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不可避なLIMIT  作者:
第三章 「ESCAPE」
33/57

第32話

 僕は真っ暗で明かりのない寮への道を一人で歩いていた。


 明日は、ここを脱出する方法をみんなに提示する日だ。何としても明日の放課後までに策を練らなくてはならない。


 フェンスには電流が通っている。つまり、フェンスに直接触ることはできない。ゴムは絶縁体だから電気を通さないと言うけど、絶縁破壊という言葉を聞いたことがある。そうなったらまた感電してしまう。ゴム手袋くらいだと絶縁破壊が起きてしまうのだろうか。破壊電圧のレベルが分からない上に、体を張って実験してみる気にもなれない。それに、そもそもの問題としてゴム手袋なんて購買に売っていないし、トイレの掃除用具の中にもなかったはずだ。


 それはつまり、フェンスを触ることなく、フェンスの外側へ行かなくてはいけないということを意味する。それを可能にするのは、人間が通れるほどの穴を掘って向こう側へ行くか、三メートルの高さのフェンスを飛び越えるか、のどちらかしかない。


 でも、そんな前提があるにも拘らず、購買に品物を搬入する業者の人は感電していないし、初日にフェンスの扉を潜った時も都築先生は感電していなかった。それを考えると、どこかに電流を止めるスイッチがあるということ。それを探し出すという手もある。


 寮の自動ドアが開くと、そこには腕を組んで壁に寄りかかっている水川先生がいた。彼女は僕が中に入って来たことに気付くと、高いピンヒールでゆっくりと走り寄って来た。


「もう! 透谷くんったらやんちゃさんなんだから! こんな時間なんだから、早く寝ないと明日授業に集中できないゾ☆」


 疲れているせいか、もう何もツッコむ気になれない。


「分かりました。もう寝ます。おやすみなさい」


 僕は背後で、おやすみなさーい☆、と手を振る水川先生を感じながら、階段を上る。そして自分の部屋に入り、すぐにベッドの上に仰向けに倒れ込んだ。


 気絶していたお陰で睡眠はバッチリ。脳が冴えてきた。特に眠くもない。


 僕は時計を見つつ、午前三時頃になったら寮から出ててセキュリティを確かめようと目論んでいた。それまでは、どうやってあのフェンスの向こう側へ行けるかを考えることにした。



 午前三時。僕はバレた時の言い訳として夢遊病者を装うため、パジャマを着て部屋を出た。どこにあるかも分からない監視カメラに映ってもおかしくないように普通の歩きを意識しつつ、なるべく音を立てないように部屋を出て、階段を下り、寮を出る。


 夏の夜は静かだった。生暖かい風が草木をカサカサと揺らし、下弦の月が雲の合間から闇夜を仄かに照らす。


「何も起こらないか……」


 僕は一定距離離れてから寮の方へ振り返った。アラームが鳴っている様子はない。


 これなら夜に脱走できる。そう思って寮に戻ろうと近づくと、一つの人影に気付いた。それは寮の入口に立ち、こちらを向いている。


「――こんな夜更けに何してるのかしら?」


 相も変わらず白衣を纏った水川先生が僕に向かって微笑む。だけど、その笑みはいつもと違う。無邪気な笑顔を見せる水川先生らしからぬ、いやらしい、監督者としての微笑みだった。


 僕は彼女の表情諸共気付かないフリをして、焦点の合わない虚ろな瞳を保ちながら寮の入口へ近づく。そして、まるで水川先生がその場にいないかのような振る舞いで横を通過。そのまま自室へと向かった。


 無視して横をすり抜ける僕に水川先生は振り向いたようだけど、彼女はそれ以上何も言わなかった。上手く誤魔化せただろうか。


 僕はベッドに静かに横になり、ゆっくりと深呼吸をした。


 寮にアラーム機能はない。しかし、寮の管理者である水川先生の部屋には、誰かが寮を抜け出したことを知らせる何らか機能があると見て間違いない。


 夜脱出を試みるのはいくつかリスクがあると思っていた。一つは寮を出る際のトラップ。もう一つは、暗さだ。


 正面から寮を出ると水川先生が気付く。では、部屋からロープか何かで外に出る方法はどうか。恐らく、それも捕まると予想できる。生徒の夜間外出を感知するセキュリティ、フェンスに電気を流す徹底ぶりを考慮すると、どこからどのような方法で寮を出ようとしても、水川先生に知られると思っていい。


 仮に誰にもバレずに外に出られたとしても、月明かりしか頼る光がない。ここは新宿や渋谷などの眠らない都会とは違うのだ。懐中電灯があっても、足元が凸凹した森の中では速く歩くことはできない。それに、怪我をする危険がある。言い方は悪いけど、もし怪我人が出ればその人はお荷物以外の何者でもない。脱出の成功率は大幅に下がるだろう。


 そこまでのリスクを冒して夜に脱出する必要はないと僕は思う。むしろ、昼間の方が先生たちの目を欺けるかもしれない。寮のセキュリティや暗がりも心配する必要はないのだ。


 僕は大方整った脱走プランに表情を弛緩させることもなく、瞼をきつく閉じた。

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