとてもではないですけど、出せませんよ。
『それではマスター。そろそろ魔眼を使ってみましょうか』
「うん!」
『魔眼の発動方法としては、スキルの時のように名前で発動する方法や、魔力を目に集中させて発動させる方法、創作魔法による方法があります』
「どれをやってみればいい?」
『一つ一つ、試していきましょう。どれも一長一短は、ありますから』
「わかった。じゃあ、さいしょはどれにする?」
『そうですねぇ?それでは、名前で発動する方法からやってみましょう』
「わかった。ええと、『まがん』」
マスターがそうアビリティー名を宣言すると、マスターの目に変化が起こった。
銀色だった瞳が、金色に変わった。その上瞳孔が縦になり、爬虫類やドラゴンの目になった。
魔眼の発動は、問題無く成功しましたね。
『マスター、魔眼は無事に発動したようですが、マスターとしては今どんな感じがしますか?』
「うーんとね。なんだか、まわりがぜんぶキラキラしてみえる」
『キラキラですか?』
「うん。あっちもこっちもキラキラで、めがチカチカする」
『おそらくですが、そのキラキラしているのが、魔眼で干渉出来る魔力でしょう』
「そうなの、かなぁ?」
『試しに、そのキラキラに意識を集中させてみてください』
「うん!やってみる!」
そう言うとマスターは、虚空のある一点を見つめはじめた。
それから少しの間、マスターは虚空を見つめ続けた。ただし、視線の方は若干揺れはじめた。
「う~」
そして、その後マスターの口からうめき声がもれた。
『どうでしたか、マスター?』
「うーんと、キラキラをうごかすことはできたよ。ただ・・・」
『ただ?何か問題でも?』
「うん。ためしに、キラキラをひとつにまとめようとしたんだけど、めをはなすとすぐにバラバラになっちゃうんだ」
『状態を維持出来ないということですか?』
「そう、かな?」
『やはり、魔眼の発動はともかく、維持にかんしては難がありますか』
「どういうこと?」
『名称で発動する方法は、その名称を宣言すると、大部分の能力発動処理を勝手にやってくれるんです。ですがその反面、名称発動に馴れてしまうと、名称抜きの操作が難しくなるんですよ』
「へーそうなんだ。じゃあ、これってふつうなんだね?」
『ええ。オートよりも、マニュアルの方が難しいというだけです。練習をすれば、マニュアルの方でも状態を維持出来るようになりますよ』
「そっか~。じゃあ、いっぱいれんしゅうしよ!」
『その意気ですマスター。では、その意気ごみでドレインソーンに、『効能の視線』を使ってみてください』
「うん!いくぞぉー!」
マスターは、視線を虚空からドレインソーンに向けた。
「『効能の視線』!」
マスターは、ドレインソーンに視線を向けながら、大きな声でスキル名を宣言した。
しかし、何も起こらなかった。
「あれ?なんで、キラキラがうごかないの?」
『それはまあ、当然ですよマスター』
「どういうこと、あんさらー?」
マスターは、首を傾げた。
『簡単なことです。効能の視線は、視覚範囲の魔力を、効能再現で再現された効能効果を発揮する物質に変化させる魔眼スキルです。ですので、効能再現をしたことの無いいじょう、発動するわけがありません。それに、効能の視線はバリエーションが豊富なので、発動する時にはスキル名に加えて、再現した効能名も一緒に宣言しないと、変化する効能はランダムになりますよ』
「へー、そうなっているんだ。けっこう、めんどうだね」
『能力なんてそんなものですよ。とりあえず、今からアップスの果実の効能を再現してみましょうか』
「わかった。のうりょくめいを、いえばいいのかな?」
『いえ。それに加えてアップスという単語もつけてください』
「わかった。『こうのうさいげん・アップス』!」
マスターがそう言うと、マスターの手から白い靄のようなものが溢れ出て来た。
「わっ!つめたい。なにこれ?」
『それがアップスの果実の中身。アップスの冷却の効能物質です』
「へー、たしかにつめたいや」
《氷雪生成・氷雪操作修得》
『私』達が話ていると、世界からそう告げられた。
「いまのって」
マスターは、あちこち視線をさ迷わせた。
『ええ。世界の声ですね。どうやら、効能再現の結果新しい能力を得たみたいです』
「やったー!なにができるようになったのかな?」
『氷雪生成・操作ですから、魔力を雪や氷に変換して操る能力ですね』
「へー。じゃあ、かきごおりとか、ゆきダルマとかもつくれるようになるの?」
『まあ、手間隙をおしまなければ可能ですよ』
「よーし!それじゃあさっそく、『ひょうせつせいせい』!」
マスターは、手を自身の正面に突き出しながら、能力名を宣言した。
すると、マスターの手の平から再び白い靄が溢れ出した。それはだんだんと寄り集まって、気体から固体に、靄から雪や氷になっていった。
もっとも、かき氷や雪ダルマにはならず、小さな氷の結晶と僅かな粉雪が生成されるに留まった。
「あれ?」
マスターがそうもらすと、生成された氷と雪はマスターの手の先から、地面に向かって落ちていった。
「えーと、しっぱい?」
マスターが地面に落ちた雪と氷を見ながらそう聞いてきた。
『いえ、成功ですよ』
「けど、イメージとなんかちがうよ?」
『どんなことでも、そんな簡単にはイメージ通りにはいきませんよ。ですが、一回目で僅かながらとはいえ成功したことは、とてもすごいことなんですよ。普通なら、最初はなかなか成功しないですからね。あとは、マスターの努力しだいです。経験を積めば、いづれはかき氷や雪ダルマも、一回の生成で作れるようになりますよ』
「そうかなぁ?」
『そうですよ』
「そっかー。じゃあ、いっぱいれんしゅうしよっと」
『頑張ってください、マスター』
「うん!」
『ですが、氷雪生成の練習する前に、そろそろドレインソーンの方に話を戻しましょう』
「あっ!そうだね。はやくまがんもやってみなくちゃ!」
『効能再現は上手くいっていますから、さっき言った点を守れば大丈夫ですよ』
「わかった!」
そう言ってマスターは、視線をドレインソーンに向けた。




