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不可避なLIMIT  作者:
第四章 「TRUTH」
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第44話

 涼葉に能力の話を打ち明けられてから、更に数日。やはり救助隊が来る気配はない。こうなって来ると、早坂くんの身が心配になる。


 だけど、残った僕たちは僕たちで違う問題を抱えていた。ここにきてとうとう仲間割れが始まってしまったのだ。


 事の発端は勇くんだった。常に無言の勇くんが生徒たちを部屋に召集したのだ。


 放課後、勇くんの部屋に入ってまず絶句した。家から持ってきたのか、部屋が黒い布で覆われていたからだ。異様な空気に腕に鳥肌が立つ。


「……勇くん、まず一つ訊いてもいいかな?」


 僕は顔を引きつらせながら、部屋中を見回す。勇くんが首肯したのを見て、僕は言葉を続けた。


「どうして真っ黒……?」


 勇くんは僕の言葉に反応して動きを止め、怒気を纏った言葉を僕たちに投げかけた。


「こんな能力呪われているだけだ! 普通の人間には発現しないんだからぼくは呪われている! 毒を以て毒を制す。呪いを解くためには呪いが有効に決まっている。こんな忌々しい能力ないほうがいいんだ! 今だってこの力のせいで死に直面している。ぼくはこの能力をずっと憎み闇に身を置いて自分を呪ってきた。だけど一向に効果が現れない。一体なぜだ!? なぜなんだ!?」


 狂ったように声を荒げ、僕に掴みかかるように僕の肩に力を入れる勇くん。体が揺れて長い前髪から一瞬瞳が覗く。それはまるで僕に助けを求めて縋っているようだった。


 体を激しく前後に揺らされても、僕から彼にかけられる言葉は何も見つからない。実際に能力者であることによって苦しんできた勇くんにどんな言葉をかけても、きっと薄っぺらい安いものにしか聞こえないと思ったから。


 勇くんは諦めて僕から手を離すと、嘲笑を溢した。


「……みんなはおかしいと思わないんだな」


 僕たちは内心で首を捻りながらも、勇くんに注目して動かない。きっと彼はここに僕たちを集めた理由をこれから話そうとしているのだろう。


「業者の車に乗って波止場に向かった時奴らが先回りしていた。ぼくたちがあの日波止場に向かうということが奴らにバレていたということだ。それはつまりこの中に裏切り者がいるってことじゃねえか!」


 空気が一瞬にして張りつめたものに変化する。各々が表情を見回し、探り合いが始まる。疑心が浮上し、メンバー内の信頼関係が一気に冷める。


 僕も一度考えたことだった。だけど、今まで敢えて考えないようにしていた。甘いかもしれないけど、この中にそんな人物がいるなんて思いたくなかったから。


「で、でもさ、波止場があることなんて僕たちみんな知ってたし、フェンスの向こう側に出たことを先生たちが知っていたのなら、向かう先が波止場なんて容易に想像できるんじゃない?」


 苦笑しながら宥めるように発言する僕に、勇くんの体が向く。


「もしそうならどうやってぼくたちがフェンスの外側に出たということが判った?」


 自分の言ったことが穴だらけなことは解っていた。勇くんの言う通りなのだ。


 僕たちはあの時、業者が鍵を開けてその場を離れた隙に外側へ出た。正々堂々フェンスの扉から出たのだ。それでバレたのだとしたら、僕たちの体に発信機が取り付けられていると考えるのが自然。でも、一体どこにそんなものを僕たち全員に……?


 それに、と勇くんが畳みかけるように続ける。


「仮にぼくたちがフェンスの外へ出たことが判ったとしても奴らがぼくたちより先に波止場へ着くことはできない。僕たちは業者の人間がフェンスの扉に鍵をかけるまで誰も通っていないことを見ている。奴らがフェンスの外に出ようとすればあの扉を通るはずだ。それにぼくたちが外へ出てから奴らが外に出て波止場に向かうよりぼくたちが波止場に向かう方が早い。違う場所のフェンスをよじ登って外に出るには時間がかかるしぼくたちは車だった。奴らが走ったところで車には敵わない」


 ぼそっと早口で説明した勇くんは、ここで一度区切って意地悪くにやりと笑った。


「ぼくはあれからずっと考えていた。この中に裏切り者がいるとすればその可能性があるのは誰かってな」


 勇くんの体が向く方に自然と視線が集まる。


「……一条愛加」


 名前を呼ばれて、一条さんが慌てたように目を泳がせる。


「一番可能性が高いのはお前だ。お前は人の心が読める。実はそう言っているが自分の考えを相手に伝えることもできるんじゃないのか?」


 確かにみんなが正直に自分の能力を話しているとは限らない。


「ちょっと! 何勝手なこと言ってんのよ!? あたし自分の考えを相手に伝えることなんてできないし! っていうか、何であたしがこんなヤバい状況で嘘つかなきゃいけないわけ!? バカバカしい。そんなこと言ったら、天音さんだって怪しいじゃない!」


 今度は天音さんにみんなの視線が向かう。彼女は体も表情も強張らせた。


「どんな音でも聞こえるし、聞き分けられるんでしょ? だったら先生たちは天音さんに接触しなくても、あたしたち生徒のことで探ってほしいことがあれば簡単に依頼ができるじゃない!」

「わたしそんなことしてない……」

「もう止めろよ!」


 泣きながら体を震わせる天音さんの横で、航輝が割って入る。


「先生たちがスパイに連絡を取りたいなら、天音さんだけじゃなくて一条さんだってやっぱり可能性あるじゃん! 相手の気持ちが読めるなら、相手の意向を汲み取れるって意味なんだから!」

「ちょっ……! 結局あたしが犯人だって言いたいの!?」


 一条さんが航輝の台詞に異議を申し立てる。航輝の言っていることは正しいけど、止めに入る者の発言としては間違っているな。これでは火に油を注いだようなものだ。


「みんな、ここで仲間割れをしても仕方ないよ。わたしたちが今すべきことは、早坂くんが助けを呼んで戻って来てくれるのを待ってることしかないんだから……」


 涼葉の言葉で言い合いが止み、彼らは頭を垂れた。だけど、それは彼女の言葉が強制終了の役割を果たしただけで、メンバー内に生まれてしまった亀裂を修復するものではなかった。

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