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不可避なLIMIT  作者:
第三章 「ESCAPE」
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第33話

 僕の部屋という狭い舞台。既にそこには役者が揃っていた。彼らは全員僕に注目している。口が僅かに開くその小さな動きさえも見逃さんと言わんばかりに。


「これから脱出の方法を提示する」


 その一言で、ただでさえ緊張に包まれていた空間が更に息苦しいものに変化したような気がした。息遣いが、鼓動が、何かが掠れる微かな音が、やけに大きく耳朶を打つ。


「僕なりに色々考えた。案は三つ。一つ目は、フェンスに流れている電気を止めるスイッチを探すこと」


 みんなは訳も分からず首を傾げていた。それもそのはず、僕以外あのフェンスに電気が流れていることなど知らないのだ。


 僕は前提として、フェンスに電気が流れていること、夜に寮から出ようとするとバレてしまうから脱走を試みるのは昼だということを話した。一人も出すまいとする、その拷問のような仕組みにメンバーは息を呑む。


「そのスイッチだけど、僕たちがすぐに見つけられるような場所にあるとは考えにくい。だから最初にそのスイッチを探すところから始めなくてはいけないけど、それだと時間がかかる。それに、この方法には更に幾つかデメリットがある。例えば、僕たちが仮にスイッチを押せたとしても、先生たちに再びスイッチを押されてしまっては元も子もない。スイッチが携帯型だったらそれを持って逃げてしまえばいいけど、この区画を囲っているフェンス全てに電流が通っているという規模を考えると、そのスイッチが固定型である可能性は高いと思う。つまり、先生たちからスイッチを守るために、誰か見張りを付ける必要があるということ」


 僕が話す間、誰も一言も喋らずに静聴している。


「購買には定期的に業者が商品を納品してる。その業者はあのフェンスを通って来ているはず。だからその時の様子を窺って、スイッチの場所を特定するヒントを得るのもいいと思う。でも、それには業者にここに来てもらわなくてはならない。業者は昨日来たばっかり。だから次に来るのは一ヶ月後。購買に置いてある目安箱に投書して、それが通ったとしても、一週間くらいはかかるらしい」


 僕はそこで、自分の発した言葉に首を捻った。ここは圏外区域。それにも拘らず、自分の欲しいものをリクエストできる制度がある。明らかな矛盾である。通信手段はないはずなのに、どうやって業者に意向を伝えているのか?


 そんな疑問が脳裏を過ったけど、今そんなことを考えても仕方がない。とにかく、今は脱出の方法をみんなに伝えることが先決だ。


「二つ目の案は、フェンスのスイッチを押さずに、九人全員でフェンスの向こう側へ行くこと。電気が流れている以上、フェンスに直接触ることはできない。フェンスの扉に付いている錠も同じ。金属でできてるから、錠にも電気が流れていると見て間違いない」


 僕はそこで一度区切って、言葉を続けた。


「三つ目、これが僕の推す案だけど、予め大きく三つのチームに分かれて、それぞれの役割を全うするというもの。フェンスの向こう側へ行って外に助けを求めに行くチーム。先生たちをフェンスに近づけさせないように足止めさせるチーム。電気を止めるスイッチを探すチーム。脱走するのは、あくまで外に助けを求めに行くため。だったら、人数は多くなくてもいい。むしろ全員で脱出しようとする方が途中で捕まる可能性もあるし、みんなが逸れてしまう可能性もあって、成功率が低いように思う。それよりも、数名の生徒が残って脱走していないと見せかけた方がいいし、仮に先生たちにバレたとしても時間稼ぎができる。先生たちを足止めしている時間を利用して、くまなくスイッチを探すこともできる。何か予想だにしない出来事が起きた時、やっぱりスイッチの場所を知っていた方がいい時が来るかもしれないから」


 全員が僕を見て首肯する。みんなから三つ目の案でいくことの了承を得てから、その詳細を話し始めた。


「まず脱出の仕方だけど、フェンスを飛び越える方法を取る。フェンスを飛び越えると簡単に言っても高さは約三メートル、そのもの自体には電流が通っているから触ることができない。そんな状況を打破して助けを求めに行ってもらうのが、航輝、勇くん、早坂くんの三人」


 僕に集まっていた注目が一気に三人へと移る。航輝は自分自身を指差して瞬きを数回、早坂くんは僅かに頷き、勇くんはいつも通り表情が読み取れなかった。ここで脱走チームは、その三人であるということがみんなに伝わる。


「勇くんは力をコントロールできる。だから、自力でフェンスの向こう側へ飛んでほしい。飛ぶ直前に踏み込む足に力を入れれば、高く飛べると思う」


 勇くんは無言で頷く。僕は続いて航輝に視線を移した。


「航輝は体重を極限まで軽くして飛んでほしい。その時に使用してほしいのが、シーツだ」

「シーツ……?」


 航輝は僕のベッドを指差しながら、目を丸くしている。


「そう、そのシーツ。それをパラシュートのように広げて空を翔け、上空からどの方向に人が住んでいるかを特定してほしい。風がなければ力の強い勇くんに宙に投げてもらって、その後はそのシーツを利用して飛ぶんだ。下からの風がある時に体重を軽くしたら高く飛べるだろうし、降りたくなったら体重を重くすればいい。そうやって外に助けを求めてほしい」

「わ、解った」


 緊張の面持ちで力強く首を縦に振る航輝。


「早坂くんは持ち前の素早さを活かして、いち早く民家に辿り着いてほしい。フェンスを越える際は勇くんに上空へ投げてもらって、航輝と同じようにシーツを使ってパラシュートの要領で着地して」

「解った」


 早坂くんは短くそう返事をした。


「ゆーすけ、わたしたちはどうすればいいの?」


 三人の説明が終わり、まだ明確に行動が示されていない涼葉が真剣な表情を向けてくる。


「足止めチームはそれぞれの先生に張り付く必要がある。都築先生には涼葉、水川先生には一条さん、大崎先生には西園寺さん、小鳥先生には天音さん。僕なりに相性を考えたつもりだけど、何か異論があったら遠慮なく言って」


 四人は異存なしといったように各々頷いた。


「残るスイッチ探索チームは僕と宮本さん。宮本さんは一キロくらいまでなら先を見ることができる。その能力を活かして、この区画に何か怪しいものがないかを視てほしい。遠くから校舎を視れば、誰にも気付かれずに内部を調べることも可能だろうし」


 宮本さんは珍しく悪態をつくこともなく、解った、と回答した。


 僕は一通り説明し終えて、一度その場にいる全員の顔を見回す。


「善は急げ。思い立ったが吉日。待っている時間は勿体ない。決行は明日の放課後。終礼終了が計画開始の合図だ!」

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