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潜影研究所とリッチ

『私』達が影に飲み込まれた先にあったのは、どこかの研究所といった雰囲気の空間だった。


十二畳程のスペースの個室で、部屋全体がどこかのダンジョンのような、ブロック状の何かで覆われている。


部屋の壁全体には、本棚が設置されていて、様々な装丁の本が隙間なく収納されている。そして、その収納されている本達からは、魔力が漏れていた。どうやら、ここの本達の大半が魔法書や魔導書のたぐいのようだ。まあ、リッチのコレクションなのだから、これが普通でしょう。


それから、部屋の真ん中には大きな机が置かれており、机の上とその周りには大量の紙束が積み重ねられていた。


『さて、アスティア、アンサラー、そして、お嬢さんにそこなスライムも、ようこそ儂の《潜影研究所》へ』


リッチは、『私』達を見ながら大きく腕を広げながらそう言った。


「ここはどこなの、私達は貴方の影に飲み込まれたはずなのに?」


『その認識で合っておる。ここは、儂の影使いとしての能力で影の中に作り出した、研究スペースじゃ』


「影の中に?そんなことが可能なの?」


『うむ。お嬢さんがいるこの空間こそが何よりの証拠じゃ』


「・・・」


お姉さんは、リッチの言葉が信じられないようで、無言で部屋の中を見回し出した。


まあ、しかたありませんね。この世界の魔法には、無いはずですから。


というよりも、このリッチの魔法は、ことごとくこの世界の常識からはずれています。まさかこのリッチは、世界転位者か、異世界転生者のたぐいなのでしょうか?


『リッチ』


『何じゃね、アンサラー?』


『あなたはひょっとして、世界転位者や異世界転生者と呼ばれる存在ですか?』


『私』の問い掛けに、リッチは無反応だった。


「せかいてんいしゃにいせかいてんせいしゃ?それってなんなのあんさらー?」


『世界転位者は、別名トリッパーと呼ばれる自分の世界から何かの理由で別の世界に移動した者達のことです』


「なにかのりゆうって、どんなの?」


『そうですねぇー。パターンとしては、世界の歪みに接触して飛ばされる。それか自分の世界又は、余所の世界にいる存在によって転送・召喚されるなどがポピュラーですね。変わっているのだと、偶発的な事故の結果、トリッパーの存在が不安定になってしまい、別の世界の秩序に引っ張られて世界を越える例もあります』


「へえー、そうなんだ。それじゃあ、もうひとつのほうはどんなの?」


『もう一方の異世界転生者は、魂が別の世界に渡って、その世界で生まれ変わった存在のことを言います』


「それって、めずらしいの?」


『いえ、無数の世界の中では、魂のやり取りをしている世界も少なくはないので、そこまでめずらしくはありません。ただ・・・』


「ただ?」


『ただ極稀にですが、前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまう存在がいます』


「きおくを?」


『そうです。一般的には、その記憶を持って生まれ変わった存在のことを異世界転生者と言います』


「ふうーん、そうなんだ。・・・そういえばあんさらー」


『何ですかマスター?』


「なんであんさらーは、リッチのおじいちゃんにそんなことをきいたの?」


『それは儂も知りたいのう。何故アンサラーは、儂がそのような存在だと思ったのだね?』


マスターが『私』に質問すると、リッチも疑問を投げかけて来た。


『リッチ、あなたの魔法を見てその可能性が浮かびました』


『どういうことじゃね?』


『先程言った、世界転位者と異世界転生者には、ある特徴があります』


『特徴?それはいったい何じゃ?』


『その特徴とは、元の世界の常識や知識、技術、概念で今いる世界に高確率で影響を与えることです』


『何故そんな特徴が?・・・ああ、そういうことじゃな!』


『私』の言葉を聞いたリッチは、最初に疑問を口にしたが、少し間を空けて納得の言葉をあげた。


さすがはリッチ、頭が回りますね。


『おそらくですが、あなたの思い到った考えで正解です』


「どういうこと?」


『つまりじゃなぁ。異世界の者達は、外部刺激なのじゃよ』


「がいぶしげき?それってなんなの?」


『外部刺激というのは、そのままです。ある一定のものを一つのものとして扱う場合、それには内側と外側という概念が適応出来ます。つまり外部刺激というのは、そのものの外側からものに加えられる刺激のことです』


