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不可避なLIMIT  作者:
第一章 「UNKNOWN」
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第2話

 桜の花弁が舞う、始まりの季節。

 高校三年生になったばかりの僕は、ついに受験の年になってしまったかーと肩を落としていた。

 勉強は嫌いだ。たいてい〝ドラゴンサーチ〟や〝ラストファンタジー〟といったRPGを楽しむ毎日を送っている。


「ただいまー」


 そんな変わりない日常を送っていた僕を非日常の入口に引き寄せた、この日。


 僕は放課後の掃除を終えて、自分の家に帰宅した。木目の引き戸がある和風の一軒家だ。ガラガラと扉の音を立てて家に入り、玄関で鞄を放置。手洗いうがいを済ませてリビングへ向かった。

「あ、おかえり、悠介」

 出迎えてくれたのは、僕の大好きなばあちゃん。まだ四月上旬は冷えるからか赤色の半纏を着て、ゆっくりと立ち上がった。

「今お茶淹れるからねぇ」

「ありがと」

 僕は定位置の座布団の上に座る。ニュース番組が流れるテレビが左側にある位置だ。

 僕の家は両親共働きで平日は基本家にいない。僕には姉ちゃんが一人いるけど、もう結婚してこの家にはいない。どこにいるかといえばアメリカ。金髪碧眼のザ・外国人と結婚し、フロリダへ行ってしまった。

 両親が共働きのため、僕の面倒はずっと前からじいちゃんとばあちゃんが見てくれていた。だけど、じいちゃんは一昨年他界し、今ではばあちゃんが平日の昼間この家を守ってくれている。こんな事情があって、僕は生粋のばあちゃん子なのである。

 ばあちゃんが少し腰の曲がった体で、緑茶とカステラを用意してくれる。


「ゆうちゃん、そういえば、ゆうちゃんにどこかからお手紙届いてたよ」


 ばあちゃんは、ほら、と手紙を差し出し、定位置である僕の右側の席に腰を下ろした。

 僕は口に入っていたカステラを緑茶で飲み下し、ありがとう、と言ってそれを受け取る。


 それは白い封筒で、宛先に黒い明朝体で〝(とう)() 悠介 様〟と書かれていた。

 こんなにしっかりした封筒で僕宛に送ってくるなんて、一体どこのどいつだ? まさか新興宗教とか、そういう類じゃないよな? などと少しだけ勘ぐって封筒を裏返す。するとそこには、よくニュースや新聞で見聞きする名称が記載されていた。


「――――文部科学省……?」


 何となく嫌な予感がして、糊付けされている部分を素早くビリビリと破いた。綺麗に三つ折りされた一枚の紙を取り出し、広げる。そして、僕は無言のままその全文に目を通した。


「……ゆうちゃん、どうかしたのかい?」

 手紙を両手で持ったまま呆けた顔をして固まっている僕を見て、ばあちゃんが心配そうに覗き込む。

 暫く放心状態になってからばあちゃんの台詞を思い出し、僕はアホ面の口を徐に開いた。


「…………僕、国家プロジェクトの協力者に選ばれたみたい……」

「へぇ、ゆうちゃんは凄いねぇ。さすが、おばあちゃんの孫だよ」

「…………………………」

 にこにこと破顔させるばあちゃん。上手い切り返しが浮かばない。


 ばあちゃんは、きっと何も解っていない。こんな手紙、文科省が送ってくるわけがない! 何かの悪戯に決まっている!! そもそも国家プロジェクトって何だよ!? 滅茶苦茶怪しすぎるっつーの!!


 この手紙の内容が信じられず、文科省の名を語ってこんな悪質な悪戯をした奴を炙り出してやろうと警察に電話しようと思ったその時、更に信じられない出来事が僕を襲った。


『次のニュースです。本日文部科学省が発表した国家プロジェクトですが、十名の協力者の素性が明らかになりました。全員高校三年生で、ほとんどが東京都在住とのことです。協力者である高校生とその保護者には本日案内文が届くということです。国家プロジェクトの内容は……』


 スーツをバシッと着こなした男性アナウンサーがテレビの中で実しやかに原稿を読み上げる。いかにも、という感じのアナウンサーが話しているせいか、このニュースの原稿が悪いのか、内容が胡散臭く感じる。


「…………………………」

 絶句。僕はもう一生黙秘権を行使し続けるしかないかもしれない。


 そういえば保護者にも手紙が届くって言っていたな、と思い出し、今日届いた手紙の中から似たような封筒を探し出す。一つだけ、あった。裏返して差出人を確認する。予想通りだった。


「文科省か……」


 親展となっている以上、勝手に開けるわけにはいかない。仕方ないから夜まで待って、親に確かめることにしよう。


 残りのカステラを口へ放り込み、それを緑茶で流し込む。そして、例の手紙と封筒を手に持って、二階の自室へと向かった。

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