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設定と出会い

さあ、物語を綴り始めよう。

まず最初にこの物語の舞台となる世界の説明から始めようか。

物語の舞台となる世界の名前はコスモス。地球に酷似した環境を持つ世界だ。ただし、酷似と言ったように全てが地球と同じではない。

明確に違うのは以下の二点。


一点目は、魔力と呼ばれる力が存在し、魔法が存在すること。


二点目は、そんな魔力と魔法によって、進化・発展を遂げた多種多様な種族・文化が存在すること。


他にも差異は存在するが、だいたいはこの二点が明確な違いだ。


さて、次にこの物語の主人公の住む大地を紹介しよう。


この世界には、コスモスの花の形をした大陸が一つだけ海の上に存在しており、その他には大陸は存在しない。


そして、その大陸はこの世界の住人達から、シュプリと呼ばれている。


このシュプリ大陸には、花びらの部分に先程言った魔力・魔法によって進化・発展した様々な種族達が暮らしている。

ただ、この種族達の仲は非常に悪いことが多かった。なぜなら、種族毎の外見も能力も文化も、なにより価値観も違っていたからだ。その為、それぞれの種族がそれぞれの理由で、大陸のどこかで必ず戦争をしている状況がこの大陸の基本だった。


だが、それも今は昔の話だ。


それは何故か?簡単なことだ、それを良しとしない者がこの世界にいたからだ。

それはこの世界の創造神だった。神は争い続ける世界を嘆き悲しみ、世界に平和をもたらす為に一人の御使いを地上に送った。

金髪碧眼、光の翼を持ったその御使いは『勇者』を名乗り、それぞれの種族の戦いに介入した。その結果、大陸に蔓延していた数多の争いは鎮まっていった。

戦いが鎮まった後、御使いは各種族から争いを望まぬ者達を選び、その者達を集めてシュプリ大陸の中央、かつてもっとも多くの血を流した激戦区の跡地に一つの国を興した。

そして、その御使いはその国の初代の王となった。のちにその御使いは民から親愛と尊敬と忠誠をこめて、こう呼ばれるようになった。『調和の勇者王』と。

その御使いが建国した国の名前は『ピュシス共生王国』。

そのピュシス共生王国こそが、この物語の主人公たる少年の住まう国である。


ピュシス共生王国は、王都を中心に国が形づくられており、円形の形をした国となっている。

そして、この国の各種族の住み分けは、建国時には各種族毎に集落を形成していたが、建国時から大分時が経過した現在は、各種族毎の小さな集落と、種族関係なく住まう大きな街や都市の組み合わせとなっている。


次に、この国の民の構成を紹介しよう。

この国に住んでいる住人でもっともおおいのは、ヒューマン、ビースト、ゴブリン等の繁殖力が強く、寿命が比較的短い種族達だ。

次に多いのは、魔物や魔獣、幻獣が年月を経て人型に近い姿を得た魔人・幻人と呼ばれる者達。


最後に、エルフやドワーフといった者達と、ドラゴンやフェニックスといった幻獣・神獣達のように繁殖力が弱く、寿命が長い、あるいは無い者達が続く。


そしてこの国には、先程言った種族の他に、第二・第三世代と呼ばれる特殊な者達も存在している。


この第二・第三世代と言うのは、はっきりと言ってしまうとハーフやクオータ等の混血児達のことだ。


混血児と言っても、通常は片方の親の姿または、祖父母の姿・能力にもう片方の能力や特性がある程度反映されるだけで、基本的には前述の種族達と差異はあまり無い。ただ、極稀に二つないしはそれ以上の種族の姿・能力・特性を合わせ持った、新しい種族と呼べる者達が生まれることがある。


それらの種族を、この国では『ジェネレーション』と呼んでいる。


混血児は、他の国では混じり者などと呼ばれ忌避され、差別の対象となっているが、この国では平和の証、種族の懸け橋、調和の象徴と呼ばれて普通に受け入れられている。


さて、そろそろこの物語の主人公を紹介しに行こう。


シュプリ大陸、ピュシス共生王国の南部にある交易都市『ハルモニア』それがこの物語の主人公が住まう都市だ。


その都市を囲む、高さ二十メートル前後の外壁の四方に設けられた四つの門。その門の一つ、東側の門の近くにある煉瓦作りの二階建ての家が、この物語の主人公の家だ。


さて、家の中に目を向けてみよう。


家の一階、西側の部屋の中に大きな本を持った一人の幼い子供がいた。


この幼い子供こそがこの物語の主人公だ。見た目の年の頃はだいたい五才くらいだろうか?紫がかった夜色の髪に、本の文字を目まぐるし追いかけて動いている銀色の瞳。ふっくらとした朱い頬っぺたがかわいらしい幼子だ。ちなみに、よく女の子に間違えられるらしいが、れっきとした男の子である。


彼は、一抱えはあるだろう本を床に置いて、黙々と本を読んでいる。

しばらくして、本を読み終わったらしく、彼は本を閉じた。


そして、置いてあった本を抱えて、部屋の隅にある本棚に向かって歩き出した。

が、やっぱり本が重いのか、ふらついている。


心配だったが、ふらつきながらも彼は本棚に無事たどり着いた。


彼の目の前にある本棚には、上の方に持っている本が入りそうな隙間がある。どうやら、今持っている本はそこから取って来た物らしい。だが、この子は隙間に本を戻せるのだろうか?


