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不可避なLIMIT  作者:
第四章 「TRUTH」
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第45話

 僕たちを襲う悲劇はまだ終わっていなかった。


 二回目の脱走を試みた時に天音さんが言っていた謎の男の存在を思い出し、小鳥先生にでも訊いてみようかと思っていた、仲間割れしてしまった日の翌日。


 また僕たちを震撼させる事件が発生した。それは大崎先生の授業中、勇くんの体が赤く光ったのだ。その時のみんなの表情には怯えしかなかった。高林くんの件を思い出し、自己防衛本能の備わる普通の人間なら赤い点滅を目にした瞬間、彼と距離を取ろうとする。大人しく席に座っているわけがない。


「嫌だ……! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない……」


 発狂したように瞳孔を見開き、ひたすら同じ言葉を繰り返す勇くんを前に、僕は一体どんな顔をしていたのだろう。恐怖と共に、彼を憐れに思っていたのかもしれない。高林くんは訳も分からず逝き、宮本さんは自分のお母さんに謝罪の言葉を紡いでいる途中で逝った。誰もが思う〝死にたくない〟という感情をダイレクトに口にしたのは、勇くんが初めてだったから。


 勇くんの前に座る天音さんはその場から動くこと叶わず、それを見た大崎先生に急いで腕を引っ張り上げられ、その場から離れた。後ろに座っていた一条さんは逆に急いで席を立って、教室の外へ走って行ってしまった。西園寺さんはその場に小さくなって目を背けていた。みんな赤い点滅を放つ勇くんを避けているように見えた。


 勇くんは同じ台詞を繰り返し叫びながら、何を思ったのか教室の窓に向かって突進した。宮本さんも早坂くんもいない窓側の席列には、僕しかいない。酷いことに、僕は近くにやってきた勇くんから咄嗟に距離を取るように席を立ち、教室の反対側へ逃げた。だけど勇くんは僕たちに一切目を向けることもなく、閉まった窓の鍵を開けようと手をかけた。


 その時だった、勇くんが散ったのは。


 窓ガラスは粉々に砕け散り、残滓が黒い煙の中でキラキラと舞う。近くの机と椅子は焦げ跡を残しながら吹き飛んだ。嗅覚なんてなければいいと思うほどの異臭、一瞬にして世界を黒く塗り替えるような惨状。


 また一人、僕たちの仲間がこの世から消えてなくなった。




「能力を使わなくても死んじゃうんだよね……?」


 天音さんが僕にそんなことを言ってきたのは、勇くんが亡くなって授業が中止となり、寮に帰る時だった。


 僕は彼女の問いに表情を曇らせた。天音さんが言っていることはきっと正しいと思っていたから。勇くんは自分の能力をひどく呪っていた。そんな勇くんが授業中に無意味に自分の能力を使用するはずがない。あれだけ死にたくないと思っていた勇くんが、能力の使用が死に関係していると知っていて使うはずがないのだ。ということは、能力を使わなくても爆発は訪れる。勇くんの爆発は、タイムリミットは自分で制御することができない、避けることができないということを証明したようなものだった。


「……そうかもしれない」


 苦々しく、僕はやっとの思いでそれだけを絞り出した。


「そっか……。透谷くん色々頑張ってくれてるのに、ごめんね?」


 苦笑する天音さんに、僕は怪訝な顔を向ける。


「何が?」

「わたしあんまり役に立ててないから……。透谷くんみたいに頭良くないし」

「僕別に頭良くないよ? 学校の成績なんて中の中だし、脳内沸点だって普通の人より低いから、この年になってもすぐ知恵熱出すし」


 天音さんはさっきの表情とは一転、可笑しそうに笑っていた。やっぱり女の子は笑っている方が断然いい。


「そうだ! この国家プロジェクトが終わったら、航輝と涼葉と栃木行こうって話してるんだ。天音さんも一緒に行こうよ!」

「栃木……?」

「そう。航輝の出身が栃木なんだ。だから栃木観光。航輝が案内してくれるって言うから」


 そう言うと、天音さんは凄く嬉しそうに微笑んだ。


「うん! 楽しみにしてるね」



 僕は小鳥先生に用があることを思い出し、天音さんと別れて一人購買へ向かった。


 ガラガラと音を立てて扉から中に入ると、小鳥先生は顔を上げた。


「今日は一体何の用ですの?」

「単刀直入に訊きます。ここに生徒と先生たち以外で誰かいますよね?」

「………………」


 無言。それが小鳥先生の答えだった。


「その人、どこにいるんですか?」

「………………」


 小鳥先生は教えられないことは言わないか、〝教えられない〟と言う主義である。謎の男が確かにこの地区のどこかにいるということまでは判ったけど、その先は自分で探せ、ということか。


「……小鳥先生、ありがとうございます」


 僕はお礼だけ残して彼女に背を向けた。


 少しずつ数の減った葉を付ける木々の間を通りながら、僕は謎の男の居場所を考えていた。正直、見つけるのはそんなに難儀なことではない。業者が再び来る時に校舎前を監視していればいいのだから。


 問題は、僕たちの中に内通者がいると判断して一人で向かうか、それとも仲間を信じてみんなで向かうか、だ。相手がどんな人物か判らない以上、行き先も告げずに一人で向かうのは危険である。しかし、仮に僕たちの中に内通者がいた場合、情報を伝えられて謎の男と接触できない可能性がある。どちらを取るべきか。


「誰かを確かめに行くだけなら一人で充分か……」


 僕は太い幹の間を通りながら、誰もいない空間で溜息交じりに呟いたのだった。

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