未来の危険と進行中の危険
あれから一時間。マスターとガーデンスライムは、飽きもせずにティエントの泉周辺で遊び続けていた。
マスターが楽しそうなので良いような気もしますが、相手がモンスターなのはやはり問題でしょうか?・・・たぶん、マスターは友達がスライムでも気にしませんね。あるいは、それはこの国の人間にとっては、共通の認識かもしれませんが。なにせ、この国には魔人なども普通にいますし、お兄さんのような竜人だって街中を普通に歩いているのだから。きっと、この国の住人にとっては敵意や害意がなければ、モンスターでもただの隣人なんでしょうね。
『私』は、マスターとガーデンスライムの二人を見ながらそんなことを思った。
そうしていたら、先程読んだガーデンスライムの記述について、気になる箇所があったことを思い出した。
そういえば、この世界のスライムを、今のガーデンスライムに変異させた存在がいるとか書かれていましたね。
手は空いているので、気になったその箇所について検索をかけてみた。
スィームルグ
カフカス世界原産の霊鳥。
全体的な姿は、鷹や鷲のような猛禽類に酷似し、足だけは犬の前足といった姿である。
そしてスィームルグは、天と地の双方を結び付ける霊格を有し、空間を自由自在に扱う能力を持つ。
それに加え、スィームルグには自身が巣とした樹木を、セーンムルウの樹と呼ばれる存在に変異させる能力を有す。
セーンムルウの樹は、スィームルグが朝目覚めると若枝を伸ばし、その枝にありとあらゆる世界の果実を実らせる。そして、夜スィームルグが眠りにつくと朝伸ばした枝を折、実った果実を大地に落とすという特殊な樹木である。
スィームルグの性格は基本的におとなしく、野に捨てられた他の生物の子供を拾って育てる、母性あふれる習性があることも確認されている。
ただし、前述のようにスィームルグの性質に危険性は皆無であるが、セーンムルウの樹については注意が必要。
(樹に注意が必要?どういうことでしょうか?)
セーンムルウの樹には、ありとあらゆる世界の果実が無差別・無作為に実る為、食虫・食獣・食人・食魔・食霊・食精・食星などの捕食される危険がある植物の果実も実る可能性有り。さらに、それが夜に落とされ、セーンムルウの樹の傍で繁殖した結果、樹の周囲が危険地帯になる例も確認されている。
(うわあー)
『私』は、その記述を見てげんなりした。
(つまり、ガーデンスライムの方の記述にあった、体表の植物の危険性というのは、これが原因というわけですか)
『私』は、ガーデンスライムの記述とスィームルグの記述を見比べて、そう判断した。
(うん?・・・たしか、ガーデンスライムは今も増殖中と記載されていましたね。ということは、・・・)
『私』は、その事実を認識してすぐに周囲を確認した。
マスターが遊んでいる相手が安全だとしても、他のガーデンスライムが安全だとは限らない。とゆうよりも、記述を見る限り、安全ではない可能性の方が高い。
その思いに突き動かされた『私』は、あっちらこちらをかなりの時間確認した。
結果としては、確認出来る範囲内には他にガーデンスライムは見当たらなかった。
(ふうー)
『私』は、とりあえず安堵した。
が、悠長にしている場合ではない。
ここにガーデンスライムが一体いる以上、いつ他のガーデンスライム達が来てもおかしくはない。
ガーデンスライムの性格的には、マスターの新しいお友達になりそうな気もしますが、体表の植物の種類によっては、マスターの命が危ない。
ここはマスターに頼んで、早めにファブルの森から離れた方がいいでしょう。
『マスター』
「なあに、あんさらー?」
『そろそろお姉さんと合流して帰りましょう』
「ええ~、もっとあそびたいよ」
ピィ、ピィ
ガーデンスライムの方もまだ遊びたいらしく、抗議の鳴き声を上げた。
『それなら、そのスライムも一緒に連れて帰って街で遊んでください』
「どうしてそんなに、いそいでかえりたいの、あんさらー?」
ピィ?
