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不可避なLIMIT  作者:
第三章 「ESCAPE」
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第38話

「元気になったのかしら?」


 購買の扉が開く音を聞き、本に落としていた視線を上げ、小鳥先生は僕を静かに見つめる。


「元気……にはなれませんよ。小鳥先生はどうなんですか」


 苦笑する僕に、小鳥先生は本を閉じてそれを横に置く。


「……世間話をしに来たのではありませんわよね。何を訊きにいらしたのですか?」


 小鳥先生の表情に笑いの要素は一切ない。真顔で淡々としている。相手がその気なら、と僕の纏う空気も少し違ったものに変化する。


「購買に設置された目安箱……。これは購買で売る商品をリクエストできるもの。大体一週間でここに到着する。それは、定期的に業者がやって来るタイミングとは別に誰かが納品しに来るということを意味する」


 小鳥先生は僕の話に相槌を打つことも表情を変えることもなく、ただ静かに僕から発せられる音を耳に通している。


「それと同時に、業者が来るタイミングでリクエストされた商品を伝えて持ってきてもらう、という方法を取っていないということも判る。一週間という短い期間では、本島に戻って商品を調達してから再びここに納品しに来るのは難しい。本部での手続きもあると言ってたし。つまり、この圏外区域から外部に連絡を取る手段があるということですよね?」


 俯いた小鳥先生の体が小刻みに振動している。僕は初め怪訝な顔をしていたけど、暫くして顔を上げた小鳥先生を見て絶句した。


「さすがですわ。目安箱の制度からそこまで推察するなんて」


 小鳥先生は笑っていたのだ。可笑しそうに薄らと目尻に溜まった涙を弾きながら。僕は虚を衝かれて狼狽する。


「透谷くんがお知りになりたいのは、ここから外部に連絡する術があるかどうか、ということかしら?」

「そうです」


 小鳥先生は腕を組んで考える素振りを見せる。それから少しだけ上品な笑みを含み、続けた。


「そうね……、回答としては〝教えられない〟かしら」


 僕はそれを聞いて、ニヤリと笑う。


「そうですか。教えてくれてありがとうございます。……あ、それともう一ついいですか?」


 小鳥先生は笑顔で、どうぞ、と促す。


「『人間の潜在能力における研究』って、僕たちに何か関係あるんですか?」


 目を丸くした小鳥先生は、次に溜息を漏らした。彼女は今の言葉で、僕が職員室に忍び込んで小鳥先生のデスクの中を覗いたことを悟ったのだ。更には、中身までは把握できていない、ということも。


「こんな場所に持ってくる物は少ないに限りますわ」


 必要ないものは持ってこない。この国家プロジェクトに関係するから持ってきた。小鳥先生はそう言っているのだ。


 小鳥先生は、大事なことは教えてくれない。それは、生徒に言ってはいけないという制約があるからだろう。だけど、嘘はつかない。彼女はどちらかといえば、僕たち生徒に好意的だ。他の先生方とは違って。


 僕はお礼を言って購買を出た。寮への道を辿りながら今の小鳥先生とのやり取りを整理する。


『教えられない』という小鳥先生の台詞。あれは、この島と外部とを繋ぐ何かが確かにある、という小鳥先生からのメッセージ。同じ質問を他の先生にすれば、そんな手段は〝ない〟というのが回答だろう。業者がリクエストされた品を届けるのに約一週間というのも、適当に言っただけだとか何とか理由を付けて惚けるのがオチだ。


 小鳥先生の言葉や反応から、僕が職員室で見つけた例の資料もやはり僕たちと関係あると見ていい。潜在能力という言葉がどうにも引っかかっていたのだが、きっとその研究のために僕たちがここに集められたのだ。


 これで再度ここから脱出するための準備が整った。翌日、僕は先生たちに悟られないように再び全員を僕の部屋に召集したのだった。

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