そう考えていたら彼は、持っていた本を本棚の下の段にある隙間に押し込んだ。

やっぱり本が重いらしく、棚の上の段には戻せなかったようだ。しかし、それでよかった。手の届くか届かないか微妙な段に無理に戻そうとしていたら、下手をすると本を落として、頭をぶつけていただろうから。


本を戻した彼は、本棚にある他の本に視線を向けた。

次に読む本を選んでいるようだ。

彼は、視線を本棚のあっちこちにさ迷わせていたが、不意に視線がある一点で止まった。

彼の視線の先には、白い本があった。

彼はその本を本棚から抜き取り、手に持った。

だが、すぐに彼は首を傾げた。


それは当然の反応だろうと『私』でも思った。

なぜなら、彼の手にした本にはタイトルがなく、それどころか表紙も真っ白で、とてもではないがそれは本と呼んでよいのか微妙だろうと『私』も思った。

これが普通の本ならば、先程彼が読んでいた本のように、その本が何について書かれているのかを表す『タイトル』、本を書いた作家の『著者名』、読者を引き寄せる『表紙』、または『装丁』がなされているだろう。

しかし、この本にはそのどれもがなく、ただ白い本の形状をした何かだったのだから。

そして、この本を見つけたのが彼ではなく、彼の両親のような大人であったのならば、さらに違和感を覚えたことだろう。それは何故か?それは、その本が本来ならありえない純白であり、またあまりにも画一化された本の形状をしていることが理由として挙がるだろう。

何故純白がありえないのか?それは、いたってシンプルな理由だ。この世界には本をコーティングするような技術が存在しない上に、本の作成・移送・売買の全てが人の手をかいするからである。つまり、この世界の本は基本的に日に焼けるし、本を手掛けた作者・本を移送する運び屋・本を売買する商人・本を購入し、この本棚に納めた人物と、かなりの人をかいする結果、紙のよれや曲がり、紙の変色等が起きることが普通だからだ。

それゆえに、この本が異常なことはこの世界の大人の目にはすぐにわかるのである。

もっとも、それがわかる大人がこの場にいない以上、彼がこのことを今知ることは出来ないのが現実なのだが、だがそれは『私』にとっても、彼にとっても、あるいはこの世界の全ての者達にとっても僥倖だったのだから。