『そして、今の話にそれを当て嵌めると以下のようになる』


『ものは世界。外部刺激は、世界転位者と異世界転生者になります』


「それのどこがしげきなの?」


『先程アンサラーが言っておったが、常識や知識、技術、概念といったその世界に無いものは、全て刺激となりえるのじゃよアスティア』


「そうなの、アンサラー?」


『ええ、リッチの言っていることは事実ですよ、マスター。異世界のものは、別の世界においてはなにものにも勝る刺激なんです』


「ふうーん、ぐたいてきには?」


『そうですねぇ?例えば、先程リッチがそうではないかと思った原因である、魔法とかでしょうか』


「まほう?」


『そうです。この世界の魔法は、火・水・風・地・光・闇の六属性を基本として発展しています。その為、基本的に先程リッチが使用していた発動点指定型魔法陣や氷属性、この影空間などはこの世界の魔法体系には存在しないはずです』


『まあ、世の中には知られておらんのう』


リッチが『私』の言葉を肯定した。


『通常、文明の発展には、天才や変人と呼ばれる者達の活躍が必要不可欠です。なぜなら、その時代の常識を越えなければ発展など出来ないからです』


「そうなの?」


『そうじゃのう。人は安全や安定を求めるものじゃ。たとえそれが停滞に繋がるのだとしてもじゃ。いつの時代も、常識を覆すのは天才や変人と呼ばれる者達じゃった。天才や変人がきっかけを作り、その作られたきっかけを世界が認めた先にいつも発展があった』


リッチは、実感の篭った声音でそう断言した。


『そしてまた天才や変人達は、そのきっかけを世に送り出す為に、多大な苦労と苦痛、周囲の世界の善意や悪意を受けることになります』


「なんで?」


『その者達の行動が、その世界のその時代の常識に戦いを挑んだものだからじゃ』


「じょうしき」


『そうです。きっかけが簡単に生まれることなどそうそうありえません。その為、天才や変人達は自分の疑問を確信に変えた上で、それを検証して周囲に証明しなくてはなりません。しかし、それは常識。こうなることが普通だ。こうしていれば大丈夫だ。といったことと対立することが大半なのです。それゆえに、途中で挫折する者が大半です』


「へえー、そうなんだ!」


『話を戻しますが、世界転位者や異世界転生者達は、自分の世界のそんな天才、変人達の成果を行った先の世界で活用するわけです。なので、過程を飛ばされた技術や概念が出て来た場合は、高確率で世界転位者や異世界転生者が発信源です』


「なるほど~」


『それで、あなたはそのどちらかなのですか、リッチ?』


『いや、儂は前世の記憶などないし、育ちもこの世界じゃ』


『そうですか。では、先程の魔法は全てあなたが生み出したのですか?』


リッチの答えに、『私』は別の可能性についても確認した。


『魔法を生み出したのは儂じゃ。ただ、魔法の基礎概念の出所については、アンサラーの考えているとうりじゃ』


『やはりそうですか。あなたの知己の中に、世界転位者か異世界転生者がいるのですね』


『ああ、そうじゃ。あやつの漏らした言葉を参考にして、儂はいくつもの魔法を構築した』


『それはどなたですか?』


『それは言えん。じゃが、ヒントはいいじゃろう』


『ヒント?』


『ヒントは、この国自体じゃ。まあ、まだ存命のはずじゃから、探してみると良い』


『そうですか。それでは後ほど調べて見ましょう』


『さて、そろそろ影を繋げようかのう』


「ええ、お願い」


お姉さんが頼むと、リッチは杖を一降りした。すると、部屋の中に扉が出現した。


『その扉の先が対象の影に繋がっておる』


「わかったわ。それじゃあ、アストのことはお願いね」


『わかっておる。それと、そちらが危険じゃと判断したら介入するからの』


「わかったわ。それじゃあ、いってきます」


「いってらっしゃーい、おねいちゃん」


マスターが手を振るなか、お姉さんは扉をくぐってこの空間を後にした。

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