第31話
体がヒリヒリと痛い。全機能が麻痺しているような、妙な感覚がする。
目を開けるとそこは、白すぎるほどの蛍光灯に照らされた保健室だった。目を細めながら、またここにいるのかよ、と嘆息する。
「おっ! 目が覚めたようだな!」
横には、心配してくれても嬉しくない大崎先生が。
僕は感覚が半分戻っていない体で、腕をベッドに付いて上体を起こす。右手の先がやけどしたみたいになっていた。
「……で、僕はどうしてここにいるんですか?」
僕が目を覚ましたことに対して安堵の表情を見せる先生に、僕は開口一番感謝の一言もない。だって、先生は全員敵役だから。それにしても僕、確かフェンスを触って気絶したはずだけど。
「透谷、お前運がいいぞ! ちょうど今日、購買に品物が搬入される日で、業者の人がフェンス付近で倒れてるお前を偶々見つけて、ここまで運んでくれたんだ。もしその人たちが品物を届けに来なかったら、お前まだあの場で横になってたぞ!」
それは確かに運がいいかもしれない。
「あの……、その業者の方は? お礼を言いたいんですけど」
「そんなもん、帰ったに決まってんだろ!? 今何時だと思ってんだ」
僕は言われて、自分の腕時計に目をやって驚いた。僕があのフェンスの前に行ったのは、午後四時頃。今の時刻は、午後十一時半だ。随分長い間、意識を失っていたものだ。
「あの……」
「何だ?」
僕は逡巡してから、大崎先生の瞳を真っ直ぐ見つめた。核心的な質問を一つしてみようと思ったのだ。
「ここを覆っているフェンス……、アレ触ったことあります?」
「いや?」
「アレ……、電気流れてません?」
「ああ……、そういえば流れてるって言ってた気がするな」
やっぱり流れているんだ。それよりも、大崎先生はこんなにペラペラと話してしまってもいいのだろうか。
僕が怪訝そうに大崎先生の表情を読んでいると、彼はそんなことを気にする様子もなく、にやりと白い歯を見せて顔を歪めた。
「だって、国家プロジェクト中に生徒たちが逃げ出したら、元も子もないだろ?」
「――――――!?」
何でも話すオープンで気さくな性格の大崎先生を少なからず信用している自分がいた。でも、その認識は甘かった。彼はやはり僕たちと敵対する人物なのだということが、今はっきりと解った。頭で理解はしていても、実際に大崎先生を心底疑うことができなかった自分の落ち度である。
都築先生同様、大崎先生も食えない人物だ。先に脱走の話を出して、それを考えているかもしれない僕たちを牽制しているのだ。相手側にはこちらの意図が丸見えということか。
僕は唇を噛みながら、それでも動揺を大崎先生に悟られまいと笑顔を見せつつ、気丈に振る舞う。
「……そうですね。生徒たちが逃げ出したら、折角多額の資金を投入して行われている国家プロジェクトが失敗に終わってしまいますもんね」
僕はベッドから立ち上がり、用意されたスリッパを履いて、保健室のドアをスライドさせた。
「でも……」
僕は半歩廊下に踏み出し、一度立ち止まる。そして僅かに首を捻り、大崎先生の顔を見ることなく言い放った。
「もしも生徒たちが逃げ出せたら、国の用意した脱走防止策を越えられた優秀な高校生ということになりますよね」
僕は大崎先生の表情を確認することもなく、失礼しました、とだけ言って扉を閉めた。




