あれからと予定
あの日から三日過ぎた。あの日、お兄さんが竜の姿で帰った結果、街でひと騒動あったが、そこは共生王国の交易都市、なんだかんだで慣れているらしく、すぐにギルドや都市にいた軍の介入によって平穏を取り戻した。
騒動がおさまった後、お兄さんはあの石像をギルドに提出し、ファブルの森の被害についても報告したそうだ。
『私』は、お眠なマスターと一緒に先に家に戻った為、その後冒険者ギルドや、都市がどういう姿勢を示したのかは知らない。
しかし、マスターの周囲は静かであり、今のところは気にしなくてもいいだろう。
もっとも、『私』としてもあの影については気になったので、あの日マスターと家に帰ってから、検索をかけてみた。しかし、該当する存在は見つからなかった。
『私』の検索に引っ掛からなかったあれは、いったい何なのだろう?世界に認識されていない、あるいは世界に認識されないようになっているのだろうか?
それとも、『私』に何か問題があるのか?
そんなことをこの三日の間考えたが、答えは出なかった。
「どうかしたの、あんさらー?」
『私』が物思いに耽っていると、マスターが心配そうに『私』に声をかけてきた。
『いえ、あの影のことを考えていただけです』
「そうなの?たしかに、あれがなにかよくわからないものね」
『そうなんです。私に記載されていないなんて、謎すぎます』
「うーん、ギルドのほうでなにかわかったら、たぶんおにいちゃんがおしえてくれるよ」
『そうですね。それに期待するとしましょう』
願わくば、変な能力や特徴が判明しませんように。
『私』は、切実にそう願った。
「そういえば、あんさらー」
『何ですか、マスター?』
「けっきょく、ぼくはひとか、だせないのかなぁ?」
『あー、マスター、まだ始めたばかりですから、もう少しいろいろ試してみましょう』
「うーん。・・・そうだね、まだまほうをつかいはじめて、みっかだものね」
『そのいきですよマスター』
「うん」
そう言ってマスターは、近くの本を手に取り読みはじめた。
まあ、マスターがそう思うのもしかたありませんね。難易度が高めの時属性の《思考加速》は問題無く発動するのに、何故それよりも簡単な火種の魔法が成功しないのでしょう?
魔力は十分あり、適性もある。根気もあれば、『私』という正しい魔法の知識もある。なのに成功しない。いったい、何が問題なんでしょう?
それともいっそのこと、魔法は後回しにして、アビリティーやスキルで火を扱えるようにした方が早いでしょうか?
・・・それはありかもしれませんね。直接火を扱うアビリティーやスキルではなくても、補助関係のアビリティーやスキルを一つ得るだけで、随分と状況は変わるはず。マスターに提案してみましょう。
『マスター』
「なに、あんさらー?」
マスターは、読んでいた本を閉じてこちらを見た。
『提案があります』
「ていあん?」
『はい。マスター、魔法の補助の為に、アビリティーやスキルを修得しませんか』
「アビリティーにスキル?それって、このあいだもりではなしていたこと?」
『そうです。今のマスターでいえば、魔眼や回復のアビリティーのことです』
「けど、きゅうにどうしたの、あんさらー?」
『いえ、マスターが火の魔法が成功しなくてがっかりしているようなので、アビリティーやスキルで補助というか、補正をかければ上手くいくのではないかと思いまして提案しました』
「そうなんだ。しんぱいさせちゃってごめんね、あんさらー。けど、ほせいって、なんなの?」
『補正というのはですね、魔法や肉体、アビリティーやスキルなどの効果を上昇させたり、低下させたりする効果の総称です』
「じょうしょうに、ていか?」
『はい。例えば、上昇なら魔力上昇や筋力上昇など。低下なら、魔法失敗率の低下や状態異常になる可能性の低下などがあります。また、これらはメリットですが、デメリットになる補正もあります。例えば、上昇なら不運上昇やトラブル発生率上昇など。逆に低下は、技の成功率の低下や身体能力の低下などがあります』
「へぇー、アビリティーやスキルにもいろいろあるんだぁ~」
『そうですね。でも、なかにはなんだこれ?といったものや、意味あるのこれ?といったものもありますので、いろいろあるのも良し悪しですけどね』
「そんなにへんなのがあるの?」
『変というか、例えば〇〇〇を食べて能力上昇という効果のスキルがあるのですが、その世界に存在しない食べ物だったり、あるいはそもそも食べられない物の場合もありまして、何故そんなスキルが存在しているのか、謎なことになっている世界も割とあるんです。それに、逆に条件を満たせる世界にそのスキルが存在しなかったりして、世界がどんな基準でアビリティーやスキルを作成しているのか、世界大全集の私にもいまいち理解出来ません』
「それは、いったいどうなっているんだろう?」
『答えは、マスターが暇な時にでも調べてみてください』
「うん。そうするよあんさらー。それで、はなしがズレたきがするけど、あんさらーはぼくにどうしてほしいの?」
『それは、先程も言いましたが、マスターには補助関係のアビリティーやスキルを修得してもらいたいのです』
「ぐたいてきにはどんなの?」
『マスターの属性関連のものですから、火・地・時属性を補助するものですね』
「そう。けどあんさらー、スキルとかってじょうけんをみたさないとダメなんでしょ?ぼくにできるようなじょうけんのスキルってあるの?」
『大丈夫ですよマスター。マスターにとってもらうアビリティーやスキルは、入手条件がわかっている世界では、マスターぐらいの子供でも修得出来ていますから』
「それならあんしんだね。それで、ぼくはなにをすればいいの?」
『そうですねぇ、マスターは修得するアビリティーやスキルの方向性に、何か希望はありますか?あるのなら、修得する順番を変えたり、いろいろ変更しますよ』
「ほうこうせい?」
『はい、生成・誘導・制御・操作・化身・投影・傀儡・自立・変遷、アビリティーやスキルには、属するカテゴリーによって扱い方に違いがあります。だから、マスターの希望に合わせて修得する内容をアレンジしますよ』
「うーんとね、じゃあこんなこともできる?」
そう言ってマスターは、自分の希望を話してくれた。
『ええ、可能ですよ。しかし、どうしてそんな内容にしようと思ったんですか?』
「えっと、ここさいきんあんさらーをよんでて、そんなおはなしがあったでしょ」
『ああ、ありましたね。あれはたしか?そう、地球系列世界と想思系列世界の話でしたね、マスター?』
「うん、そう!とってもおもしろくって、ワクワクしたんだ。だから、あのおはなしのひとたちのようなことができるなら、やってみたいんだぁ!」
『そうですか』
やはり、マスターくらいの子供の発想は自由ですねぇ。
けど、マスターの希望するアビリティーとスキルを全て修得したら、マスターは立派な強者になりますね。
『それでは、その内容で修得の順番を決めますよ、マスター』
「うん♪おねがい、あんさらー!」
そのマスターの返事を聞いた後、『私』はアビリティーとスキルの条件確認と、順番ぎめを開始した。




