第一階層とドレインソーン
『私』は、マスター達のおやつタイムを眺めながら、この後の予定について考えを巡らせた。
『だいたいの果実は収穫しましたが、残りはどうしましょうか?』
マスターがいまだ収穫していない果実は、超危険や微妙な物ばかり。超危険なのは、わざわざリスクをおかす必要がないので、放置でもいいですし。微妙な物については、わざわざ収穫しなくてもいいような気もします。こう考えると、この辺りはマスターの好みの問題ですね。『私』は、危険度が判断基準ですが、マスターが興味を持つ物も中にはあるでしょうから。後でリストでも作成して、判断はマスターに任せろとしましょう。
最後は、正体不明の果実ですね。そういえば、あれからだいぶ経つのに、エトガルは帰って来ませんねぇ?どこまで行ったんでしょう?『私』がエトガルについて考えていると、おやつを食べていたマスターが突然キョロキョロと辺りを見回しだした。
『どうかしましたか、マスター?』
「あんさらー、そういえばエトガルはどうしたの?」
おや、エトガルの不在に気づかれましたか。
『エトガルですか?エトガルには、おつかい(斥候)に行ってもらいました』
「おつかい?」
『ええ。おつかい(斥候)です』
「おつかいって、なにをたのんだの?」
『このフロアの中に、エトガルが知らない物(正体不明の植物)があったので、それが何か見てくるように頼み(命じ)ました』
「ふう~ん。それって、いったいなんだろう?」
『それは、エトガルが帰って来たら聞きましょう』
「うん!そうだね」
『それはそうと、もうおやつはいいんですか、マスター?』
「うん!のこりは、かえってからおねいちゃんたちとたべる」
『そうですか。うん?おねいちゃん達と食べる?』
マスターが今さっき食べたような果実を?
「うん!おいしかったから、みんなでたべるんだ!」
『マスター。それはやめておいた方がいいですよ』
「なんで?」
『マスターには、亜空間臓器の効果で、果実の効能に耐性がありましたから問題は無かったのです。ですが、普通の人には耐性が無いので、ここの果実を食べるのは物理的に無理です』
さっきのような果実を、普通の人が食べようものなら、たいていの場合、悲惨なことになってしまいます。
「ええ~、そうなの?」
『ええ。だから、お姉さん達に果実をすすめるのはやめてくださいね』
「う~。・・・わかった」
ああ、マスターが落ち込んでしまいました。何かフォローをしないと。ええと?・・・そうだ!
『マスター』
「なに、あんさらー?」
『果実は、そのままなのが問題なだけですから、加工すればたぶん大丈夫ですよ』
さっきほど爆発した果実なども、中身を処置すれば大丈夫でしょう。
「かこう?」
マスターは、首を傾げた。
ああ。マスターに加工とか言っても、ピンときませんでしたか。
「そうですねぇ。料理すれば、と言い換えればわかりますか?」
「うん!それならわかった」
『そうですか。それはよかった』
「それであんさらー」
『何です、マスター?』
「どんなふうに、りょうりすればいいの?」
『料理のレシピは、検索すればすぐに出ますので、それを参考にすれば大丈夫ですよ』
「じゃあ、はやくけんさくしよ!」
『ここで出しも作れないので、レシピは向こうに帰ってからにしましょう、マスター』
「うーんと、そうだね。そうだ!おねいちゃんといっしょにつくろっと!」
『それがいいですよ』
マスターが一人で料理するのは、さすがに危ないですからね。
「うん!」
『それはそうとマスター』
「なに、あんさらー?」
『これからどうしますか?果実の収穫を続けますか?あるいはエトガルを探しにいきますか?それとも、そろそろこのフロアのボスを捜して、このフロアの攻略条件を聞きますか?』
「うーんとね。・・・ぜんぶしちゃおっか!」
『全部ですか?』
「うん!ぜんぶさがしものだから、みつけたじゅんにやっていけばいいとおもうんだ!」
『そう、ですね』
行き当たりばったりの気もしますが、マスターの言うこともわかりますね。
たしかに全部探しものですから、見つけた順に対処していくのが効率的ですね。
『それでは、まだ収穫していない果実のあるところから、順番に見て行きましょう』
「うん!」
その後『私』達は、再び果実の収穫を開始した。
最初は、微妙な効能の果実を収穫しに行った。これはとくに問題も無く無事に収穫出来た。まあ、微妙なのは効能であって、とくに危険な要素はなかったので、これは当然でしょう。問題は、次に行った危険度が高い果実の収穫です。
『私』達が向かった先には、先程まで収穫していた果樹とは、明らかに違う形状の木が生えていた。
見た目としては茨の塊。無数の刺が生えた太くて黒い蔓が、幾重にも絡まり合って、高さ十メートル近い繭、あるいはドームのような形を形成している。
さらには、その塊から幾つもの茨が外に向かって飛び出していた。ここまでなら、形状の変わった植物ですんだでしょう。けれど、目の前の植物はそれではすみませんでした。
なんと、飛び出している茨が触手のようにうごめき、辺りの植物に襲い掛かっているのです。
茨に巻き付かれた周囲の植物達は、栄養を吸い取られているようで、青々とした葉が次々と茶色い枯れ葉に変わっていきました。
『うわー』
「あんさらー、なに、あれ!?」
「ピィ!?」
『私』は、その光景に寒気を覚え。マスターとガーデンスライムにいたっては、驚愕で固まっていた。
『アレがこのフロアでも一、二を争う超危険植物。ドレインソーンです』
「ドレインソーン?」
『ええ、そうです』
『私』は、ドレインソーンの情報をマスターとガーデンスライムに見せた。
ドレインソーン
アースター世界の搾取ローズから派生した戦闘植物。自生した場所の周囲にある植物や生物を自身の茨で拘束し、刺を通じて拘束した対象の生命力・魔力などを搾り取る。搾り取った生命力・魔力などは、地下にあるドレインソーンの核に貯蔵される。そして、貯蔵された生命力・魔力などが一定値を越えると、さらに広範囲の栄養を搾取するために成長・形態変化を行い、移動を開始する。最低危険度Bランク。成長する毎に随時危険度が上昇。現在確認されている最高危険度は、SSSランク。最大被害規模は、シュプリ大陸四つ分に相当。発見しだい殲滅が必須の広域危険指定植物。
『以上です』
「いや、いや、あんさらー!いじょうですじゃないよ!」
「ピィ!ピピィ!」
マスターもガーデンスライムも、『私』の言葉にツッコンだ。
まあ、今の話を聞いて何も感じなかったら、いろいろとマズイでしょうし。正しい反応ですよね。
『大丈夫ですよマスター。マスター達の能力なら、ドレインソーンを倒すのはそんなに難しくないですから』
「そうなの?」
「ピィ?」
『ええ。それでは、今からその方法をお教えしますね』
「うん!」
「ピィ!」
二人の返事を聞いた『私』は、ドレインソーンの倒し方について話始めた。




