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不可避なLIMIT  作者:
第二章 「SEEK」
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第26話

 とんでもない、きっと忘れたくても一生忘れることのできない出来事が起こったのは、夏の暑い日だった。蝉の音がジージーとうるさく、それが余計暑苦しさを際立たせ、鬱陶しい。


 僕たちに夏休みなんてものは存在しない。だって、夏休みといってもどこにも出かけられないのだから。その代わり、普通に授業があった。昔と違ってクーラーがあるので、平成の真夏の勉強はそれ程辛くない。しんどいとすれば、世間が休みだと判っていることからくる精神的苦痛だろうか。


 汗水垂らしながら登校し、キンキンに冷やされた教室に入って生き返る。とは言っても、登校するまでの間に木があることによって日光が遮られているし、川の流れる音は清涼感を与えてくれるから、灰色の都市で登校するよりは比較的楽だと思う。


 衝撃的な出来事が起こったのは、三時間目の日本史の授業の時だった。


 僕は都築先生が板書する文字をノートに書き写しながら、昨日やったゲームのことを考えていた。暇になることを見越して、いくつも新作ゲームを買い込んでいて正解だった。今のゲームをクリアしても、まだ次がある。


 そんなしょうもないことを考えながらペンを動かしていると、後方の席から声が聞こえてきた。前の席に座っている僕や西園寺さん、生徒たちに背を向けていた都築先生も声のする方に振り向く。そして、僕たちは全員瞠目し、息を呑んだ。


「何だコレ……!」


 中央列一番後ろの席に座っていた高林くんが、自分の両手を見ながら脂汗を滲ませて声を震わす。


 それもそのはず。誰も見たことがない現象がそこで起こっていた。高林くんの体が赤く点滅していたのだ。時間の間隔から見て、一秒おきだ。どういう仕組みなのか、高林くんの体に何が起こっているのか誰も分からない。みんな高林くんを見ているものの、思考が追い付いている者はおらず、混乱と戸惑いの表情を浮かべている。


ピ――――――――ッ


 耳を劈くような機械音がしたかと思うと、次に何かの爆発音が聞こえ、僕たちは爆風で目を開けていることはできなかった。何が起こったのか解らない。


 僕たちが次に目を開けた時、そこに高林くんはいなかった。代わりにあったのは、机、椅子に飛散した生々しい色の液体。そして、それと同色に染め上げられた何かの塊。僕は直感でそれが何なのかを悟る。地元の駅で人身事故の処理をしている人が似たようなものを回収しているのを見たことがある。


「いやぁ――――――――――――――――っ!!」


 涼葉や一条さん、天音さんが同時に悲鳴を上げる。他の者は、恐怖と混乱で声すら出せない。


 高林くんの席の半径一メートルくらいは爆風の影響で何もなく、近くにあったものは全て飛ばされていた。近くの席の者も飛ばされて壁に殴打されていた。


 隣に座っていた一条さん、宮本さん、前に座っていた航輝の白い制服は赤く変化し、最前列に座っていた僕の制服にも細かい血飛沫が付着していた。


 彼らの顔や髪にもそれらは飛んでいて、僕は無意識的に自分の頬を拭う。そして、薄らと赤く染まった手の甲を見て、僕は激しい吐き気に催された。咽返るような肉の焦げたような臭いと血生臭さ。一条さんなんかはその場で嘔吐していたし、勇くんは何も言わずに教室を飛び出して行った。航輝も口元を抑えながら教室を出て行った。早坂くんは僕の後ろの席で震えていたし、西園寺さんもぬいぐるみを強く抱きしめながら俯いて小刻みに震えていた。教室は見たこともないほど混沌としていた。


 一瞬にして世界が変わった。僕はこの凄惨な光景を前に勿論思考は回らず、ただただその場から逃げ出したいという思いだけが募っていた。

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