マスターとガーデンスライムは、揃って疑問を抱いたようだ。
ここは、すぐに頷いてほしかったんですけどね。
とりあえず、事情を説明するとしましょう。
『マスター。マスターが今遊んでいるそこのスライムは、ガーデンスライムというのですが、そのお仲間に問題がある可能性があります』
「もんだい?このこのなかまに?」
『そうです。ですから、早めにここから引き上げた方が良いかと』
「うーん、わかった。けどとりあえずは、おねいちゃんにきいてみるからすこしまってね」
そう言ってマスターは、ガーデンスライムを伴いお姉さんのもとに向かった。
「おねいちゃん」
「あらアスト、そんなに急いでどうかしたの?」
「うんとね。なんかあんさらーが、はやくもりからでたほうがいいっていってるの」
「あんさらー?たしか、その本のことよね。けど、言っている?・・・ああ、そういえばその本には何かあるらしいって、バリュクスも言ってたわね」
お姉さんは、マスターの言葉に『私』を見た。それから少し考え込んで、何かを思い出したらしく、そう口にした。
そういえば、帰ってからお兄さんは忙しかったので、まだ『私』の説明とかしていませんでした。しかし、お姉さんの口ぶりだと、お兄さんは『私』のことをお姉さんに伝えていたようですね。
『マスター』
「なに、あんさらー?」
『今から私が言うことをそのままお姉さんに伝えてください』
「わかった」
『では、・・・』
「うん、わかった。おねいちゃん、あんさらーがね・・・っていってるよ」
マスターは、『私』の言葉を全てお姉さんに伝えた。
内容としては、スィームルグの存在。後は、セーンムルウの樹とガーデンスライムの危険性について。
「そう、たしかにそれだとこの辺りは危険ね。もう私も薬草を採取しおわるから、急いで帰りましょ」
「わかった」
どうやら、『私』の話を信じてもらえたようですね。いえ、お姉さんとしては、『私』を信じているマスターを信じているだけですか?
「それでアスト、後ろの子を連れて帰るつもりなの?」
お姉さんは、マスターの足元にいるガーデンスライムを見ながらそう言った。
「うん!・・・だめ、かなあ?」
マスターは、元気よく答えた後に、上目ずかいでお姉さんにそう聞いた。
「う!・・・別にそういうわけじゃないのよ。けど、その子は仲間と離れてもいいのかと思ったの」
「そう、わかった。きいてみる!ねぇねぇ」
「ピィ?」
「ぼくといっしょに、もりのそとにいかない?」
「・・・ピィピィ!」
ガーデンスライムは、マスターの問い掛けにしばらく沈黙した後、元気よく身体を泡立たせ、肯定の意を示した。
「おねいちゃん、いっしょにいくって!」
マスターは、ガーデンスライムの返事を嬉しそうにお姉さんに伝えた。
「そう。なら問題はないわね。じゃあ早く帰るとしましょ」
「うん!」
「ピィ!」
お姉さんの言葉にマスターとガーデンスライムが返事をして、二人と一匹は森の出口に向かって歩き出した。
そして、来た道をたどり、ちょうど森の出口に差し掛かろうかという時に、遠くから何か大きな音がした。
チュド~ン! ドッカーン!
GYAAAAA!!
「・・・何かしら?」
「わかんないけど?」
「ピィ?」
『私』達は、音のした方に視線を向けた。
すると、ちょうど視線を向けた先で派手な火柱が上がってきたところだった。
「戦闘?というよりも、火柱?こんなところで?正気なの、こんな森の中で!」
たしかに、あまり正気だとは思えませんね。なんせ森は火気厳禁。小さな火種で下手すると火事になりますからね。
ですが、そのタブーを破らなければならない心当たりがあるのが、何とも言えない感じですね。
そんなことを思いながら、『私』はガーデンスライムの方に意識を向けた。
けれど、当然というか、ガーデンスライムはマスターと一緒に困惑した様子で立ち尽くしていた。




