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不可避なLIMIT  作者:
第二章 「SEEK」
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第19話

 数日経って判ったことがある。それは、授業の割振りだ。


 例えば、体育や家庭科、音楽などの受験に関係なさそうな科目は小鳥先生が、化学、地学、生物の三教科は水川先生が、数学と物理は大崎先生が、国語、英語、地歴公民などの文系科目は都築さんが、それぞれ教えている。


 小鳥先生は購買レジ、水川先生は寮の管理人、大崎先生は保健室の先生を兼務しているのだから、都築さんが担任という仕事の他に講師をしていても不思議ではない。


 有名講師が授業をするとか言っていたのに、蓋を開けたら四人の人間で授業を回していて、しかも文科省の人間まで教えているとなると、さすがに僕と高林くん以外にも国家プロジェクトに疑問を抱き始めた生徒もいるに違いない。航輝なんかは、複数の教科を教えるプロだなんて凄いよな! とか言いそうだけど。



「それでは皆さん、今日の体育はドッジボールを行いますわ」


 小鳥先生が楽しそうに言うのを見て、僕は体育でドッジボールなんてやるっけ? と首を傾げる。今日は球技のためか、場所は体育館だ。


「先生がチーム分けをしましたので、発表致しますわね」


 小鳥先生がいつもの体操着姿で、ブルマからぐちゃぐちゃになったメモ用紙を取り出す。


「それでは発表します。Aチーム、天音さん、西園寺さん、重富くん、高林くん、宮本さん、Bチーム、勇くん、一条さん、片瀬さん、透谷くん、早坂くん。それでは外野を一人決めて、始めますわよ。因みに顔面に当てることを禁止するため、顔面セーフルールは適用されます。ボールに当たったら外野、外野の人は内野が一人以上当たった後にタイミングを見計らって内野に入ることができるというルールですわ」


 小学生ならまだしも、高校生になって男女混合でドッジボールとか、やり辛いと思う。女の子相手に強く投げられないし、女の子が投げてくるボールを簡単に取ってしまうのも何だか気が引ける。


 僕はそう思いながらAチームの女子に目を向ける。天音さんと西園寺さんは間違いなく通常の女子の部類だ。問題は宮本さん。剛速球投げられたら、きっと逃げるしかないな。男は航輝が運動神経良さそうだな。高林くんはきっと僕と同じ、運動は苦手タイプだろう……。


「誰が外野行く?」


 Bチームが集まり、涼葉が仕切る。今回外野は一人らしい。


 このチームの女子は涼葉と一条さん。一条さんの力は判らないけど、涼葉は強い。少なくとも外野に行くタイプではない。こういうのは、あんまり強くない人が外野に行きたがるけど、一条さんは立候補しないのかな? 手上げないなら、僕が外野に……。


 一条さんにちらりと目をやると、遠慮がちに手を伸ばす人物がいた。


「ぼくが行くよ……」


 一斉に注目が集まる。挙手したのは、細くて根暗で黒魔術(?)の勇くんだった。


「それではお願いします」


 涼葉が笑顔でそう言って、勇くんは外野に出て行った。


 仕方がない。彼も運動苦手そうだもんな。


 Aチームの外野も決まったようで、航輝が僕たちの後ろに来る。Aチームはきっと宮本さんと航輝でBチームのメンバーを挟み撃ちにする気だ。恐ろしい……。


「それではジャンプボールを行いますわよ」


 小鳥先生の言葉で、早坂くんと宮本さんが中央に相対する。


「始めますわ」


 小鳥先生が空高くボールを投げた。ボールは垂直に宙に浮かび、落下してきた。早坂くんと宮本さんがほぼ同時にジャンプする。


 そこまでは良かった。問題があったとすれば、次の瞬間だ。


 ボールは既にBチームの領域に入っていて、だけどメンバーは誰も動かなかった。というより、動けなかったのだ。だって、一瞬、早坂くんが消えたように見えたから。


 折角僕たちの陣地にやって来たボールは、誰も取ることなくそのまま航輝の元へ向かう。航輝はラッキーと言わんばかりに、やって来るボールを待ち構えていた。だけど、そのボールは彼に渡らなかった。構えていた航輝の前に、早坂くんが一瞬にして姿を現してボールをキャッチしたのだ!


 僕だけではない。航輝も、涼葉も、宮本さんも、小鳥先生も、そこにいた全員が目を見張り、自分の目を疑った。


 ジャンプボールをした人間が、そのボールを受け取るなんて普通有り得ない。やっぱり早坂くんも何かの能力の持ち主なのか……?


