第43話
早坂くんが島から脱出してから数日が経つ。だけど依然、助けが来る気配がない。まあここは島なのだから、来るのに時間がかかっているのかもしれないけど。
あの日、先生たちは悔しそうに歯噛みしながら、早坂くんに支配された船を見送った。その怒りが僕たちに向けられるかと思いきや、意外とそうでもなかった。あっさりと僕たち生徒を捕獲し、見慣れたフェンスの内側へと連行した。
能力使用を抑えている今、僕たちの力ではどうすることもできない相手だった。実は違う業界の教師なのではないか、と思わせるほどに。
面白いことに先生たちの素顔が晒された今でも、いつもの教室で授業は行われている。みんなも他にすることなどないのだろうし、先生たちも僕たちに毎日測定器で検査をさせるためには全員を登校させる必要があったからだろうと思う。授業終了の度に測定を受けることが日課となってしまって、今では別にそのことに対して何の抵抗もなくなっていた。
「ねえ、ゆーすけ。ちょっと話があるんだけど」
涼葉が言いにくそうにそう伝えてきたのは、昼休みのことだった。不思議そうな顔をする僕に、彼女は一緒に屋上に来るように促した。
屋上からは色の失われた葉がひらひらと地面に落ちていく自然の様子が見える。風が吹くと少し肌寒い。
「話って?」
屋上の柵に組んだ腕を乗せる涼葉の隣で、僕も彼女と同じ姿勢を取った。
「ゆーすけ……」
掠れた声を出す涼葉は僕の方を見て切なそうな表情を浮かべた。
「わたし、自分の能力が判ったかもしれない……」
僕は目を見開き、息を呑む。とうとう涼葉まで……!
力強く涼葉の両肩を掴み、僕は彼女と視線を合わせた。
「涼葉、その能力って一体どんな……?」
「……前から少し変だなって思ってたの。時々凄く嗅覚が鋭くなるみたいで。ホントに突然そうなるの! だからまだわたしはコントロールできてないと思う。それにそんなショボイ能力じゃ、みんなの役にも立てなさそうだし……」
失礼だけど、確かにあんまり使えなさそう……。嗅覚が鋭くなるって、犬並みになるってこと……?
「……ショボイ能力ではないんじゃない? ……ほら! 事件に使用された凶器の臭いから犯人を特定できたりするし! 世界を平和にできる能力だよ!」
「……ゆーすけ、バカにしてんの?」
「………………」
半泣きの涼葉に僕は何も言うことができない。
「と、とにかく! 能力がコントロールできていないってことは、みんなより進行が遅いってことだから心配いらないよ」
さすが長い付き合いなだけあって、涼葉は僕の心の声を読むのが上手い。僕はボディーランゲージのように手や体を動かし、慌てて言葉を紡いだのだった。




