第28話
「約束通り、ゆーすけの考えを聞かせてくれる?」
放課後、僕の言った通り、全員僕の部屋に集合した。中央のテーブルを中心に、九人が所狭しと犇めき合う。
僕は一度ゆっくり息を吐いて、それから八人に険しい表情を向けた。
「これから僕が話すことは、あくまで仮説。だから正しいかどうか分からない。だけど、みんなに話すからには、それなりのロジックがある。信じられないこともあるかもしれないけど、取り敢えず聞いてほしい」
みんなは緊張の面持ちで、覚悟を決めたように次に僕から発される言葉を待っている。
「まず……、僕たちの体内には爆弾が仕込まれていると思う」
「――――――――――――――――っ!?」
突然語られた突拍子もない話に、全員目を白黒させて息を呑んでいる。きっと脳が僕の発した言葉の意味を理解するのに少々時間がかかっているのだろう。
「ちょっ……、あたしたちの体の中に爆弾が仕込まれてるってどういうこと!?」
一条さんが僕に掴みかかりそうな勢いで声を荒げる。僕は口元に人差し指を立て大声を出さないようにお願いした後、自分の仮説を彼らに披露した。全員静かに僕の話に耳を傾けている。
「……もしそれが本当だとしたら、いつどうやっておれたちの体内に爆弾を仕かけたって言うの?」
早坂くんの最もな質問に、僕もそこが分からないんだ、と口にする。
「体内に埋め込むんだから手術の時とか考えられるけど、僕は手術したことがない。簡単に体内に摂取できるんだとしたら、何かの飲料や薬というのが考えられるけど、僕たちだけが同じものを摂取するなんてそんなこと……」
僕は自分で話していて、ハッとした。僕たちだけが摂取した怪しそうなものがある。
「ここに来る途中、バスで配られたドリンク……」
全員の表情が瞬時に強張った。もしそれが爆死の原因だとすると、一定の期間体内に留まる爆薬のようなものが仕込まれていたと考えられる。そんなものあるのか分からないけど、実際人間が一人爆発しているのだから、信じられない、考えられないものなどなかった。あのドリンクを飲んだ後、僕は酷い睡魔に襲われた。それを考えると、あのドリンクの中には睡眠薬が含まれていたと考えられる。その理由は、恐らくこの場所を特定されたくなかったから。だけど睡眠薬の他に、爆薬の役割を果たす何かが含まれていたのなら、僕たちだけが爆死するという不可解な謎が解ける。そんなものを飲ませる理由は、能力者の抹殺といったところか。睡眠薬の機能にばかり目がいき、爆発薬には到達できないと高を括られていた……?
だけど、それだと一つ解らないことがある。別にそんな爆薬染みたものを飲ませなくても、致死量の薬を混ぜておけば、その場で全員お陀仏だったはず。すぐに全員が死ぬような飲み物を用意しなかったのは、全員がほぼ同時に飲まなかった場合、先に死んだ人間を見て恐ろしくなって飲み物を捨てた人物を殺し損ねてしまうという可能性を考慮してのことだったのか。
僕は腕を組みながらそんなことを考えていて、みんなの視線が自分に集中していることに気付かなかった。漸く顔を上げてそのことに気付き、僕は慌てて口を開いた。
「まあどうやって僕たちの体内に爆弾を仕込んだのかは分からないけど、今はそんなことを考えるより優先すべきことがある」
僕は話の向きを少し変えて、みんなに向き直る。
「僕は……運命を超えたい!」
「!?」
唐突に吐き出された僕の少し臭い言葉にみんな眉を顰める。でも、僕は至って真面目な顔で台詞を続けた。
「ここに集められたのは必然、つまり僕たちの運命だと思う。その運命はこのまま進むと、この場所で意味も分からず死を迎えることに辿り着くと思う。でも、僕はそんなの御免だ。だから僕は一度定められた運命を超越したい。ただ抗うんじゃなくて、僕たちが向かう残酷な運命を超えたその先に辿り着きたいんだ」
状況が状況なだけに、みんなは静聴してくれていた。彼らも僕の意思を汲み取り、同調してくれているようだった。
僕は自分の気持ちを伝えた上で、今まで自分の脳内で導き出した仮説を全て話した。
ここに集められたのは日本人の学力向上の糸口を掴むことなんかではないこと、僕たちは必然的にこの国家プロジェクトに参加させられたこと、それには東京というワードが関係しているかもしれないこと、都築先生に面談で殺人を匂わせる文句で脅されたこと、測定器が爆弾の経過を探るために用意された可能性があること、僕たちは近い将来に全員が死ぬ可能性があること、現状を打開する策はここから脱出すること……。
「だけど僕は、ここから簡単に脱出できると思っていない。そこで、みんなの保有している能力が必要になると思ってる」
僕の言葉に全員の体がピクリと反応する。既に僕にその力を話してしまっている航輝と天音さんは、他の者も能力者だということを知って驚きの表情を浮かべ、僕に話してはいたけど他の生徒にも能力があると何となく予想していた早坂くん、それと涼葉を含めた他の生徒たちは口を噤んでいた。
「薄々気付いていたかもしれないけど、僕たちはきっとその能力のためにここに集められた。しかも自ら爆死する可能性がある。つまり、その能力と爆発は何らかの関係性があると見て間違いない。因みに、僕と涼葉はそんな特殊な能力は持っていない。というより、まだ覚醒していない、あるいは気付いていないという表現の方が正しいと思うけど」
涼葉は他のメンバーの注目を浴びながら、戸惑い気味に首肯する。
「ここで能力の開示を躊躇するのは時間の無駄だと思う。全員で能力を把握し合って協力し、ここから脱出することを最優先に考えてほしい」
ピリッとした空気。音が響く要素のない部屋にも拘わらず、この声は妙に空間に通った気がした。




