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不可避なLIMIT  作者:
第三章 「ESCAPE」
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第40話

 業者が来たのは午後七時頃だった。いつもなら食堂で夕食を食べている時間だけど、今日は木々に隠れ、全員でフェンスの扉を見張っていた。そもそも寮に戻っていないのだから、外出によるアラームをセキュリティシステムに鳴らされる心配はない。それに、水川先生と僕たちは夕食を共にしない。だから、生徒たちが一人も食堂にいなくても分からないはずだ。


 業者の人は二人だった。舗装された道路をトラックが走ってきたかと思うと、荷台から品物が詰められていると思われる段ボールを運び出し、台車に載せて扉の前に立った。そして、一人がポケットから何かを取り出した。僕は思わず、その物に目を見張る。


 ケータイ!?


 そんなはずはない、と自分のケータイに電源を入れる。やはり画面には〝圏外〟の文字が残酷にも表示されている。


 では、あれは一体何か? 暗くてよく見えないけど、普通のケータイより大きい感じがする。


 彼らがボタンを押して、それを耳に当てる。やはり機能は通信か。そう判断して、僕はすぐ後ろにいた天音さんに小声で話しかける。


「天音さん、あの人が何を話しているのか聞こえる? それと、あの人と会話している誰かもこの周辺にいたら判る?」


 会話している時しか、話の内容も話をしている相手も特定できない。時間がない。焦燥に駆られて僕は用件だけ天音さんに伝えるけど、彼女は慌てながらも渋るように困った表情のまま固まっていた。それを見て、僕は自分で言った言葉を思い出す。


〝爆発は各々が能力を使用した直後に起こる可能性が高い〟。


 そんなことを伝えた後では、能力の使用を躊躇しても仕方ない。僕は歯噛みしながら、彼らが会話を終えるのをただ見ているしかなかった。


 男が通信を終えるのは早かった。一言二言話した後、一度耳に当てていた機械を離す。それから数分して、再び耳に当ててまた何か会話を交わした後、今度はそれをポケットに仕舞った。


 今後はもう一人の男がポケットから違うものを取り出す。それに僕は再度目を見張った。


 このフェンスの扉を開ける鍵……!


 業者の二人は施錠を解き、品物を敷地の中へ運ぶ。彼らは不用心にも鍵をかけることもなく、購買へと商品を納品しに向かう。


 僕たちは急いで扉から外へ抜け出し、トラックの荷台へ入り込む。中に荷物はもうなかった。これでは彼らが台車を戻しに荷台を開けた時、隠れているのがバレてしまう。薄暗いとはいえ、人の存在があることくらい分かるはずだ。


 どうする……?


「ゆーすけは乗らないの?」


 僕の焦りを余所に、そんなことに気付かない涼葉が心配そうな顔を向ける。既に僕以外全員荷台に乗り込んでいる。鬼気迫ったこの状況で、みんな冷静な思考ができていないのだ。


「いや、乗るけど、業者の人が戻ってきたら荷台の中に台車を戻しに来るから……」

「あ……」


 初めて台車のことを思い出したと言わんばかりに目を見開き、落胆の色を見せる。


「じゃあどうするの……?」

「荷台の中がダメなら上に上るとか? だけど意外と高いし、上に上るんだったら勇くんか航輝の力が必要になるよね……。二人に爆発の危険を孕むことなんてさせられないから、業者の人が運転席に座ってから、急いで乗り込む他にないと思う」


 涼葉は、そうだね、と小さく呟いた。


 一度荷台に入っていたメンバーは外に出て、再び木の陰に隠れる。


「透谷くん」


 木の幹に隠れながら様子を窺っていた僕は、突然背後から声をかけられて驚いて振り向く。


「天音さん!?」

「わたし、業者さんが誰と話していたか聴いてみる」


 強い瞳を見せられて、慌てたのは僕だった。


「で、でももう通信は終わっちゃったみたいだし……」

「多分、さっきの通信は電流を止めるために誰かに連絡を取っていたんだと思う。だったら電流を再開させるためにももう一度連絡すると思う。だからそこで能力を使ってみる」

「でも、そうしたら天音さんが……」


 僕の脳裏に目の前で炎上した宮本さんが映る。もう誰にも死んでほしくない。それに、天音さんが能力を使用したことによって爆発してしまったら、僕は今後こそ本当の人殺しになってしまう。前回は僕が頼んだとはいえ、知らなかったこと。許されることではないのは重々承知しているけど、精神を正常に保つため、罪を和らげるための言い訳が立つ。だけど今回は違う。知っていて了承するのだ。それだけではない。天音さんが爆発してしまったら、業者の人がそれに気付かない訳がない。そうしたら今回の計画が水泡に帰してしまう。リスクが高かった。


「わたし、毎日怯えてるの。いつ自分が死んじゃうのかって。でも、そんな毎日嫌なの。ただ怯えて暮らす毎日を送るより、みんなの役に立って自分で死に時を選ぶ方がまだマシ。言葉は悪いけど、死んでしまえばこんな毎日から解放されるでしょ?」


 ポジティブともネガティブとも取れる発言に僕は絶句する。死に恐れる今の環境は、人の精神をこんなにも蝕み、追いやるのか。


「いや、いいよ。気持ちだけ貰っておく。天音さんが亡くなってしまった時のリスクの方が大きいし」


 だけど、天音さんは首を横に振った。


「わたしが仮に爆死しても、みんなには迷惑かけない。業者の人が気付いてわたしに気を取られている間に、透谷くんがトラックを運転して波止場まで向かえばいいんだよ」

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