第41話
「!?」
こんな大胆な発言をする天音さんは見たことがない。僕は絶句する。
「家でお父さんとかお母さんとか車運転してなかった?」
「してたけど……」
「助手席に座っていれば、何となく運転の仕方って分かるでしょ?」
「いや、でも確かトラックってマニュアルが多いんじゃ……? ウチ、オートマだから……」
まだ業者の二人が戻って来る気配がなかったので、さっと運転席を見てみたが、やはりマニュアル。これでは運転方法など分かるわけがない。それに僕はまだ十七。あと二ヶ月くらいで十八になるとはいえ、まだ普通運転免許を取れる年齢でもないのだ。しかもトラックの場合は二十歳まで免許は取れなかったはず。無免許運転で事故など起こしたら、後ろに手が回る。だけど、そんなことを言っていられる状況でもない。無免許で捕まるとすれば、それは僕たちが生きて元の場所に戻れたら、の話だ。
「わたしの家の車、マニュアルなんだ。お父さんが車好きでね。だから、何となくなら分かるよ。エンジンをかけたら、足元真ん中にあるブレーキペダルを踏んでから、その左にあるクラッチペダルを踏む。ギアは左上のローに入れて、ハンドブレーキを下げて、足元右にあるアクセルペダルを踏みながら、それまで踏んでたクラッチペダルをゆっくり戻すんだよ」
正直、何を言われているのか全く解らなかった。だけど、さっき運転席を見た時キーが刺さったままだったし、必要に迫られれば運転せざるを得なくなるかもしれない。
難しい用語を前に頭を捻らせていると、向こうの方から業者の人間が戻って来るのが見えた。彼らは台車を押しながらフェンスの扉を通過。鍵をかけて、ケータイ型の機械を取り出して通信を始めた。
「もしわたしが爆発しそうだったら、構わず急いで走って逃げてね」
「天音さ……」
僕は途中で呼びかけを止めた。なぜなら、彼女は既に瞳を閉じて耳を澄まし、能力を発揮していそうだったから。無意識的に僕は両手を組んで、彼女の無事を祈る。
「……フェンスの扉を閉めたってことを話してる。相手は校舎の前くらいにいる男性」
男性といったら大崎先生しかいない。彼が何らかの通信手段を持っているのか。
「……だけど声は大崎先生じゃない」
「!?」
「聞いたことのない声……」
天音さんが何を言っているのか解らない。あの学校には僕たち生徒の他に先生が四名。しかも男は大崎先生だけのはず。だけど、こんなに耳のいい天音さんが大崎先生と他の人の声を間違えるはずがない。となると、今業者の人間と会話をした人物は一体誰なのか?
今すぐ走って行って確かめたい。だけど、そんなことをすれば計画は破綻。ここは拳を握りしめ我慢すべきだ。
能力を解除したのか、天音さんの体が、緊張が抜けたようにふっと軽くなる。
僕は彼女の体を見て大きく息を吐き、安堵する。点滅はない。
業者の二人は台車を荷台に戻し扉を閉め、運転席と助手席にそれぞれ乗り込む。扉が閉まるバタンという音を合図に、生徒八人が荷台に向かって走る。荷台の鍵を外し、女の子から先に乗り込む。徐々に車が速度を上げる。僕たち男子も急いで、何とか全員乗り込むことができた。
荷台の扉が開きっぱなしになったまま、トラックが夜の道を走る。これで漸くあの場から抜けられる。僕は遠ざかるフェンスを眺めながら、荷台に腰を下ろした。