 僕たちのそんな驚きを余所に、早坂くんはAチームの高林くん目がけてボールを投げつける。女子を割けているあたりがジェントルマンだけど、僕はどうしても運動が苦手そうな高林くんに同情の目を向けてしまう。内野に一人だけの男子である高林くんは、格好の餌食だ。彼は顔を引きつらせ、向かってくるボールから逃げようと必死に動く。


 ボールが吸い寄せられるように高林くんの元へ向かう。抜群のボールコントロール。早坂くんは本当に運動バッチリだと思う。


 ボールが当たる鈍い音が響いた。早坂くんから繰り出されたボールは高林くんの体にヒットした……かと思ったら、その前に宮本さんが受け止めた。彼女は鋭い目つきで早坂くんを睨みつける。


「随分なご挨拶じゃんか。ジャンプボールしたその足でボールを受け止め、更に敵陣に向かって放つなんて。一体どういう技、使ったんだ?」


 宮本さんの敵意満々な台詞で場が静まり返る。言われた早坂くんは爽やかな表情を崩すことなく、微笑みを返した。


「別に大したことないよ。人より少し運動神経がいいだけ」


 はぐらかしとも取れる早坂くんの言葉に、不満そうに眉根を寄せる宮本さん。ピリピリと緊張が走る空気。


「そうか。みんなの前だもんな。そうペラペラと話せないよなあ? だったら一つだけ言わせてもらう。さっきのあんたの動きは人間離れしてる。そんなの誰が見たって分かることだ。それを敢えて隠す。怪しいことこの上ないな」


 宮本さんが嘲笑し、それに対して早坂くんは先ほどと同様の微笑みを崩さない。早坂くん、見た目に依らず食えない奴だ。


 そこで、パンッパンッと二回手を叩く音が体育館に響き渡った。小鳥先生だ。


「皆さん、ゲームに集中して下さい。授業中ですわよ」


 チッと宮本さんが舌打ちをしてからボールを外野の航輝に回し、ゲームが再開した。


 僕たちBチームの内野は、ボールから距離を取ろうと動き回る。やはりAチームは航輝と宮本さんでボールを行き来させ、内野の人間が疲れたりバランスを崩したりした時を狙って当てにくるつもりだ。


 悔しいことにその戦略は大きな効果を上げ、僕、一条さん、涼葉の順で当たってしまい、Bチームの残りの内野は早坂くんだけとなってしまった。Aチームはやはり高林くんが早坂くんから逃れることができず外野へ。それと、涼葉が当たる前に天音さんを当てたため、彼女も外野にいる。ジェントルマンの早坂くんは女子相手に強く投げられないのか、全て宮本さんに取られてしまっていた。


 こうなっては仕方ない。早坂くんがボールに当たればゲームオーバーだ。取り敢えず元外の勇くんに内野に入ってもらうしかない。あまり意味があるようには思えないけど。


 涼葉も同じことを考えたようで、ただ突っ立っているだけの勇くんに内野へ入るよう話している。勇くんは頷いただけで言葉を発さず、涼葉の指示に従った。


 トロい動きで内野に入った勇くんを狙って、すぐさま航輝が当てにかかる。残念なことに勇くんは早坂くんとは反対側にいる。早坂くんがさっきのような瞬間移動を見せなければ、勇くんが当たるのは必定。勇くんが運動できるようには見えないし、航輝のボールは勇くんに真っ直ぐ投擲されている。


 この状況。僕は唾をゴクリと呑み込んで見守っていた。このまま勇くんが当たってしまったら、可哀相なことに見せ場はなし。更にこのゲームにおける彼の存在意義もあまりない。


 勇くんは勢いよく投じられたボールに恐れ戦いたのか動く気配がない。鋭いボールが勇くんを襲う。


 あーやっぱり当たるか……、とか思って僕が目を細めたその時、誰もが驚く出来事が起こった。それは早坂くんの時と同等の驚き。


 なんと、あの勇くんが航輝の放ったボールを受け止めたのだ。細い腕はしっかりとボールを掴み、細い脚はその場から一ミリたりとも動いていない。まるで、ずっしりとその場に佇み、獲物を捕獲せんとする力強さ。僕たちは茫然と勇くんの胸の前で両手に挟まれたボールを眺めていた。


 勇くんは、受け止めたというより掴んだという表現の方が正しいそのボールを外野の涼葉に弱々しく回してきた。一体何が起こったのかと涼葉の反応が一瞬遅れ、キャッチし損ねたボールを取りに行く。


 僕は思わず目を擦る。涼葉に投げられた勢いのないボールを見ると、さっき勇くんがボールをキャッチしたという出来事が幻だったのではないかと思えてくる。


 結局、このドッジボールは僕たちBチームの勝利に終わった。外野にいた一条さんが西園寺さんを当て、涼葉が宮本さんを当てた。元外の航輝は奮闘の末、早坂くんにやられてしまった。因みに勇くんはあの後すぐに航輝からのボールを背中に受けて外野へ。結果、大活躍の早坂くんがいたBチームが勝利したというわけだ。

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