何故ならば、この出会いが無ければこの世界は、『私』の知るままに確実に滅びるのだから。


『私』は、今も本を持って首を傾げる彼に声をかけることにした。『私』の存在意義を果たす為に。


『坊や』


『私』が彼に語りかけると、彼は驚いたようで、キョロキョロと自分の周囲を見回しだした。

けれど、『私』を見つけられなかった彼は首を傾げて、視線を持っていた本に戻した。

だがそれでかまわない。何故ならば、彼が持っている本こそが『私』なのだから。『私』を見ている彼に、『私』は再び語りかけた。


『坊や』


「だあれ?だれかいるの?」


彼はそう言って、さっきのように自分の周りをキョロキョロと確認しだした。


『ええ、いますよ』


「どこにいるの?」


『私は、貴方の手の中にいますよ』


「ぼくのてのなか?」


彼は、『私』に戸惑った視線を向けた。


「きみは、このごほんなの?」


『そうです。私は、今あなたが持っている純白の本です』


「わあ、おしゃべりできるごほんなんだ!」


『それは少し違います』


「え!ぼく、ちゃんとおしゃべりしてるよ?」


『たしかにあなたと私はおしゃべりしていますが、私がしているのは念話なので、少し違います』


「ねんわって、なあに?」


『念話と言うのは、声帯を震わせる言葉ではなく、心でお話することです』


「こころでおはなし???」


彼は、首を左右に傾げて?マークを量産し始めた。

小さな子供には、難しかったようだ。気を取り直そう。


『坊や、私の言ったことは気にしないで下さい。ただ、どんな方法であれ、私はあなたとお話できます』


「うん♪よくわかんないからぼく、いまのはわすれるね。ねぇねぇそれよりも、ごほんのおなまえおしえてよ。ごほんがしろくて、おなまえがわからないんだ」


『かまいませんよ。ですがその前に、あなたのお名前を私に教えていただけませんか?』


『私』の名前を教える為には、先に手続きを終わらせませんとね。


「ぼくのなまえ?・・・うん♪いいよ!ぼくのなまえはね、アスティアだよ!みんなからは、アストってよばれてるよ!」


彼は、元気よく私にそう名乗った。


『アスティア、アスト様ですね。お名前を認識・登録しました。これにより、アスト様が私のマスターとなりました』


『私』は、マスターの名前をすぐさま『私』に記述し、『私』を完全にマスターの所有物にした。


「ますたーって、なあに?それに、ごほんのおなまえは?」


マスターは、私の言葉が理解出来ずに、また首を傾げだした。


マスターが幼い以上しかたないですね。にしても。

『私』は、己の知覚の全てを使用して、マスターをあらゆる角度から見た。

肩にかかるほどの紫がかった夜色の髪。こっちを見てキラキラ輝いている銀色の瞳。つやつやの色白の肌。そして、『私』を持つプニプニのもみじ手。どこから見ても、とても可愛いらしいですね。『私』に記述されている内容としては知っていましたが、実物はやっぱり違いますね。


「ねぇ、ごほんのなまえは?」


おっと、いけないいけない、マスターがお待ちかねのようです。そろそろ最後の仕上げに取り掛かるとしましょう。


『お待たせしましたマスター。では改めて自己紹介をしますね。私の名前はアンサラー《応答する物》、あまねく知識と真理を内包するインテリジェンスブック《意思持つ本》です』


「あんさらー。それがきみのなまえなの?」


『そうですマスター』


「ねぇ、なんでさっきからぼくのことをますたーって呼ぶの?」


『それは、あなたが私の所有者《ご主人様》だからです』


「しょゆうしゃ?」


『私がマスターの本だと考えてくださればOKです』


「ぼくのほん?あはっ!ぼくの、ぼくだけのほんなのあんさらー!」

マスターは、嬉しそうに『私』に問い掛けた。笑うとさらに可愛いいですねマスター。


『そうです。私は、マスターだけの本です』


「わあーい!あんさらーはぼくの、ぼくだけのはじめてのほんなんだ!」


マスターは、『私』を持ったまま嬉しそうに部屋の中を駆け回りだした。


これほどまでに喜んでもらえるとは、『私』はマスターの本で本当によかった。そう思い、『私』はしばらく感慨にふけった。


『私』もマスターも、しばらくの間自分の感情に身を任せ、それからしばらくして、マスターはようやく感情が落ち着いたらしく、先程座っていた場所に戻り、話を再開することになった。


「ねぇ、あんさらー」


『何ですかマスター?』


「あんさらーは、どんなおはなしのほんなの?」


『私の内容ですか?』


「うん♪」


『私の内容は、マスターしだいですね』


「どういうこと?」


『私には様々な知識が記されています。ですが、マスターが読めるのは所有者登録時に選択した内容についてだけです。ですので、今マスターが知りたいと思うことを選択してください』


「ぼくのしりたいことかあ~。なにかあるかなあ?」


『選択は、一回切りなのでよく考えてくださいね』


「うん、わかった!」


そうしてマスターは、考えに没頭し始めた。


さて、マスターは何を知ろうとするか楽しみですね。願わくば、広範囲にかかる内容を選択をしてほしいです。その方が、よりマスターのお役に立てますし。


「あんさらー、きまったよ!」


『そうですか。それで、マスターはどんなことを知りたいのですか?』


「うん、あのね。せかいについてしりたいな」


『え!世界についてですか?』


何と言うか、かなり広範囲というか、『私』の全内容を閲覧出来るようなワードを選択しましたねマスターわ。


「うん。さいしょは、つよくなるほうほうとかにしようかとおもったりもしたんだけど、それよりも、つよくなってやりたいことについてしりたいとおもったんだ」


『強くなってやりたいこと?それは何ですかマスター?』


「うんとね。ぼく、ぼうけんしゃになりたいんだ」


『冒険者ですか?』


「うん!いったことのないところにいってみたり、みたことのないけしきをこのめでみてみたいんだ」


マスターは、目を輝かせながら『私』にそう言いました。


『そうですか。それならば、マスターの選択は当たりですね。それでは、マスターの選択した内容を登録をしますね』


「うん」


マスターの返事を聞いた『私』は、本のダウンロードを開始した。


『私』のダウンロード開始とともに、純白だった『私』の身体は夜色に染まり、書かれていなかったタイトルが浮かび上がってきた。


『私』に浮かび上がってきたタイトル名は、『世界大全集』。


こうして、『私』はこの日マスターの所有物たる『世界大全集』アンサラーとなったのである。

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