第一階層と森林ステージ
『私』達はエトガルに吸い込まれ、その後見知らぬ場所に出現した。
『着いたようですね』
「ここがそうなの?」
「ピィ?」
『そうだ。ここが、ダンジョンの第一階層にあたる場所だ』
『私』は、周囲の状況を確認した。
『森林ステージですか』
確認した結果、このフロアが森林ステージであることがわかった。
澄み渡った青い空、そこに漂う白い雲。その空に向かって、青々とした枝葉を伸ばす地上の数多の広葉樹の森。地面には、色とりどりの草花が生い茂っている。
どこからどう見ても森林ステージだった。
ただ、なんというか、森の植物達が少しおかしいような気がした。
具体的に言うと、全部食糧になるものばかりだったのだ。
広葉樹には全て熟れた果実が実っているし、地面の草花も軽く見た感じ、生で食べられそうなものしか生えていなかった。
これだと、森林ステージというよりも、果樹園や山菜取りの場所のようだ。
試練の場所としては、場違いな気がする。
『エトガル。このフロアは、何かおかしくないですか?』
『いや、特におかしな箇所は無いぞ』
『いえ、あるでしょうが!』
『何処がおかしいというのだ、アンサラー?』
『なんでこのフロアは、こんな果樹園みたいな感じになっているんですか!』
『なんだ、そんなことか』
『そんなことって、エトガル』
『なにが問題なのだ?お前の意見を考慮して、第一階層は今のようなフロアにしてるのだぞ?』
『どういうことですか?』
『どういうもなにも、言ったままだ。お前が望む通り、主に有利なステージをチョイスしたのだ』
『それは、ここが森林ステージの理由としてはわかります。ですが、森の植物が果樹園みたいな種類に偏っている理由は、なんですか?』
『主の成長の方向性を検討した結果だ』
『マスターの成長の方向性を検討した結果?』
『そうだ。我の本来の機能では、契約時に契約者のだいたいの成長余地を感覚的に把握する』
『私が知る限りでは、そうですね』
『が、今回はアンサラー。お前を挟んでの間接契約だった為、主の情報はお前から得た』
『それで?』
『お前から主の詳細なステータスを得て、その情報を参考にして主の効率の良い成長方法を検討した結果、植物関係の能力を強化していくのがいいと判断した』
『具体的には、どうするのですか?』
『主には、このフロアにある植物を、片っ端から自身の亜空間臓器の中にほうり込んでもらう』
『スキルの強化を優先させるということですか?』
『そうだ。主には、植物成長促進、状態異常耐性、効能再現、植物使役、使役の視線、効能の視線という植物関係のスキルが大量にある』
『ええ。そこにいるガーデンスライムとの心結契約で共有・派生した能力ですね』
マスターの足元にいるガーデンスライムに意識を向けながら言った。
『これらの能力は、植物を主の亜空間臓器内に取り込むことで、簡単に強化出来る』
『まあ、そうですね』
『だから、植物のバリエーションについては、お前の持つ情報を参考に、今の主でも取り込める植物をチョイスしていったら、こうなったのだ』
『ああ、かなりマスターに配慮してくれたのですね』
普段のエトガルからすると、よくそこまで気がまわりましたね。
『ふんっ!我としても、主が壊れるのは本望では無いのでな』
『それはそうでしょう。そんなことを考えていたのなら、永久封印ものですよ!』
『わかっている』
『まあ、このフロアの状況の理由はわかりました。あとは、このフロアを徘徊しているモンスターは、どんな奴らですか?』
『それは言えん!フロアにかんしては主に有利にした以上、モンスターについては妥協していないからな!』
『そうですか』
妥協していないと言い切りますか。というか、今のマスターとガーデンスライムを足したよりも少し強いモンスターって、いったいどんなのでしょうか?
『だがまあ、安心しろアンサラー。このフロアの植物を取り込み、工夫すれば問題無く倒せるモンスターだ』
『私としても、そうであることを祈っていますよ』
本当に、そうあってほしいですね。
『そういえば、このフロアのクリア条件って、戦闘以外は何にしているのですか?』
モンスターはこの際置いておいて、その辺りについてはどうしているんでしょう?
『クリア条件か。それは、モンスターの巣にいるボスに聞け。それも試練のうちだ』
『モンスターの巣?それでは、このフロアのモンスターは、巣を作るタイプなのですか?』
『その答えは、イエスだ』
『そう、ですか』
ということは、下手をするとモンスターの集団と戦うことになりそうですね。
『私』は、マスターに意識を向けた。
マスターはさっきから物珍しそうに、あっちこちを忙しなく見ている。
見たことの無い植物がたくさんあって、興味津々のようだ。
まあ、それも当然ですか。『私』がざっと見た感じでも、マスターのいた世界には自生していない植物がかなりありましたし。なにより、マスターにとっては初めての冒険ですからね。嬉しくてしかたがないのでしょう。
ただ、マスターのその様子を見て、集団どころか一対一の戦闘も出来るか怪しいと、『私』は思ったのは余談である。
マスターの試練過程が大丈夫かかなり不安になってくるが、『私』がバックアップすれば大丈夫だろう。というか、大丈夫にする!しないとマズイ。
『さて、主にアンサラー。ついでにそこのスライムも』
「なに?」
『なんです?』
「ピィ?」
『そろそろ試練を開始するぞ』
「うん!」
『主の同意は得た。それでは試練開始だ!』
エトガルがそう宣言した瞬間、周囲が動き出した。
先程までなかった、風の流れが生まれた。空に浮かぶ雲は流れ出し、大地の植物の葉はカサカサと音を鳴らした。
そして、『私』の認識出来る範囲に、いくつもの反応が見られた。
エトガルの開始宣言で、この階層が動き出し、モンスター達もポップ(出現)しだしたようだ。
『マスター、では行きましょうか』
「うん!」
「ピィ!」
「けど、さいしょはなにをすればいいの?」
『まずは、この階層を回って果実を集めましょう。攻略は、その後でいいでしょう』
「わかった!いこう!」
「ピィ!」
マスターは、ガーデンスライムに声をかけて森の中に向かって歩き出した。




